3話 カシズ精霊ゲット!
薄暗い洞窟の中・・・僕の仕事も終わったし、大きな危険もないであろう。
それにしても付き添いというのは暇である。
「いつからカシズといるの?」
目的地を必死に探すカシズは放っておいて、のんきにホーキサイトとおしゃべりしながら歩いていく。
「そうですね、1年程ご一緒させてもらってます」
長時間ふわふわ飛んでいるのも疲れるかと思い、自分の肩を提供する。
宿主の前ではあるが、ホーキサイトも遠慮しながらも僕の肩に腰かけた。
「カシズと一緒だと大変なことも多いんじゃないの」
「いえいえ、クイナ様に比べれば魔力は低いのは当然ですが・・・我が主も努力家で優しくて本当に素敵なマスターなんですよ」
「宿主に似ず、素直で本当にかわいいね・・・」
「ちょ、クイナさん、それどういうことですかー?」
思っただけのつもりがついうっかり口に出てしまった。
少し前に歩いているカシズが振りむきながら突っ込みを入れてくる。
「はいはい、カシズは前を向いてポイントを探すのに集中しなさい。僕だって早くこの町を旅立ちたいんだから」
カシズは呑気におしゃべりしている余裕はないはず。というかそんな無駄な時間があるならとっとと発掘を終わらせるべし。
「あっ、もしかしてあっちですか?」
目的地のかなり近くに来た為、カシズでもわかったのだろう。
ポイントの魔力をようやく感じ取ったようで、駆け足で進み始める。
「あった!」
探索時間約2時間。まさか1つのポイント探しにここまで掛かるとは思っていなかった。付き合ったことを今更ながら後悔する・・・
「ホーキサイトは僕が魔力で支えていてあげるからそっちに集中しな」
今更自分の子を呼び出すのもなんである。それに、カシズのホーキサイトも宿主前に他の子に役目を取られるというのも可哀想だ。
「そんな事出来るんですか?」
他人の精霊を使役するということは全くできないことではない。ただし、使用魔力は自分の精霊よりも多くかかるし、宿主や精霊の意思が敵対していないこと、細かく言えばそれだけではないがとりあえず普通はそう簡単にはできません。
「できる場合もあるんです。ほら、さっさと終わらせて」
ホーキサイトに視線を向けると頷き、こちらに力を預けてくれる。魔力を与えて彼女を支え、カシズから主導権を奪った。
【精霊交渉】
カシズの足元に魔法陣が出現し、淡い光を発した。この地にいる精霊との交渉タイムである。
「・・・君が呼んだの?」
光の中に少年・・・いや精霊が現われた。
「僕はグリーントルマリン。君の力を見せてもらうよ」
トルマリンの中でも木属性の力を持つグリーントルマリン。ランクとしてはC。今のカシズでは契約に至れるか怪しい・・・
トルマリンはカシズの水晶の中に飛び込み、審判が始まる。
「グリーントルマリンかぁ・・・」
彼は飛び込む前にこちらをちらりと見てきた。彼らにとって僕の存在は無視できないようである。
「・・・マスター、頑張って」
ホーキサイトは胸の前で手を組み、祈るように呟いた。
時間にして数十分、トルマリンは再びカシズの前に姿を現した。
「正直お断り・・・とも思ったけど、彼に免じてサービスしてあげる」
僕にちらりと視線を向け、少しため息交じりで合格の旨を告げてきた。
やっぱり少々力不足だったか・・・だが、サービスであろうがなんだろうが一度契約してしまえばこっちのもの。あとは使いこなせるかは術者次第なのだから。
「契約完了。必要な時は呼び出してね」
トルマリンは原石となり、カシズの手の上に降りてきた。そしてそのまま水晶の中に入っていった。
「や・・・やったぁ。クイナさん、3人目と契約できました!」
「おめでとう。それよりも早くホーキサイト支えて」
ホーキサイトと手を取り喜んでいるが、そんな彼女を支えているのは僕。宿主なんだから早くバトンタッチしてほしい。
きっと僕が支えていたことなんてすっかり忘れているに違いない。
「あっ、すみません」
ホーキサイトの主導権をカシズに戻し、一息つく。
洞窟内なのでいまいち感覚はないが、おそらくすでに日付は越えているだろう。早く帰って宿で休みたい。
【ムーンストーン 精霊召喚】
手早く自分の精霊を召喚し、帰還準備を行う。
「洞窟の入口までお願い」
行きに召喚した時に帰還ポイントには目印をつけておいた。彼女であればすぐにその場へ移動が可能である。
「お任せください、マスター」
【点移動】
目の前が一瞬歪んだ、と思ったら目の前には空が広がっている。何事もなく、洞窟の入口まで戻ってきた。
カシズは何がなんだか訳のわからない様子で周囲を見渡す
「あ、あれ?」
本当は置いてきてもよかったのだが、今回はサービスで連れてきておいた。
そして役目の終えたホーキサイトは頭をぺこっと下げるとカシズの水晶の中に戻る。
「移動しただけだよ。洞窟入る時にムーンストーンにお願いしておいた」
さっさと宿に・・・と思ったが、ぐらりと体が傾き、慌てて右足に力を入れて倒れるのを防ぐ。体もそろそろ限界のようである。
「マスター、宿まで私がお運びします」
ムーンストーンは心配そうに僕の顔をのぞき込んできた。
「・・・っ」
完全にガス欠だ・・・昨日消費した魔力を回復せずこんなことをしていれば当然といえば当然の結果である。ちょっと甘くみていた。
「クイナさん!」
「・・・大丈夫だってば」
カシズが僕を支えようと手を伸ばしてきたが、やんわりとお断りする。
しっかりと気を張っていれば倒れることはない。
「カシズさん、一緒に移動しますのであまり動かないでくださいね」
ムーンストーンは僕とカシズの体を魔力で宙に浮かせるとそのままゆるやかに移動を始めた。ゆるやかといっても馬で走るよりはゆっくりかなーというレベルである。
こんな田舎町夜が更ければ通りには人がいるはずもなく、誰にも遭遇することなく町に入り、宿への道を移動する。
ムーンストーンは僕には負担をかけまい、と自らの魔力を商品している為か若干苦しそうな表情をしている。かわいい精霊にそんな苦しい想いをさせたくないのに・・・
気づけば宿に到着し、カシズと共に地面へ降り立つ。
「・・・ムーンストーン」
手を差し出し、僕の魔力を与えた。
「マスター!!」
魔力を差し出したことに対し、ムーンストーンが反論しようとするが、口元に指を差し出し、それ以上の言葉を封じる。
「今更これくらい変わらないから・・・ありがとう」
御礼を伝えながらムーンストーンを水晶の中に戻した。
「カシズもここだろ?僕は明日一日たぶん寝てるから、邪魔だけはしないでよ・・・」
小さい町なので大きい宿屋はここ1件しかない。おそらくカシズもここに宿泊しているだろう。
宿に入ると深夜でもあるがきちんと宿屋のマスターが出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ」
「マスター、一泊延長お願い。それと明日ジュリアスという人から僕宛に荷物がくるはずだからそれを代わりに受け取っておいてもらえる?」
「かしこまりました」
追加の宿代に気持ちばかりのチップのもせてマスターへお支払いをしたらそのまま部屋へと向かう。
部屋にはいってすぐ身に着けているマントや装飾品を取り外し、その場に放りだし、ベッドに身を沈めた。
気を抜いたらもう意識を保つのも限界である。
・・・目が覚めたらラピスあたりにまた怒られそうだな・・・
そんなことを思いながら深い深い闇へと意識を落としていった。
本当はもう少しつながっていた部分があったのですが、ちょっと間にいれたいストーリーができたので短いですが、ここまでで一度区切ってアップしました。