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水晶《せいれい》に選ばれし者  作者: 川初 流
2章 精霊書を求めて
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14話 闇の精霊書

「さて、隠していることを話して欲しいんだけど?」


 広い会議室、豪華な調度品・・・目の前に座る宮廷術師の老人は顔色を変え、あからさまにオロオロと視線を動かす。

 横にはハルカとジュリアス、そしてジュリアスの上司でもあるリュウイ中佐も同席していた。


 そもそも、なぜこんなことになったかと言うと・・・

 ノーリット村を出て城まで戻り、ジュリアスに頼んで今回の事件の報告と情報管理の出どころを確認した。

 結果、十の災厄(デクデット)が作り出した悪魔の書(デモンズブック)だった、なんて大事件であったのだが、問題が起きた時点ではそのことは知られていなかった。たかが悪魔の書(デモンズブック)1冊のためにしては色々と不可解なことが多すぎる。

 軍が把握していたのではないということだったので、宮廷術師たちが何かしら情報を握っていると判断したのだ。


「ヨーク導師、今回の事件は多くの犠牲者も出ています。何かご存知でしたら教えてください」

 やれやれ、といった様子でリュウイが口を挟んできた。

 年はおそらくジュリアスより下・・・所謂エリートさんなのだが、この人は敵に回したくないタイプである。以前ちょっとした事件で顔見知りだったので、僕の申し出を聞いたリュウイがわざわざこの場まで出向いてくれていた。


「まさか、十の災厄(デクデット)の存在が絡んでいることを知っていたのですか?」

 リュウイの問いにヨークと呼ばれた魔術師は首を何度も横に振り、否定をしてきた。


 軍と宮廷魔術師は管轄が異なるとはいえ、共に国を守るべき武力・知力を兼ねそろえた集団である。本来協力体制をとらねばならないのに、それぞれの派閥が・・・なんてこともあるらしい。


「王族でも呼び出さないと口開いてくれないのかな?」

 時間ばかり無駄に過ぎているのにイライラしてくる。

 使いたくない手ではあるが、もっと偉い人を呼び出して直接問いただすなんて力技も出来なくはない。


闇の精霊書(ダークバイブル)、本当はあるんじゃないの?」

 適当にカマを掛けたら、あからさまに驚いた様子でヨークは椅子をひっくり返し立ち上がった。


「・・・な、なぜ、それを・・・」

 あ、適当に言っただけなのに当たった。言ったこっちがびっくりだ。


「へぇー、そーなんだ」

 ここまで秘密にしてたんだからもう少し隠す努力でもすればいいものの、このプレッシャーの中耐えられなかったのだろうか。

 ニヤニヤしていると、さすがにこちらの意図が分かったようで、ヨークは驚きから怒りへと表情を変え、机に力強く両手をついた。


「は、謀ったな!!」

「勝手に引っかかってくれたくせに、人のせいにするなよ」

 しかし、闇の精霊書(ダークバイブル)が実在していて、それを隠し持っているなんてそれこそ大問題である。


「その話、王たちはご存知なのでしょうか? 詳しくお聞かせ願いたい」

 こちらの口喧嘩が勃発する前にリュウイが冷静に切り込んできた。

「そ、それは・・・」

 問いに口籠ったということは上には伝えていないのだろう・・・


「ヨーク導師、あれを隠した持っているということは反逆罪となってもおかしくない。あなたほどの方がお分かりにならない訳ないかと」

「仕方なかったのだ! あれは世に出してはならない・・・処分も出来ず、どうすることもできなかったのだ」

 観念したのか、倒れた椅子を持ち上げ座りなおすと改めてヨークは話を始めた。


「あれを見つけたのは偶然だった・・・儂は魔術師だからな。精霊使いのマーティスに解析させようと呼び寄せた。その結果、あやつは精神を壊された。その身は黒く染まり、闇の力に支配されていた」


「マーティスはどちらに?」

 ヨークは無言で立ち上がり、扉の方へ歩き出した。

「直接その目で見た方が早いだろう・・・」

 一同、ヨークの後をついて場内を移動した。広い通路をいくつも渡り、魔術研究室らしきところを抜けた奥に地下への階段があった。

 入口は特殊な術が施されており、誰にも侵入が出来ないようになっている。


 ヨークは手にした魔法具(マジックアイテム)を使い、術を解除すると魔法で明かりを灯し、階段を下り始める。

 軽く3階分はあるだろうか、深い階段を降りきった先にひとつの部屋があった。


「これは・・・」

 人間、だろうか。呪符なのか、鎖なのか・・・特殊な魔法具(マジックアイテム)でぐるぐるに縛られ、足元には何重もの結界が印されていた。


「マーティス、だったのもだ」

 手をそっとかざしてみるが結界に阻まれ、それ以上奥へと進めない。しびれるような感覚が腕を伝ってきた。


闇の精霊書(ダークバイブル)の一部と思わしき石板はマーティスに融合し、あのような異形の存在となった。そして闇の力を放ち続け、悪魔の書(デビルズブック)までも呼び寄せてしまったのだ・・・」

 なるほど、闇と魔の力が共鳴したのか。強力な闇の力は一歩間違えば人間にも精霊にも危険な代物である。


「あのままマーティスを放置していたらさらなる闇を呼び寄せたかもしれん。宮廷術師の中でも力ある魔術師、精霊使い、僧侶を集めこうして封印するのが精いっぱいだった」


 軍が悪魔の書(デモンズブック)を対応している間、宮廷術師たちはマーティスの封印に手をまわしていたのか。


「王がこの存在を知れば、この力を求めるかもしれない・・・それに、これだけの封印をしても少しずつ闇の力が漏れている。人を置けば第2のマーティスが生まれるかもしれないのだ。かといって処分しようにもどの術も・・・もちろん剣も受け付けなかった」

 隠していい理由ではないが、それなりに大問題だ。あのクラスの悪魔の書(デモンズブック)をほいほい()んでしまう存在はかなりまずい。


「しかし、この状態でずっと封印しておく訳にもいかないでしょう。なぜ宮廷術師だけでどうにかしようとしていたのか・・・軍にも議会にも知らせず、このようなこと非常に問題あることかと」

 リュウイは呆れたようにため息をつき、ヨークを責め立てた。


「ま、国やら軍やらの問題はそっちでなんとかしてもらうとして・・・とりあえず、これどうにかする方が先じゃない?」


「・・・どうにかできそうなのか、クイナ」

 重ね掛けした結界ですら漏れ出る程の力なのだ、そう簡単にどうにかできたら苦労はしない。

「今の僕には無理そうだね・・・ただ、なんとかできるかもしれない人には心当たりがある」

「それは・・・」

「ただ、やってくれるかはわからない・・・でも頼んでみる価値はあると思う。人に任せる訳にいかないから、僕がいってみるよ」

 どうせ会いにいかないといけない人だ。ついでに聞いてみるくらいはできるだろう。


「私も一緒にいってはダメか? ここもまだゴタゴタしてるだろうし、キースには私たちが戻るまでここで働いていてもらうことにするからさ」

「・・・わかった」

 気まぐれだから会ってもらえるかはわからないが、水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)であれば、まぁ・・・連れていっても大丈夫、かもしれない。


「ヨークさん、2つ目の術と足元にある結界を一部解いて欲しい。あれ、他の結界と相性が悪い・・・それから、四貴石用意できる?」


「わ、わかった・・・術者を呼んでこよう」

「それならば貴石の準備は私が」

 ヨークと貴石の手配にリュウイが動いた。とりあえず、補強くらいはしていった方が良いだろう。


【オパール ブラックオニキス 精霊召喚(クリスタライズ)


 2人が準備している間に精霊を呼び出し、準備をする。


「手伝うことある?」

「いや、とりあえず大丈夫・・・」

 元々かなり強力な結界が張られているのだ、下手に手を加えずともなんとかなるだろう。


「マスター、なにこれ・・・」

 ブラックオニキスは出てくるなり、嫌な闇の気配を過敏に察知し、眉間に皺を寄せながらマーティスを指さす。

「いろいろまずいもの、だよ」

「魔族・・・じゃない、俺たちに似ている・・・」


「そう。とりあえず封印強化しなくちゃならないから、力を貸して」

 精霊書に支配されているのだから、その力は精霊のものだろう。ただ、純粋な力ではなく闇に堕ちたその力は彼らが使うものとはまた違うものになる。


「クイナ、貴石だ」

 そうしているうちにリュウイが戻り、用意した魔法具(マジックアイテム)を手渡してくれた。さすがに城にあるもの、質がいい。


 精霊が宿っていない宝石は力ある者が加工すれば魔法具(マジックアイテム)となる。ダイヤモンド・エメラルド・ルビー・サファイア・・・魔力を持った最高ランクの宝石たちは見事な輝きを放っていた。


「ありがとう」


 同時にヨークも部下の術者を連れて戻り、指定した結界のみ解除させている。

 結界が一部解除されると漏れ出る力は強くなったが、とりあえず気にしない。


聖煌結界ホーリーシールド


 この場にいる人間も含め、光属性の結界で覆う。

 結界をまとった状態で部屋に再び足を踏み入れると激しい抵抗力を感じながらもなんとか入ることが出来た。

 自分のまわりだけ中和させているのだが、強力なもののため長くはもたなさそうだ。

 急ぎマーティスの足元の四方に貴石をセットし、指先をナイフで傷をつけて自らの血で結界を描く。


【四つの偉大なる精霊の名を持つ石よ その力を持ち 我が身に更なる力を・・・】


 白く輝くダイヤモンド、淡く光るエメラルド、深海の如きサファイア、紅く燃えるルビー、それぞれが光を生み出し、血で書いた結界を支えた。


「オパール、ブラッックオニキス。頼むよ」


 本来光と闇は相反するもの。複合術も強力なものが多い代わり、扱い辛いのだ。


聖魔融合陣(エレウィサークル)


 闇の力は闇の力で抑え、そして聖なる光の力で囲いこむ術だ。

 真っ黒な闇が漏れる闇を喰い、足元の結界をベースに光の柱が発生する。


「・・・これで、かなり強化されたと思う」

 結界が施された部屋から、抜け出して皆の元へ戻る。


「クイナっ!」

 足元がふらつき、倒れかかった体をジュリアスが支えてくれた。

「大丈夫、ちょっと力を一気に使っただけ。少ししたら落ち着くから。それより、元をどうにかしないとこれも何年も持たないからね」

 結界を強化したことにより漏れ出る闇の力はほとんど感じない。ただ、内側に溜まる力は徐々に増え、そのうち結界ももたなくなるだろう。


「リュウイとジュリアスは今のうちに議会なり軍なりに混乱させないように情報を伝えて。僕たちは北へ・・・僕の師匠に会いにいってくる」


 姉が殺されたあと、僕に力を授け使い方を教えてくれた人物の元に向かう。自分より強いと思える唯一の人・・・


 その力を借りに北の大森林を目指すのだった。

魔法の読み方は造語もまぜこぜです。深く考えず楽しんで貰えれば幸いです。

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