23話 タンザナイト
ハルカの精霊の力を借りて、吹雪の中やっとのこと北の洞窟へ辿り着いた。
自分たちの周りの気温は調整してもらったが、足元につもった雪はそのままなので歩きにくくて仕方がない。
氷の精霊を使えば道くらいは作れるだろうが、これから何が起こるかわからない中で無駄な魔力を使うことも出来ない。
「さて、目当ての洞窟はここだね」
洞窟の中は自然の状態のままでとてもじゃないが歩きやすい道ではなかったが、何十cmも積もった雪道よりは全然ましだ。
「ラピス、何か感じる?」
北の洞窟を提案したラピスに聞いてみるとはっきりと頷き、奥へと視線を向ける。
「マスター、やはり仲間の気配を感じます。ただ、それだけではない何かも・・・」
たしかに、何かしら奥にいそうではあるのだが、どうにも邪気は感じない。
あれだけ人間に被害が出ているので、もっと違うものを想像していたのだが、おかしい。
「とりあえず、道はまっすぐな訳だし。奥へいきますか」
ハルカのホーキサイトに明かりを任せ、洞窟の奥へと足を踏み入れる。
これだけ気温も低い状態が続けば、通常の動植物は存在していない。
道が複雑な洞窟でもないので、特にすることもなく黙々と歩き続けた。
「・・・この先だね」
「あぁ・・・」
先日共に行動していたどこかの初心者とは違い、ちゃんとハルカはわかっていたようだ。
「ここが原因とは考えられそうにないけど、少し寄っていいかな?」
ここには何もない、それくらいは感じることは出来る。
精霊が集う召喚ポイント・・・それも通常よりもかなり濃度が高く、聖域に近い。
こんなところで何かが起きているとは思えない。
「うわ、こんなポイント初めて見たよ」
「そうそう見つかる場所ではないよね。この手の場所は1度人に見つかると精霊たちが住処を引っ越すから、あとから行ってももうなかったなんてこともあるしね」
何度かこういう場所に出くわしたことがあるが、どこも後から同じ場所に行ってもすでに聖域は消え失せていた。
「ちょっと交渉してくる」
【精霊交渉】
術を使う前から、微かではあるがひそひそとした精霊たちの囁きが聞こえていた。
何人かの氷の精霊が近くに来ては契約について声を掛けてくれる。
けれども、今回は新しい契約をしたい訳ではない。
「来い、タンザナイト・・・!」
うねる精神の中で魔力を振り絞って、僕のタンザナイトを喚び出す。
「・・・ナ・・・」
遠くから僕を呼ぶ声が聞こえた気がした。
こんな不安定な空間で、人間が自分の望む精霊を喚び出すなんて無理なことかもしれない。
それでも、このくらいやらなければ僕は自分の精霊たちを取り戻すことは出来ない。
「・・・イナ・・・」
近くまで来ている気がする・・・
魔力がどんどん吸われていて、体から力も抜けてきた。
「頼む・・・タンザナイト・・・」
「・・・クイ、ナ・・・」
目で見ている訳ではないのに、光が見えた気がする・・・
「・・・クイナ!」
来た!と感じ、その光を強く握りしめる。
飛ばしていた意識を現実の身体に戻し、目を開くとそこは洞窟の中だった。
「クイナ、ただいま」
ラピスではない精霊の気配を傍に感じ、視線を向けるとそこには〝僕の″タンザナイトがいた。
ほっとしたことで、力が抜けてその場に座り込んだ。
「おかえり。そして、ありがとう」
「さすがに、アクアマリン姉さんは喚べなかったな」
タンザナイトが笑いながら自身より唯一上のランクであるアクアマリンの名を出す。
氷の精霊の最上位は四大精霊を除けば、アクアマリンだ。そして、タンザナイトはそれに次ぐBランクの精霊・・・
「君を戻すことすら無理かと思ってたよ」
「場所も良かったし」
ここの力も借りることができたので、Bランクである彼を喚んだ。
もっと厳しい現場だったらCランクかDランクでないと難しかっただろう。
「クイナ、お疲れ。私もちょっと挑んでみようかな。こんな場所、なかなかないしね」
「相性悪いだろうけど、ここならきっといい子に会えるんじゃないかな」
火属性のハルカにとってはいいチャンスだろう。
この洞窟は確実に氷の気配しかしない。
氷の気配が強い洞窟だと闇や水、風属性の子も会えることがあるのだが、さっき潜ってみて本当に氷の気配しか感じなかった。
【精霊交渉】
まだまだ何も解決はしていないし、この洞窟の奥には何かがある可能性もある。
それでも、今だけはこの聖域でタンザナイトが帰ってきたことに安堵し、ハルカの交渉をただゆっくりと見守っていた。
仕事が忙しくて気づいたら2ヵ月経ってました・・・
そしてやっとラピスの次の子を回収したクイナ君。早くパワーアップしてもらわねば。




