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水晶《せいれい》に選ばれし者  作者: 川初 流
4章 白銀に閉ざされし山
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番外編1 夜空への願い〜クイナ&アス〜

お正月のスペシャルSSです。

ちょっと過去のお話になります。

「もうすぐ新しい年になるけど、クイナたちは何か特別なことはしてたの?」

氷の季節も間も無く終わり、新しい年に切り替わろうとしていた。


1年は花の季節、火の季節、風の季節、氷の季節の4つの季節に分かれており氷の季節が終わると次の年になる。

地域によっては新年のお祝いや儀式をするところもあるみたいだが・・・


「僕のところは特には。無事今年も過ごせたことを感謝して、精霊にお供えを置いて姉さんと祈るくらいでした」


村に行けば露店がでてたり、少しは新年らしい催しもあったのかもしれないが、姉さんと静かに暮らしていた為、そういう行事には無縁だったのだ。


「人間たちはもっと色々やってるもんだと思ってたよ。まぁ、僕らも特別何かある訳じゃないけど」


師匠は人間ではない。精霊・・・それも四大精霊のひとり、エメラルドである。

むしろ人間に祀られたり、祈られたりする側だ。


「師匠に手を合わせれば、新しい年も良い年になるんですかね」

「そんなこと知らないよ。自分の幸せは自分の手で掴みとりなさい」


案外リアリストである・・・


「まぁ、せっかくの新年な訳だし。新年1日くらいは稽古は休みにしてあげよう」

・・・たった1日か・・・


「ん? なんだったら、休みなしにしたいのかな?」

心を読まれたかのように鋭い突っ込みが入る。

慌てて首を横に振り、取り繕う。


「いえ、ありがとうございます、師匠」

「アスで良いってゆってるのに・・・」


見た目は子供に見えるが、当然魔力も術も人間なんかでは、太刀打ちができない存在である。


昔、困ったことがあればこの人?を頼るように、と消えた母から書き置きがあった。

ただし、力が必要になった時・・・人に迫害されることになれば・・・とも書いてあった。


姉さんはもっと詳しく何か聞いていたのかもしれない。


村の人たちもうまくやっており、静かに暮らしていく、と姉が言っていた時はこの人の元へ来ることなんて全く考えていなかった。


「クイナ、今日中にその精霊の術、全部発動できるようにしておいて。そうしたら、夜は近くの町まで出かけよう」


簡単に言ってくれるが、今まで精霊を使ったり、術を使ったり、といえ生活とは無縁だったのだからそうすぐにできるものではない。


「・・・わかりました」

けれども、この人の元にきて早数週間。

返事はこれ以外は受け付けてもらえないことはわかってる。


日が暮れるまであと数時間。一緒にいた精霊と死にものぐるいで修行に励むことになったのだ。



「よくできました」

にこやかな笑顔と共に合格点がもらえた時は魔力は尽きかけており、体力も体そのものもズタボロだった。


アスは右の手のひらを広げ、こちらに向けると回復の術を行使する。

柔らかな光が体を包み、体が癒される。


「じゃ、町に行こう」


アスはこうしてよく人間のフリをしてお忍びで町に遊びにいっているようだった。

魔力を抑え、子供のフリをされれば誰も疑うことはない。


子供っぽいフリをしているアスを見ると面白いを通り越して怖い。

子供扱いをする町の人たちの言動にヒヤヒヤしてしまう。


「クイナ、ほらこれ」


町の中心部につくと、大きな篝火があり人々が囲んでいる。


「なんですか、これ?」

横にある露店で売っていたらしい小さな革袋を受け取り覗き込むと少量の粉が入っていた。


「この地域の人は精霊に祈る時、その粉を火にくべて願いを込めるんだそうだ。せっかくの新年だし、祈っていけよ」


「.・・・はい」

なんとも複雑な心境ではあったが、周囲の人の動きを真似して、粉を火に降りかかるようにくべる。

すると、火のついた粉はまるで金粉のように輝き夜空に登っていく。


星空が更に輝きをまし、地上と夜空が結ばれるような幻想的な情景だった。


多くの人がたくさんの粉を夜空へと送り出し、空は輝き続ける。

あの日以来、何かに対して綺麗だとか楽しいといった喜ぶ感情は機能していなかった。


それなのに・・・


「・・・綺麗だ」


ほんの少しだけ凍りついていた心が温かくなった気がした。


「だろ? そうやって、生きてることを感じないと。強くなるだけがすべてじゃないんだよ」


なんだか涙が出てが出そうになった。

けれど、人前で泣くようなことはしたくないのでぐっと堪える。


祈るという行為のことはすっかりと忘れて、その美しい夜空に魅入っていた。


「さて、あとは夜店で美味しい食べ物でも買って帰ろう」


アスに袖を引かれ、そこで、意識を取り戻したかのように慌てて篝火から離れた。


まだ楽しく生きることは考えられそうにないけど・・・

多分姉さんは復讐よりも、生き残った僕に幸せに生きることを願ってくれる人だったから。


復讐の気持ちは消せない・・・でも。こうして何かを感じることは思い出しながら生きていかなけらばならないんだな、と感じたのだった。


新しい年は心も体も強くなりたい、そう強く夜空に願い、誓った・・・

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします!

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