表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水晶《せいれい》に選ばれし者  作者: 川初 流
1章 カシズと悪霊
1/26

1話 カシズとの出会い

挿絵(By みてみん)


 ―この世には水晶精霊(ジェード・フェアリー)と呼ばれるものが存在する。


 そして、その精霊を呼び出し、使役する者の事を水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)と呼ぶ。

 呼び出すのに不可欠な水晶(オーブ)さえあれば才能がない者でも低級の精霊を呼び出すことが可能とはいえ、水晶(オーブ)希少であるためそんなに多くは存在しない―




 ・・・はずなんだけど・・・出会ってしまう時は出会うものだ。


「そこのにーちゃん、いい水晶(もの)もってるなぁ」

 いかにも柄の悪い男二人組が抜き身の剣をちらつかせながら目の前にいる青年に近づいていく。絡まれている青年は白いマントに緑のバンダナ・・・いかにも新米水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)という装いだ。

 個人的には無視をして通り過ぎたい・・・とてつもなく面倒で嫌だ・・・


「何、お前一人で通り過ぎようとしてんだよ!」

 この街道には僕ら4人を除いて他は誰もいない。おまけに隠れるような草木すら無い。


「助けてください!」

 駆け寄ってくる白いマントの青年の胸元にはホワイトの水晶(オーブ)がついているのが見える。水晶(オーブ)の色によって水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)のランクがわかるのだが、ホワイトは初心者の中の初心者。一番下の階級である。やっぱり新人かよ・・・そんな目立つところにつけてたら奪ってくれと言ってるようなものだ。


「はぁ、仕方ない・・・」

 通行の邪魔である。それに自分が巻き込まれては無視をする訳にもいかなくなった。


【パライバトルマリン】


 ため息まじりで自分のオーブからトルマリンの原石・・・つまり精霊の結晶化したものを呼び出した。

 青に近い緑のトルマリンは風属性の精霊だ。


「こ、こいつ上級の水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)か?」

 2人の男達は驚愕の声をあげた。しかし、いまさら逃げようなど考えられるものではない。


精霊召喚(クリスタライズ)


 この一言でトルマリンの原石は小さい少女の姿をかたどる。体の大きさは30センチメートルくらいで、宙に浮いている。これが、一般的に精霊と呼ばれるものだ。


風斬(ウインドブレイド)


 トルマリンは風の刃を生み出し、逃げ腰になっていた男達を追いやった。こんな低級な術は僕にとっては造作もないこと。


「あ、ありがとうございました。・・・ずいぶん若く見えるのにそんな高度な精霊を・・・」


「僕はこれでも25歳なんだけど・・・」

 たしかに一般の25歳に比べたら若く見えると思う。身長も・・・低い。怒りと悔しさをぐっとこらえて、冷静な声で返す。


「す、すみません、失礼しました!!俺はカシズ・ナラシュマと言います。本当に助かりました。ありがとうございます!」

 元気な青年である。勢いよく頭を下げてきた。


「僕は・・・ロード。どうせ、短い付き合いになると思うし。」

 後半は小さな声で言った為、どうやらカシズには聞こえていない。別に聞こえても構わないが・・・

 そんなことより・・・トルマリンにお礼を言ってから水晶(オーブ)に戻した。


「それより、水晶(オーブ)目立ちすぎ。ホワイトのくせにそれじゃあ、狙われるのも当然。」

 少し呆れがかった声で感想を述べた。

 どうしてこのような世間知らずが1人で旅をしているのか不思議でたまらない。


「へぇ、そうなんですね! ならばもっと奥にしまっておきます」

 しかし僕の嫌味など全く気にもせずに、カシズはオーブをぐいっと中へ押し込んだ。


「じゃあ、僕はこれで・・・わっ」

 その場を立ち去ろうと思ったのにマント裾を引っ張られ、バランスを失って体勢が崩れた。


「待ってください! お礼を・・・近くの町で食事でもおごります」

 断る暇もなく迫って来るので結局、勢いに負けてずるずると引き連れて行かれた。



 サキノグラス・シティ。ここは水晶精霊(ジェード・フェアリー)を祀った神殿が数ヵ所存在し、C・Dランクの水晶が取れる鉱山もある。

 とまぁ、そんな町の一角のレストラン。


「ロードさんは階級の方も高いんでしょうね。」


 水晶(オーブ)は中に入っている精霊のランクと数によって色が変化する。下からホワイト、パープル、イエロー、グリーン、ブルー、レッド、クリアレンスの7段階にわかれる。つまり、これが水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)の階級の証明にもなる。

 そう簡単に見ず知らずの他人に明かすものではない・・・


「内緒」

 当然の事ながらカシズの問いには答えず、黙々とサラダを口に運ぶ。


「じゃあ、さっき出した精霊って何ですか?」

「・・・パライバトルマリン」

 ちょっと悩んだがこれくらいなら、と思い口にした。

 精霊の種類によっては階級がバレてしまうこともあるが、低級のトルマリンなら簡単にはわからないだろうと踏んで答えた。

「へぇ・・・」


「そうだ、クイナっていう水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)知ってますか?」

 いきなりの質問に飲んでいた水を吹き出しそうになった。なんで、こんな事に話が飛ぶのだろうか?


「は?」

 水を飲みこみ、傍に置いてあったナプキンで口元を抑えたまま答えた。


「俺、実はその人を探す旅をしているんです。数少ないクリアレンスの水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)・・・絶対会いたいんです!」


「クリアレンスの水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)なんて他にも有名な人はいるのに、また何で彼を・・・」

「それは・・・」

 手にしていたフォークを置き、興味本位で聞いてみる。


 カシズが答えるべきか悩みながらも口を開いたその瞬間・・・バーン!と派手な音を立てて、店の扉が開いた。


「命がおしけりゃ金目の物を出せ!」


 食事中だというのに、盗賊らしき者たちが乱入してきて周りのお客さんたちはあちらこちらで悲鳴を上げている。カシズも少し慌てるが、僕は平然そのもので食事を続けた。


「た、大変です。何とかなりませんか?」

 カシズはこっそりとマントの裾を引っ張ってくる。

 それこそ他力本願というものだ。一応自分だって戦える立場の者なんだから少しは自分でしようとか思わないのだろうか?


「カシズは何の精霊持ってるの?」

 一瞬の沈黙の後にカシズは呟いた。

「・・・ホーキサイトとクロムです・・・」

 照明(ホーキサイト)武器具現(クロム)か・・・本当に低級の精霊だ。

 どの精霊でも共通だが階級が高い者と低い者では同じ精霊を使ってもその効果は天地の差がある。


「それで、クロムを使ってどんな事が出来るの?」

 例えば、クロムの場合。階級が高く使いこなしている者が使用すると剣や槍など思うがままであるが、階級が低く使いこなせていない者なら小さな玉や針程度しか出せない。


「ダガーが出せるくらいです」

 ホワイトにしてはまぁ使いこなしている方だ。努力をしているとは少し認めてやろう。


「体術に自信は?」

 カシズは首を横に振った。確かに僕ほどではないが細身で体力や腕力、脚力などなさそうだ。


「おい、そこのお前ら。さっさと持っているものを出せ」

 盗賊の1人はこっちを向いてナイフを突きつけてくる。視線を少しずらしてみると、後ろにはすでに盗んだというか奪った金目の物が積まれている。あれはどうやって運ぶのだろうか、やっぱり風呂敷かな? という疑問は自分の中にしまっておくことにしよう。


「ふぅ」


 このままでは自分にも被害が及ぶ。結局いつも自分が巻き込まれては・・と無駄に力を使ってしまう。こんなんだからいいように人に使われてしまうんだよね。


【シトリン】


 オーブに手を翳すとシトリンの原石が出てくる。


精霊召喚(クリスタライズ)


「こ、こいつ水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)か!?」

 人を見かけで判断してはいけない。さすがに精霊を呼び出すと盗賊達に動揺が走る。さすがに人数はそちらの方が多いとはいえ、水晶精霊使いと戦うのは恐いらしい。それもそうだが、自分たちがそんなことをやっておいて今更恐いと思われるのも癪である。


地石壁(アース・ウォール)


 さらにアレンジを加え・・・普通は攻撃用として使うのだが、ちょっと手を加えターゲットの周りに細い頑丈な岩を作り出し、上に板を置いて檻にしたのだ。


「マスター、お茶のおかわり」

 何事もなかったかのように再び席に着いた。周囲の店員を含める全ての人間がこちらをただ、唖然として見ているが無視をする。全く、折角のランチタイムが台無しである。


「シトリン、ガードマンを呼んできて」

 小さな少年(シトリン)は頷き、僕の命令に従う為に店から出て行った。


「ありがとう」

 驚きながらもお茶を運んできたウェイトレスにお礼を言った。

 お茶を一口啜り、その温かさにホッと一息をつく。


「カシズ、君はもう少し使える精霊集めた方がいいよ」

「あっ、はい」


 すると、すぐさま店の扉が開き兵とシトリンが入ってきた。・・・・・・げっ。


「やあ、君がこんな所にいるとはね」

 サウス・キャッスル軍の少尉がテーブルに近づいてくる。なんで、ガードマンと共にこいつまで来るのだろうか・・・というか、そもそもサウスエリア内でもこんな辺鄙な街に城の軍の少尉ともあろう者がいるのだろうか。


「お久し振り、ジュリアス少尉。・・・シトリンご苦労様」

 シトリンはすっと消えるようにオーブの中に戻っていった。


「髪が伸びたな・・・でも相変わらず、かわいいウサギ目をしている」

 ジュリアスは仕事をガードマンに任せて、こちらに向かってきた。その上、いいと言ってもいないのにジュリアスは同じテーブルに着き、僕の長くて黒い髪の毛を触ってくる。素早くその手を振り払って席を立つ。


「そうそう、僕はこんな所で油を売っている暇はないんだ。じゃあね、二人とも」


 面倒な事になる前に去るのが一番。自分の分の食事代をテーブルの上に置いて立ち去ろうとするとやはりと言うべきであろうか・・・呼び止められた。


「クイナ、頼み事がある」

 その上、ご丁寧に人がわざわざ隠していた名前までバラして・・・

「え? ロードさんって・・・えっ、もしかして、あの(・・)クイナさんですか!」

 隣ではカシズが悲鳴に近い叫び声を上げている。

 さすがに驚かれるというか・・・食堂にいる他の者たちまでこちらに注目し始める。


「僕は引き受けないよ」

「そうさ、あのクイナ・ロードだよ。ところで君の自己紹介を聞いていなかったね?」

 怒りに拳を震わせている僕を無視して二人は話を進める。


「あっ、俺はカシズ・ナラシュマです。水晶精霊(ジェード・フェアリー)使い(マスター)をやっています」

「へぇ・・・俺はジュリアス・ハイストーン。一応剣士で、サウス・キャッスル軍の少尉を務めている。クイナとは昔ある事件で知り合ってな・・・っておい、何処へいくんだ?」


 さすがに怒りにまかせ、そのまま何かをする訳にもいかないし、このままここにいるのも嫌なので、二人が和気藹々と話している隙に逃げ出そうとしたのだが・・・失敗した。


「まだ、話は終わってないぞ。実はここの鉱山でな・・・」

「誰も引き受けるなんて言ってない」

 立ち上がっている僕に視線を合わせ、ジュリアスは勝手に話を進める。睨みつけても全く動じない。こういう精神的にふてぶてしいやつは苦手だ。


「まぁまぁ、話は最後まで聞け。どうやらこの事件にはあのムツが絡んでいるかもしれないんだ。お前あいつの事、探していたんだろ?」


「あぁ、それは本当?」

 驚きながらも、依頼を受けるかどうかは別にして、話はきちんと聞く為に椅子を引いて座り直す。


「それで、ムツがどうしたって?」

「あぁ、あの鉱山に悪霊(ゴースト)を呼んだらしい。俺がこんな辺鄙な町にいるのもそういう訳だ。ここら辺にはC・Dランクの精霊しか使えない低級しかいないから悪霊(ゴースト)といえども楽勝っていかないんだよ。俺は剣士だし、他の町から応援を呼ぶにしても時間も金もかかる。ちょうどいい所にお前がやってきたんだよ」


 確かに僕くらいになれば悪霊(ゴースト)など雑魚だが下っ端にとっては十分脅威になりうるだろう。


「・・・わかった。どちらにしても上級者の仕事だからね。本当は受けたくないけど・・・ただし、この貸しは高くつくよ」

 多分ムツはもうこの町にはいないだろう。いつも問題を起こしては去り、僕への道標のようにしている。まるで誘っているかのように・・・


「・・・これくらいでどうだ?」

 ジュリアスは指を3本立てる。金貨3枚か・・・まぁ、一般人からすれば高額だが危険が伴う仕事の報酬なら金貨3枚は安い方である。

 軍からの依頼だから報酬安いのは仕方ない。今月分の食費が浮いたと思って我慢しよう。


「あ、あの。僕も連れて行ってもらえませんか?もちろん報酬などはいりません」


「はぁ? 何言ってんの? ホワイトなんて来ても足手まといなだけだから・・・」

 別に来られても支障はないが邪魔である。

 嫌そうな顔を向けるとカシズはビクンと体を竦めて、一歩足を引いた。


「いいんじゃないか? 鉱山なら修行に丁度いい場所だし、俺も行くから」

 人が何も言っていないのにジュリアスは勝手に決定させる。

「・・・じゃあ、コレ」

 報酬金貨3枚から5枚へ上乗せを要求した。


「オッケー。そのくらいなら神殿と警備のとこからふんだくりゃ楽勝だ」

 ちっ、それならばもっと高額をふっかけておけばよかった。別にお金が欲しいという訳ではないが、自分の才能を安売りをしたくないのである。


「それで剣は効かない悪霊相手にジュリアスはどうするの?」

「ただの探索だ」

 つまり探索とは聞こえがいいが、見てるだけ、というものだ。まぁ、相手の攻撃を避ける程度はしてくれるだろうが。


「出発は今夜9時。それまでに仕度しといて」


「あぁ、わかった」

 ジュリアスはそれだけで席を立ちあがり、店を出て行った。


「なんで、わざわざ悪霊(ゴースト)の力が活発になる夜に行くんですか?」

 それはもっともな話だが僕達は退治に行くのである。つまり根絶やしにしなければならない。その場限りなんてことでは済まないのだ。


「その方がやり応えがある。というのは半分冗談で、悪霊(ゴースト)は夜じゃないと完全に姿を現さないんだよ。昼間の奴らは本体の一部が出てきただけで、叩くなら夜にやらないとまた復活するんだ」


 カシズはへぇ、と感心しているがこの程度も知識が無いのかと落胆してしまう。本当に連れて行っても大丈夫なのだろうか? 殺す気はないが死んでも文句を言われたくない。


「折角だからカシズも精霊集めでもすれば? 一応守るけど何があっても知らないからね」

「は、はい」

 窓の外に視線を向け、太陽が西に傾きだしたのを確認する。


「近くで宿を取りに行く」

 一度は出したお金をしまい、マスターを見るとは何も言わず会釈をしてきた。ジュリアスが支払いを済ませていったのだろう。


「ありがとうございました!」

 ウェイトレス達が口々にそう言い、頭を下げる。

「何やってるの? 早く行くよ」

 呆然としているカシズを呼ぶとはっと気づいたかのように慌てて駆け寄ってきた・・・まるでひよこだ・・・


 それにしても、またこんなところで魔力の無駄遣いをしなければならないなんて・・・ムツは一体どういうつもりでこんなことを続けていくのだろう。僕が邪魔なら殺しにくればいいものを・・・

 考えても答えのでないことを自問自答しながら、宿へ足を向けたのだった。

学生の頃に書いていた小説をデータ化するにあたり、せっかくだから手直しを加えてアップすることにしました。

あーーーって思いながら消した部分もありますが、未熟な部分も思い出ということで広い心で楽しんで貰えたら嬉しいです。

既存部分はなるべく早くアップしていくつもりです(予定)


※諸事情により風属性の宝石の種類を修正させていただきました(2018.11.25)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ