6話 奇妙なトリオ結成
暖かい日差しを浴びて、目的地であるグランティノ・シティへ向かう街道を歩いている。もう間もなく、街道沿いの小さな休息所に到着する予定だ。
先日の騒ぎで減った魔力も回復したし、体力にもそこそこ自信があるのでそんなところで休まずさくさくと進みたいところだが・・・
「クイナさーん、歩くの早いですよ・・・」
疲れてきたのか足取りが遅くなってきたカシズが後方から情けない声で呼びかける。
本来2日もあれば到着すると見込んでいたのだが、思わぬところで時間をくってしまった。
「・・・君が遅いんだよ」
特にペースを上げた訳でもないし、元々歩くのも早い訳ではない。これくらいでついてこれないとはなんとも情けない。
「ほら、休息所につくよ」
小さな小屋が2棟、ようやく視界に入ってきた。
こうして街道を行く旅人が使う宿屋と食事処だけが存在している。
この休息所を出たらその先、僕が目指すグランティノ・シティとカシズが向かうウェリア・シティは道が分かれる。つまり、カシズとの旅もここまで、ということだ。
最後くらい付き合ってやるか、という気持ちでこの休息所に立ち寄ることにした。
「いらっしゃーい!」
食事処の扉を開けると、小さい割には客も多く活気づいていた。
元気なおばちゃんウェイトレスが出迎えてくれた。
「ミントソーダとレッドベリーの盛り合わせ。カシズは?」
「コーヒーとナッツクッキーで」
空いている席に座り、飲み物と軽食をオーダーした。
「はぁ、これでもうクイナさんとはお別れだなんてさみしいです」
「・・・あ、そう」
元々旅の途中でたまたま盗賊から助けたり、発掘にまで付き合うことになったが・・・
悪い奴ではないのだが、弱いし、頭も弱いし・・・はっきり言えば足手まとい。
「次にお会いする時にはもっともっと強くなって、立派な水晶精霊使いになるので、その時はまたパーティ組んでください!」
「そんな機会があればね・・・」
運ばれてきた飲み物を口にしながら、カシズの会話に付き合う。
「相席いいですか?」
店内が混んできたらしく、横の席に他の客がやってきた。
「どうぞ・・・って、ハルカ・・・?」
「クイナ、久しぶり。こんなところで出会えるなんで運命だねぇ」
隣に腰掛けた金髪美形の顔は知っているものだった。
「お姉さん、コーヒーとベリータルトお願い・・・そっちは今の旅のパートナー君かな?」
ハルカはオーダーを終えるとカシズに視線を向けて、笑顔のままさりげなくチェックをしている。まぁ、カシズはその視線の意味に気づいていないだろうが・・・
「たまたま少し前に知り合って、道中方向が一緒だからここまできただけ。この先は別だし、パートナーって関係でもないよ」
「カシズ・ナラシュマと言います。クイナさんにはお世話になっていました!」
「ハルカ・ルーシュランドです。少し前にクイナとは旅をしたことがあるんだよ」
自己紹介をしている間にハルカの注文したものもテーブルに並び、3人仲良くおやつを食べながら会話をしている。
「クイナたちもグランティノ?」
「僕はそう。カシズはウェリア・シティに行くらしいから、ここでお別れ」
「そうなの?ここまで来たならグランティノに寄って行けばいいじゃん。カシズ君だって水晶精霊使いなんでしょ? それとも他に急ぎの用事でもあるの?」
「いえ・・・特に急いでいる訳じゃありませんが」
この様子だとカシズはグランティノ・シティで今何が行われているか知らないようだ。
「あのね、今50年に1度の火の精霊書の一般公開がされているんだよ」
このサウス・エリアは火と闇を司る四大精霊ルビーの加護の下にある。グランティノ・シティはルビーを祀る大神殿があり、火の精霊術やそれに関係する記録などが書かれた精霊書が保管されている。
それが50年に1度の火の精霊祭の期間一般にも公開されているのだ。水晶精霊使いなら1度は見てみたい、と思う書物なので今の時期グランティノ・シティにはこぞって集まっているはずである。
会話から察するにハルカの目的も当然、火の精霊書だろう。
「実際は公開といっても複写した本のはずだけど、内容は本物だからね。やっぱこれは見ておくべきでしょ」
「そうなんですねー」
「だから、カシズ君もグランティノ行こうよ」
さすがに火の精霊書の名前くらいは知っていたようである。カシズは悩み素振りをしながら、チラリと僕に視線を向けてくる。ついていってもいいのか、悩んでいるんだろうな・・・
「カシズが見たいなら好きにすれば」
「じゃあ、もう少しご一緒させてください」
空気を読んで投げやりに答えるとカシズはぱぁっとという表現がぴったりなくらい瞳を輝かせて食いついてくる。
「・・・どうぞ」
おやつも食べ終わり、さっぱりとしたミントソーダを飲みこむ。
グランティノ・シティは目と鼻の先だし、ちょっとお祭り騒ぎだろうがそう問題が起きる訳もない。どうやらハルカも一緒に行動するようだから、カシズのことは押し付け・・・いや、面倒を見てもらおう。
「ハルカはひとりなの?」
「いや、今は剣士のパートナーと一緒なんだけど。火の精霊書には興味がないと言ってね、先に南の城の城下町に向かったよ」
相変わらず自由気ままな性格をしているようだ。少しばかりパートナーの剣士さんに同情する・・・
「という訳で、グランティノには3人で向かうとしよう!」
わかりやすくハルカは火の属性。熱いなぁ・・・反する水属性の僕とは本来相性が悪いはずなんだけど、不思議と不快感もなく上手くなじむ性格をしている。
そういえば、カシズの属性はなんなんだろう。まぁ、戦闘力も期待できる訳でもないしいっか・・・
「じゃ、そろそろ疲れも取れただろうし、出発するよ」
「クイナ、ご馳走様」
語尾にハートマークが見えたような気がした。この愛嬌の良さ。本当にうまいよな・・・
仕方がなく、3人分の支払いを済ませて休息所を出る。
「あの、クイナさん・・・お支払いを・・・!」
カシズはおろおろとしながら、お金を取り出そうとする。
「これくらいいいよ。まったく・・・2年振りに会ったとは思えないくらい相変わらずだよ、ハルカは」
口では悪態をつきながらも思わず笑ってしまう・・・でもそんな自然体なハルカが昔から好きでだからこそ長い間、旅も一緒にすることができた。
「成人したらそうそう性格は変わりませんからね」
明るく楽し気に、ウィンクまでサービスで送られる。こんな美形にウィンク飛ばされた日にはそりゃ誰でも落ちるだろう・・・
「まぁ、そんなものだよね」
「あと少しとはいえ、何時間か街道を歩くわけだし楽しくいこう」
一人旅がよほど退屈だったのか、ハルカはうきうきしながら歩き始めた。
「せっかくだからカシズはハルカに色々教えてもらうといいよ。こう見えても知識も強さもそれなりだから」
「こう見えても、は余計。クイナには及びませんがこれでもレッドの階級だから、それなりに教えてあげられるよ」
おや、前に旅した時はブルーだったと記憶しているが、あれから更に発掘したり強くなったりしたのか・・・それはそれで嬉しくあり、楽しみも増えた。
「ありがとうございます、ハルカさん!」
面倒見の良いハルカにカシズを任せることが出来たし、もうすぐ到着するであろうグランティノ・シティで触れることが出来る火の精霊書に心を向け再び街道を進むのであった。
登場人物とかいくつかの流れは拾いつつ当初の2章とはがらっと内容を変えてしまったので、短くちまちまあげていきます。