2話 悪霊退治!?
目的の鉱山は町のはずれ、徒歩30分と言ったところだろう。
「うわー、中真っ暗ですね」
到着すると、ただでさえ暗い洞窟が夜の闇で更に不気味に見える。カシズは洞窟の中を覗き込みながら体を震わせる。
「ホーキサイト使えるんだろ? 松明ぐらいの役目は果たせるだろうし」
魔力温存というよりかはカシズのレベル上げに協力した。
「あっ、はい」
【ホーキサイト】
カシズのオーブからホーキサイトの原石が出てくる。
【精霊召喚】
カシズの子より僕のホーキサイトの方が絶対可愛い。(宿主贔屓ではなくマジで!)
けれども精霊は基本的に見目麗しく可愛い存在である。瞳が大きく、金色のくるくるとしたセミロングの可愛い少女が召喚される。
【照明】
・・・にしても、遅い!!ひとつひとつの動作が苛立つ程遅い。
ようやく明かりが照らされ中の様子がわかる。
「行くよ」
中に足を一歩踏み入ようとしたその時・・・
「・・・待った!」
背筋に悪寒が走った。中にはかなりの悪霊がいるのだろう。以前来た時とは比べ物にならないほど瘴気に満ちあふれている。
「予想以上に瘴気がきつい」
僕が先頭で本当によかった。というか、この悪霊退治に金貨3枚じゃ誰もやってくれないぞ・・・下手したら自分の命が危うい。
【ネフライト】
【ムーンストーン】
自分1人ならともかく足手まといが2人。安全の為、2体同時に召喚を試みる。
【精霊召喚】
「いつも精霊使い荒いよな、お前~」
「はいはい、すみませんね」
ネフライトは人型になると同時に不満を漏らすがそれに構わずにさっさと術を使う事にする。悪いやつじゃないんだけど、口うるさい。
ムーンストーンはくすくす笑いながらその横で待機している。
【風結界】
同じ風属性のトパーズでもよかったのだが、ランクとしてはネフライトの方が上。使役者が同じなのであれば、当然ランクが上の精霊の方がより術も強いものになる。なんだかんだ文句を言いながらもきちんと役目を果たしてくれるので、今の状況であれば用心するにこしたことはない。
「ムーンストーンは周りの警戒と雑魚は任せる。頼んだよ」
闇属性を持つ悪霊は光属性の攻撃に弱い。ムーンストーンに任せておけば雑魚なら問題ない。
人型にしておけば僕の命令もすぐに実行可能だし、何より自らの意思である程度は行動してくれる。
「2人も出したままで魔力持つんですか?」
「このくらいなら別に」
そもそも当たり前のように召喚しているが、この2人はBランクにあたる精霊。Bランクを複数所持しているうえ、同時召喚なんて荒業そんなことできる人は限られる。
「結界張ったから中に入るよ。そっちこそホーキサイト長時間出しっぱなしで魔力尽きました、とか言って倒れないでよね」
「大丈夫ですよ」
流石にそんなことはないだろうが万が一のこともある。だが、これで倒れたらマジで水晶精霊使いを辞めることをおすすめする・・・
そして結界を纏ったまま洞窟の中へ足を踏み入れた。
「カシズって発掘って何回目?」
発掘といっても単なるアイテム捜索のことではない。水晶精霊使いにとっての発掘とは自らの精霊を取得する為の儀式でもある。
もちろん僕は数え切れないほど発掘を行ってきたし、今回のように発掘以外の目的で洞窟に入っていく事も多数あった。それにここの鉱山もいままでに何度か訪れた事がある。
「まだ5回目です。けど、こんな悪霊うようよしてるなんて・・・」
のほほんと地図を見ながら他愛のない会話をして歩いている間にもムーンストーンは数え切れないほどの雑魚を消し去っているし、結界がなければカシズやジュリアスには耐え切れない瘴気が充満している。
「とりあえず、悪霊が出てくる大元の穴がどこかにあるはずだからそれを塞ぎに行くよ。こんな瘴気の中で精霊を探すにはさすがに僕でも大変だからね」
できなくはないが、召喚ポイントを探すのも一苦労なうえに、精霊との交渉するのはカシズなんだから悪霊うようよいたら集中なんて出来やしないだろう。
「ところで、瘴気ってなんで発生するんでしょうね・・・」
「はぁ、あのさ・・・」
今更そんな言葉が出てくるとは思ってもみなかった。
一般人ならばともかく、水晶精霊使いを名乗るのであればもう少し勉強をしてから出直してこい、と口から出かかった言葉を飲み込んだ。
「人間に害があるってことは知ってますが・・・」
「瘴気ってのは悪霊とか悪魔とか早い話が魔族ってわかるよね? そいつらが出す気の事だよ。だから悪霊数匹くらいの瘴気では普通の人間もなんだか空気が変だな、くらいしか思わないけど今回のように数が多かったり、レベルが高かったりすると、防ぐ術や耐久力がなければ死に至る可能性もあるんだよ」
カシズ同様ジュリアスも僕の話を聞き感心している。
「げっ」
瘴気の濃くなる道を選んで奥に進んでいくと悪霊より位が高い下級悪魔であるレッサーデーモンが飛び出してきた。ランクは低いとはいえこんな所で悪魔に出会うとは思いもしなかった。
「なんですか、こいつ!?」
さすがに悪霊との違いはわかったらしいがこいつがなんだかはわからいようで、カシズは驚きの声を上げた。
「レッサーデーモンだよ。名前くらいは聞いた事があるだろう? 1匹とはいえ、出てくるとは思ってもいなかった」
驚きはしたが、たった1匹では僕の敵ではない。足手まとい2人というハンデもあるが、そんなのたいしたことではない。
「デ・・・デデデ、デーモンですかぁー!?」
悪霊ですら脅威に感じていたカシズは当然パニクっている。こっちは色々考えてるのに横でギャ-ギャ-騒がれては邪魔でしょうがない。
「ネフライト、僕がムーンストーンを使役中この結界を頼んだよ」
他の術を使っている間にうっかり結界が壊れてしまえば僕はともかくカシズとジュリアスはやばい。魔力を多めに与えて念のための強化を図る。
「はいはい。わかってるよ、マスター」
「ど、どうするんですか? 逃げたほうがいいんじゃないですか・・・!?」
レッサーデーモンは警戒しているのか様子を見つつ、こちらを牽制している。
逃げられなくはないだろうが、そもそも逃げる必要すらない。
「そんな面倒なことする訳ないだろ、ここなんとかしなきゃいけないのに・・・」
「でも、応援とか呼んだ方が・・・」
「うるさいなぁ。足手まといは黙ってて」
視線はレッサーデーモンに向けたままカシズを黙らせる。
向こうも観察が終わったのかにやりと微笑むと雄叫びをあげてこちらに炎の玉を投げつけてきた。
「うわぁぁーーー!」
カシズは叫び声をあげてしゃがみ込むが強化された結界の前に炎は難なく打ち消される。
これくらいの攻撃ならネフライトに任せても大丈夫。安心して意識をムーンストーンの方へ向けた。
「ムーンライト、君の力を借りるよ」
魔力を与えて意識を同調させる。ムーンライトはやわらかく微笑み、頷きながらしっかりと敵を見据える。
ついでに、レッサーデーモンの奥に発生ポイントらしき空間も見つけた。倒すついでに浄化してしまえば一石二鳥。
術を使う為、自分だけネフライトの結界の外に出ると肌がちくちくするような感覚に襲われる。魔力をコントロールして、自分の周りに薄い防御壁を張る。
『うぉぉぉぉぉ』
レッサーデーモンは攻撃対象を僕に定め、長い爪で攻撃をしかけてきた。腰の剣を抜いて裁きながら、タイミングを見計らう。
こちらの攻防を見たカシズが慌てた様子で何か叫んでいるようだが風の結界に阻まれて何を言っているかさっぱりわからない。
当然この場には悪霊だってわらわらいるので、邪魔なやつらからムーンストーンを使って消滅させていく。
「ムーンストーン!」
ある程度雑魚が片付いたところで傍にムーンストーンを呼び寄せた。
「闇に身を置くものよ。我が光の力を受け、汝の在るべきところへ還れ!」
【聖光柱】
ムーンストーンの力を凝縮させて、聖なる光の柱を出現させる。
目標はもちろんレッサーデーモン。だが、ついでもある・・・
【解放】
アレンジを加え、レッサーデーモンを滅した光の柱をそのまま空間に解き放つ。
光はあたり一帯に広がり悪霊はもちろん、発生ポイントまでもしっかり浄化してくれた。もちろん、ここに満ちていた瘴気もすっかり消え失せて綺麗な空気になっている。
「ふぅ」
脱力すると同時に風の結界も解いた。
「ネフライト、ムーンストーン・・・ありがとう。お疲れ様」
2人はそのまま水晶へと戻っていく。
「クイナさーーん!」
結界を解いたことにより、カシズがこちらに向かって飛び出してきた。
「大丈夫ですか!? さっきのは何だったんですか!?」
「・・・うるさい」
一気に魔力を放出したからか頭まで痛くなってきた・・・
「それにしても見事に浄化させたな」
それまで黙って見守っていたジュリアスがまわりの様子を見ながら近寄ってくる。
「念のためほころびていたところは強化しておく」
すっかり浄化されてなくなったように見えるポイントだが、一度綻びた空間はまた何かのきっかけで穴が開く可能性が高い。僕の魔力で補強しておけばそう簡単には破れないだろう。これくらい精霊を呼び出さずとも僕自身の力でなんとかなる。
「クイナに頼んでよかったよ」
ジュリアスはケラケラ笑っているが思った以上にハードな仕事だったぞ・・・
そんな時、急に僕の水晶が輝き、1人の精霊が飛び出してきた。
「マスター!」
水色がかったプラチナの髪、美しい精霊は人型の状態で僕にしがみついてくる。
「勝手に出てくるなよ・・・」
普通だったらこちらが召喚するか水晶が壊れでもしない限り、精霊は出てこない。普通だったら・・・
カシズをちらりと見ると目をぱちくりさせている。
「だって、マスターの魔力がこんなにも落ちて。あー、怪我まで!」
先ほどの先頭でできたかすり傷である。言われるまで気づきもしなかったレベルだ。
「ラピス、大丈夫だから」
僕の言葉なんて聞いてもいないようで、ラピスは怪我をしたところに手を当て勝手に治療まで始める。
「昨日、無茶したばかりなのに・・・」
瞳をうるうるさせながら、治療を終わらせ更には彼女の持つ魔力を僕へと流してくる。おかげで頭痛は治まってきた。
「ありがとう。心配かけてごめん」
「私は中に戻りますが、ちゃんと休んでくださいね」
ぎゅっと腕にしがみついたと思ったらそのまま水晶の中に戻っていった。
「クイナさん、いまのって・・・」
「・・・ラピスは僕のことが好きすぎる上に心配症なんだよね。ま、気にしないで」
カシズは気付いていないかもしれないが、彼女はラピスラズリ。
水晶精霊の王たる水晶王、そして直轄の四大精霊。この5人はこの世にただひとつの存在とし、水晶精霊使いに使役されることはない。
その下にA~Dランクに相当する精霊たちが僕たちの契約相手な訳だが、ラピスラズリはその中でも最高位のAランク。使役可能な水属性で最強の精霊である。
故に水晶から勝手に出てくるわ、なんでもあり・・・になっている。
「さて、次はカシズの精霊探しに行くんだろ」
「いいんですか! クイナさんは大丈夫なんですか?」
「平気だよ。君が無駄な時間をかけなければね」
初心者向けの鉱山とは言え、かなり広い。迷ったら確実に夜が明ける。そうなる前には終わらせてほしいものだ。
「クイナ、俺は先に町へ戻ってるぞ」
仕事である悪霊退治が終わればもうジュリアスは用がない。
おそらく目印をつけていたのであろう、1人でも難なく帰れそうである。
「帰っていいよ。僕は成り行き上、仕方ないからカシズについて行くけど・・・報酬は明日にでも宿に持ってきて」
「わかった。部下に持っていかせる」
それを了承し、ジュリアスとはその場で別れることになった。
「さてと、契約ポイントはカシズ自身が見つけなきゃ意味がないから、さっさと流れを読んで見つけて」
「流れなんてあるんですか?」
「・・・は?」
1人目の精霊は元々水晶にいてくれたのかもしれないかもしれないが、2人目は発掘したはずだ。一体どうやって探したというのだ・・・
「・・・じゃあ、前回はどうしたの?」
「勘で歩いていました」
なんでこんなやつが水晶精霊使いなんだ・・・
普通独学で勉強するなり、師匠について教えてもらうなりするはずなのに。むしろよくなれたもんだと感心する。
「もう、勘でもなんでもいいから早く探して・・・」
・・・いまさら呆れてもどうしようもないし、説明するのも面倒だ。本当に外れくじ引いた一日だ。
そんな僕の思惑をよそに、カシズは新しい精霊を見つけるべく目を輝かせて歩き出した。
気付けば後半部分かなり書き換えて、登場する精霊の種類とか変えてました。今後話がつながらなくなったらという心配はしないことにします。