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水晶《せいれい》に選ばれし者  作者: 川初 流
2章 精霊書を求めて
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8話 クイナの調べ物

 さて、ようやく1人になれたことだし・・・他の用事を済ませることにする。

 火の精霊書(フレア・バイブル)は目的のひとつでもあるが、他にもこの街にいる間にやっておきたいことがいくつかある。


 神殿正面入り口、一般の火の精霊書(フレア・バイブル)見学列のすぐ横に礼拝堂の入口がある。さすがに空いていることはないが、待ち時間もなく中に入ることが出来た。


「マスター、ここ気持ちいいねぇ」

 さすがに神聖な空気、魔力も満ちていて精霊にとっては居心地もよいのだろう。

「あぁ、そうだね」


 観光客のような見物人から精霊を信仰し熱心に祈る人、多くの人があちこちにいる。

 そんな人たちを横目に突き当たり一番奥、人の顔くらいはあろうか大きなルビーが壁に埋め込まれているところまで進んだ。一般の来場者には触れられないように、少し離れたところに柵がありそれ以上は奥へ進むことが出来ない。


「わかってると思うけど、あの方の気配はないよ」

 コーラルが言うあの方というのは四大精霊の1人、ルビーのことだろう。

 祀っているといっても精霊たちがその場にいる訳ではないことはわかっている。


「うん・・・」

 瞳を閉じて、全神経をルビーに集中させる。

 ただの宝飾品ではあるが、それでもルビー。それもあの大きさなのだから何かしら繋がりがないか・・・


「・・・やっぱダメか」

 そう簡単に四大精霊の痕跡が追えたら苦労しない。水属性のサファイアならともかく、ルビーは相性も悪いだろうし。

 肩から力を抜いて、礼拝堂から出ることにした。


 次は・・・魔導図書館。神殿に隣接しているので、移動する手間も少ない。

「受付お願いします」

 入口で申込書をもらい、必要事項を記載する。


「・・・最奥、精霊書の書庫ですね。手持ちの武器、魔法具(マジックアイテム)は全てお預け頂く形になります」


 腰に差した剣と魔法具(マジックアイテム)一式が入った袋、そして水晶(オーブ)全て取り外し、指定された金庫へ入れる。受付嬢が鍵を閉め、その上から僕の魔力で封印する。魔力で封印といっても、本人確認の為の簡単なものである。こうしておけば他の人間には開けることが出来ない。


「コーラル、この辺で待っていて」

 さすがに図書館に火の精霊は厳禁だろう・・・彼の魔力であれば間違っても人間に捕獲されたりすることがないのはわかっている。いざとなれば本来彼らが住まう精霊界に身を隠すだろうし。


「はーい、いってらっしゃーい」

 センサーが付いた門を通り抜け、奥の扉へ向かった。

 扉を開けると魔法陣の書かれた石板があり、その上に乗ると目的の階層までワープされる仕組みになっている。

 この図書館には以前も来たことがあり、その時にある程度の書物は読んでいる。


 それでももう1度確かめたいことがあった。




・・・四大精霊の伝承、特にサファイアとルビーについて。そして、存在されていたとされる闇の精霊書(ダーク・バイブル)について。


 四大精霊についての本は以前も漁ったが、何か見落としがないか・・・ルビーは火の精霊としては有名だが、彼女は闇の属性も持っていることは多くは語られていない。


 この最奥の書庫は水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)の上位と神官の中でも位が高い者しか入ることが出来ないからそれなりに貴重な本が多い。ルビーについてこの図書館になければあとはセントラルにあるかどうか・・・


「うーん・・・ないか」

 ルビーが火と闇の属性を持っていること。ルビーが世界に降り立って起こした奇跡や災いの伝承。それも事実かどうかもわからない・・・それくらいしか見つからない。

 あとは明日見ることが出来る火の精霊書(フレア・バイブル)に何か手掛かりが書いてあればいいんだけどな。

 読んでいた本を書架に戻し、帰り支度を整える。


「ルビーに会えれば手っ取り早いのに」

 そう簡単に会えないから伝承しか残っていないのだろうけどさ・・・


「お疲れ様でした。金庫の開封をお願いします」

 受付まで戻し、荷物を手元に戻した。


「・・・コーラル?」

 この辺に置いていったはずのコーラルの姿も気配も感じることが出来なかった。

 迷子じゃあるまいし、どこにいったんだ・・・


 図書館を出て辺りを見渡してもコーラルはいない。水晶(オーブ)を使えば強制帰還もできるし、他の術を使えばどうにかなるとは思うが・・・そこまでのことではないだろう。

 火の気配も精霊の気配もあちこちにありすぎて、簡単には見つからなさそうだ。


 とりあえず付近の露店やショップを眺めながら、街を散策する。


「火の精霊コンテスト! 飛び入りも歓迎ですよー」

 近くのステージから大きなお兄さんが呼び込みをしている。


 精霊の強さ、美しさをステージ上で競い優勝者には賞品がもらえるという催しのようだ。

 自分には関係ない、と通り過ぎようとしたその時・・・

「あ。マスター、マスター!こっち、こっち」

 なぜかコンテストの受付に探していたコーラルがいた。


「何してるの・・・?」

「おねーさん、マスターきたから受付してして」

 人のことなどお構いなしに受付嬢にコーラルがお願いしている。


「えっと、この子のご主人様ですか? 先ほど参加したいときてくれたんですが、精霊だけでくるなんて、普通ないもので」


 そりゃそうだ。そもそも精霊がひとりで勝手に出歩いているなんてそうないだろう。それもこんなコンテストに参加したい、なんて・・・


「マスター、あれ欲しい」

 コーラルが欲しい、と言っているのは優勝賞品のところに置いてあるリングだった。

「何、あれ?」

「このコンテストの優勝賞品、ルビーのリングです」

 小さいものだが、赤い石がひとつだけついたシンプルなものだった。

魔法具(マジックアイテム)ではないよね・・・」

 特に変わったアイテムには見えなかったが、コーラルが欲しがるということは何かあるのか。


「マスター、あれ手に入れた方がいいよ」

 理由はわからないが精霊本人がそう言うのだから、面倒でも入手しておくべきか。


「わかった。すみません、受付お願いします」


 名前を告げ、横にある広場で簡単な魔力測定と精霊の審査を行われた。

 基準に満たないものはここで振り落とされるのだろう。


「お兄さんが最後だね!」

 どうやら受付時間ギリギリだったようだ・・・


「事前審査は問題なさそうだ。本選は10人の水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)で優勝を争ってもらう。5人の審査員には精霊の美しさ・術のすばらしさのそれぞれ10点、合計20点の持ち点があり、点数が高かった人が優勝だ」

「精霊って複数使用するのはありなの?」

 コーラルだけでも問題ないが、超美形かといわれれば正直いまいち。

「お兄さん、上位なんだね。もちろん火の精霊だったらオッケーさ!」


 さて、手持ちの火の精霊は6人・・・どうするか。派手にやってさっさと優勝してこの場を去りたい。


「審査は公平にするため、他の術者がステージに上がっている間は裏の控室で待機してもらうことになる。持ち時間は5分。お兄さんは最後だから、それまで待っていてくれよな」


 簡易で建てられた小屋に案内され、中にはいると9人の男女が精霊と共に待機していた。

 皆ガーネットやBランクの精霊を連れている。それなりの使い手なんだろう・・・

 簡易の幻惑効果も破られそうなので、再びマントのフードを深めに被った。


【ガーネット】

【レッドメノウ】

【ピンクトパーズ】

【レッドスピネル】

【ホーキサイト】


精霊召喚(クリスタライズ)


 隅の方でこっそりと精霊を呼び出す・・・が背後で9人全員がざわっとする気配を感じる。

 横にすでにコーラルがいるにも関わらず、更に5人の同時召喚をしたのだ。高位の術者なら驚くのも無理はないだろう。


「はい、集合。作戦会議を始めます」

 他人の視線を無視して召喚した精霊たちと打ち合わせを始める。

 後ろで声を掛けたそうな雰囲気を察したが、それを無視して話しかけるなオーラを出しておく。


 役割分担はこうである。ガーネットに炎を打ち上げさせて、メノウにその周りに小さな炎を飾らせ火の大輪を咲かせる。コーラルの幻惑をアレンジして、皆の衣装を煌びやかなものにし、ホーキサイトがステージ上で光の演出。トパーズは炎や熱気が外に漏れないよう全体の調整を行う。


「質問ある人ー?」

 全員問題ないようで、にこにことしている。

「じゃ、みんなで優勝するぞー」

「「「おー」」」

 優勝そのものにはそんなに興味はないが、賞品ゲットの為ちょっと頑張りますか。




 ・・・はい、結果優勝を頂きました。コーラル以外はすでに水晶(オーブ)に帰ってもらい、賞品を頂いて逃げるようにその場から去る。


 あーだこーだして、どーん!って様子、そんなもの省略です。複数召喚は他にもいたらしいが、さすがに6体はいなかったようだし、技の派手さも半端なかったので負ける気はしない。ただ、目立ちたくない・・・コーラルにはついでに自分への術もかけておきつつ、フードで顔は隠しておいた。

“クイナ・ロード”という名前が発表されただけで一瞬ざわついたが・・・クリアレンスの有名術者何してるんだ、って話である。


「・・・なぁ、あのクイナ・ロードが今この街にいるらしいぜ」

「まじかよ・・・」

 そんな会話がたまに聞こえるが他人の振りをして無視。

 そもそも『あの』って何のことなのか一度検証してやりたい。


「で、コーラルこのリング何があるの?」

 する予定でなかった目立つ行動をしたのもこのリングの為、手に入れた今でもこれが何なのか僕にはさっぱりわからなかった。


「・・・そのルビー小さいけどかなり古いものだよ。懐かしい香りがする」

 すると、過去それも伝説に近いくらい古い時代・・・四大精霊ルビーと縁があったとしても不思議がないものか。

「今は役に立つことないけど、持っていたほうがいいと思う」

 精霊のこういう直感は馬鹿にできない。大切に持っておくことにする。


「ありがとう。さて、そろそろいい時間かな。お腹も減ったしハルカたちと合流するか」


 気づけば約束の時間まであと少しといったところだ。

 暗くなった街の中、待ち合わせ場所である宿へ足を向けたのであった。

時間があったのでさくっと続きです。たまにはクイナのこいつつぇぇ感を出したくて全力を出していただきました。

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