7話 火の大精霊祭
グランティノ・シティはサウス・エリアの大神殿が存在する大都市。ただでさえ大きな街なので行き交う人も多いのだが、年に1度の火の精霊祭の時期は一般人から水晶精霊使いまで、多くの人で賑わっている。
それが今年は50年に1度開催されるの大精霊祭の年である。人が溢れているどころの話ではない。町の中を移動するだけでも一苦労しそうだ。
町の入る時に、マントについているフードを深めに被った。
「あれ、クイナさん?」
「人混みは苦手なんだ」
黒曜石のような真っ黒な髪、ルビーのような真っ赤な瞳・・・少女とも間違えられかねない容姿は嫌でも人の注目を浴びる。色々な人種がいるが黒髪、紅い目は自分と姉以外出会ったことがない。
黒髪は東に住む少数民族にもいると聞いたことがあるが、彼らは黒い髪、黒い瞳。どちらにしても目立つのだ。
「クイナ可愛いんだから自信持てばいいのにさ」
女の子じゃあるまいし、可愛いが自信になるわけないっ・・・
ハルカも目立つ顔立ちをしているが、本人は周囲からの視線は気にしていないようである。
「さて、お祭りを楽しみつつ、火の精霊書を見に行かないとね」
街の中はあちらこちら燃えていた。比喩ではなく、本当に燃えている・・・火の大精霊祭に相応しく、あちこちに立つ柱で大きな火が燃え上がり、さらには空にも炎が打ち上げられている。
それでも熱いと感じないのはこの熱気も全て何かしらの術でコントロールされているのだろう。何人でやっているのか知らないが、街にも人にも被害を出さずこれだけのことをするのは大変だろうな・・・決して自分ではやりたくない。火の大精霊祭実行委員(がいるか知らないけど)の皆様ご苦労様です。
「まず、大神殿に・・・」
街の中心にある大神殿にまず移動する。
魔術師や方術師もいるようだが、圧倒的に水晶精霊使いが多いようだ。何故わかるのかといえば、答えは簡単。
「皆さん、精霊連れて歩いているんですね・・・」
どんな姿だろうが、何をしていようが精霊が側に付き添っていれば職業なんて一目瞭然。
皆パートナーを呼び出し、共に精霊祭を楽しんでいるのだろう。
「それも火属性の子たちばかり。まぁ、火の大精霊祭だからね」
外見だけで全て判別できる訳ではないが、火属性の子たちは赤い髪や瞳、それに服や装飾品を身に着けていることが多いので、なんとなくそうだろうな、と当たりをつけられる。
「こんなに同業者がいるのもめずらしいよねー」
傭兵部隊や発掘現場ですらこんなに多くの水晶精霊使いに出会うことはそうそうない。
「確かに・・・」
ハルカの言葉に同意しながら、視線は周囲にいる精霊に向けて観察をしてみる。
使役可能な最高ランク、Aランクの火属性はガーネット。数名連れている人も見かけた。
「さてと、大神殿についたはいいけど。酷い行列だ・・・」
50年に1度だし、みんな見たいのはわかる。1ヵ月という期間があるものの大陸のあちこちから人が集まればそうなるよね。
「複写まさか1冊じゃないよね・・・」
「さすが複数あると信じたい。あ、すみません火の精霊書閲覧って」
列の最後尾に受付している女性がいるので声を掛けてみた。
「あ、水晶精霊使いの方ですか? こちらは一般の方の列になります。神殿右手に水晶精霊使いの方専用の受付がありますので、そちらでお願いします!」
さすがに職業優先してくれるようで少しほっとした。
「ありがとう」
女性にお礼を伝え、人混みをかいくぐって神殿右手入口へ向かう。
「火の精霊書閲覧をしたいのですが・・・」
右手受付で改めて申し込みをお願いする。その際に職業証明にもなる水晶を提示した。
さすがに水晶精霊使いのみともなれば列はたいしたことないようだ。しかも、しっかり閲覧できるように一人ひとり時間を定めてくれている。
「かしこまりました。本日の閲覧はすでに申込者多数の為、明日の閲覧となりますがよろしいでしょうか?」
「構いません」
「それではこちらにそれぞれお名前とランクをご記入ください」
受付用紙を3枚手渡され、1枚ずつハルカとカシズにも手渡す。
「明日の11時に改めてこちらにお越しください。時間を過ぎますとお待ち頂くことになるかもしれませんのでご注意くださいね」
時刻が記載された引換券らしきカードを受け取る。
「それと火の精霊をお持ちの方には召喚し、お祭りに参加していただくことを推奨させていただいてます。街中の魔法具店の割引やちょっとしたサービスなども行っています。ぜひ、火の大精霊祭を楽しんでいってください!」
なるほど、それで皆精霊を召喚していたのか・・・
普段は精霊を見る機会が少ない一般人や他業種の人も見て楽しめるし、街も盛り上がるし・・・なかなか面白いサービスである。
「わかりました、ありがとうございました」
一度受付から離れ、人の少ない神殿裏手側の方へ回る。
「なるほど。そんなサービスあるなら、誰か呼び出しますか。カシズ君は火の子いるのかな?」
「あ、ホーキサイトですが・・・」
照明しか使えないが一応属性は火であることに違いはない。ちなみにC・Dランクには光と闇属性の精霊は存在しない。
「じゃ、問題ないね。クイナはガーネット呼ぶ?」
「いや、コーラルにしておく」
「了解」
ガーネットを召喚してもこの祭りの中では目立たないだろうが・・・一応Bランクの精霊にしておくことにする。
それに同じ属性の精霊であっても得意な術分野は異なる。今回はコーラルの方が都合がいい。
【ガーネット】
【コーラル】
【ホーキサイト】
【【【精霊召喚】】】
3人の声が重なり、それぞれの精霊を召喚した。
「あちこちで火の気配がするね。楽しそうだ」
ハルカのガーネットは元気で少し気が強そうな女の子。ハルカととても相性が良い。
「火の大精霊祭だからね、みんなで楽しもう」
「・・・マスター、よろしくー」
コーラルは火のという割には大人しいというかぽーっとした男の子。頼りにはなるんだけど、どこかつかみどころがない。ぺこっと挨拶をすると、そのまま僕の左肩に座る。
「ガーネットとホーキサイトも久しぶり」
「クイナさーん、ご無沙汰!」
以前、ハルカと旅をしていた時にガーネットとも面識がある。
「先日はお世話になりました」
ホーキサイトは丁寧に頭を下げてきた。
火の精霊が3人・・・見事に三者三葉の性格だ・・・
「コーラル、薄くいつもの張っといてもらえる? 目立ちたくないから」
「マスター、了解ー」
火属性には幻惑の術も多い。コーラルはガーネットよりも幻惑の術を得意とする。
本気になれば存在すらわからないようにすることもできるのだ。
「目立たなければそれでいいから」
人の視線に留まりにくくする、それだけであれば術の発動すら必要ない。
「なるほど・・・」
ハルカがコーラルを呼んだ訳がわかったようで、隣で納得している。
が、カシズといえば・・・まったく理解していません、といった顔でこちらに解説を求めている。
「カシズ君、精霊たちは同じ属性であっても得意分野は異なる。例えばここにいる火属性の精霊で言うと、ガーネットの方がランクは上だけど彼女たちは火や炎を使った攻撃や熱気の操作を得意としていて、コーラルはそういった攻撃よりも幻惑系を得意としているんだ」
視線を無視しようと思った矢先、面倒見のよいハルカが解説を始めてくれた。
「もちろん、ガーネットがその手の術を使えない訳ではないけど、得意分野をしっかり把握して使い分けることによって自分にも精霊にも負担なく最大の効果を発揮することができるから、せめて自分の持っている子たちだけでもきちんと把握しておくといいよ」
「なるほど、ありがとうございます!」
「基本的なことは中級の精霊書も載っているけど、精霊によっては好みもあったりするからちゃんと自分の精霊たちと話すこと!」
「はい!」
元気よくカシズが返事をしたところでお勉強タイム終了~。
「じゃ、とりあえず別行動でいいかな?」
「あれ? クイナどこか行くところあるの?」
てっきり3人で行動するものだとばかり思っていたハルカは不思議に思い、尋ねてきた。
「ちょっとね・・・」
「夕飯は一緒に食べようよ。8時くらいに宿で待ってるからさ」
予約してあった宿を確認したら偶然にもハルカと同じ宿だったのだ。
「わかった、それじゃまたあとで」
そのまま2人に背を向け、神殿の正面に移動する。
コーラルもいるから安心してうざったいフードを脱ぎ、再び雑踏の中へと戻って行った。
クイナのガーネットも出してあげたかったのですが、またいずれかの機会で・・・