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たとえそれが偽りでも  作者: 粉末っぽい素粒子
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第一偽話 十五年の時を経て

 私が起きると、ベッドに寝かされていた。

 上半身を起こし周りを見てみると私の私物があった。ぬいぐるみ、ペンダント、写真。

 ここがどこかはすぐに分かった。ここは私の部屋だ。


 部屋の中にいた兵士の1人が私が起きたことに気がついて、お母さん達を呼びに部屋から慌てて部屋から出て行く。

 そんなに慌てると――あっ、転んだ。


 他の兵士にドラゴンの事で何があったのか聞いてみた。フェルーサ家の兵士達はその場にいなかったからあの街の生き残りの兵士に聞いたみたいだけど。


 どうやら、私はドラゴンを目の前に倒れたらしい。その後すぐに兵士達が増援に駆けつけて私を助けてくれた。ドラゴンはどうなったか不明。それしか分からないらしい。


 そして、この襲撃で不思議な点が一つるみたいだ。

 お姉ちゃんの死んだとされる場所には何も残っていなかったらしい。装備も武器も何も。結局燃やし尽くされたって事になったみたい。


 ポタッ……ポタッ……手の甲に水滴が落ちている。



 やっぱり……お姉ちゃんは――――


「「ルノ!!」」


 お母さんとお父さんが部屋に入ってくる。

 お母さん達の目には涙が浮かんでいた。私のことを力強く抱きしめてくれる。痛いよ。力入れすぎ。


 あったかいけど、お姉ちゃんの(ぬく)もりに比べれば、こんなの――



 私はたまらずお母さん達を押しのける。



「ぁ……ルノ……?」


 拍子抜けした声。お母さんの声だ。



「……って…」

「え……?」


 私は出せる限りの声で叫ぶ。


「出てってって言ってるの!! この部屋から出てってよ! 今は1人にさせて!!」



 拒絶の意。


 お母さん達にどれくらい愛されてるかなんて分かってた。娘が何日間も昏睡してたんだ。起きたら抱きしめたくもなるよね。


 でも、今はやめて。



 お母さん達は少したじろぎながら、兵士達を連れて部屋から出て行った。


 私はすぐさま部屋に鍵をかけて、2ヶ月くらい引きこもった。朝昼晩とドアの前に料理が置かれてる音がするけど、食べなかった。

 お姉ちゃんが私のせいで死んで、それで私だけのうのうと生きてるのは許せない。


 もし、あんな襲撃が無いで私がただ昏睡してただけなら。

 だったら、お姉ちゃんに抱きしめられていたのかな……


 でも、それは叶わない願い。


 私のせい。私のせいでお姉ちゃんは死んだ。もし、私があのまま隠れてたら。もし私がもっと遠くで戦っていたら。お姉ちゃんは死ななかったかもしれない。


 全部、私が悪いんだ。お姉ちゃんを殺したのは――私だ。






 それから3年後。それが今だ。私は15歳になっている。


 死んだ時のお姉ちゃんと同じ歳。私はフェルーサ家の次期当主に選ばれた。選ばれただけで、正式な任命はまだされてない。

 私は女なので養子を取るかどうかも考えてたみたいだけど、私に何かあった時に養子を取ることにしたらしい。もちろん、何かあるなんて事はない方がいいんだけどね。


 もちろんの事、私は次期当主になることなんて反対した。だって、本来ならお姉ちゃんがなるはずだったんだもん。お姉ちゃんを見殺しにした私が次期当主なんかになっていいはずがない。なっちゃいけないんだよ。

 だけど、お母さん達は私のことを変な目で見るだけで相手にしてくれなかった。なんでかな? 絶対におかしいよ。


 選ばれてから数日後。


「ルノーー! 少し王都まで行って来てくれないかい?」

「なんで? お母さん」

「王都で今お祭りやってるでしょう? そこの警備員のアルバイトの給料がいいらしいのよ。行って来てくれないかしら?」


 次期当主を警備員のアルバイトに行かせるあたり、流石フェルーサ家だと思う。そうだよね。フェルーサ家だもんね。そこらのモヤシみたいな貴族とは違ってうちは武闘派だもんね。


「分かったよ。王都だよね?? 今から行ってくる」


 いちいち王都まで歩いたり馬車に乗ったりするのは面倒だからテレポート屋まで行ってテレポートしようかな。


 テレポート屋までは歩いて行こうかな。

 いつも通りの平和な街並み。子供達が無邪気に走り回ってて、商店街は活気ついている。

 その中にある木でできた少しぼろっちい建物。これがテレポート屋だ。


 あっ、持ち物っているのかな? 警備員のバイトだから特にいらないよね。お金だけもってけばいいや。


「おじちゃん。建物少し綺麗にしない?」


 扉を開きながら店主に話しかける。


「余計なお世話だっての。ルノ嬢ちゃん」


 おぉ……いつ見ても凄いガタイがいいなぁ……筋肉質で肌は日に焼けて黒い。そしてスキンヘッド。顔には1筋の傷跡がある。


「今日はどこにいくんだい?」

「王都だよ。アルバイトするためにね」

「あの名門フェルーサ家の次期当主様がアルバイトねぇ……ご苦労なこった」

「ただのアルバイトだったら私なんてやったら街の人に怒られるんだろうけど……お祭りの警備員のアルバイトなんだよね」

「あー……メザフィー祭の警備かぁ……」


 そう。王都メザフィールのメザフィー祭っていうのは各地方から大量の人が集まるお祭りで、殴り合いやらスリやら別段珍しくない。

 ちなみにその警備員になると給料はいいけど大怪我をする事が良くあるから、治療費を考えると誰もやりたがらないアルバイトの一つだ。


「ルノ嬢ちゃん。怪我しないように頑張りな?」

「大丈夫だよ。これでも一応フェルーサ家なんだから」


 何かに絡まれても手加減しながら相手を組み伏せることくらいできるよ。おじちゃんみたいな人じゃなければ。


「腐ることなんて無いだろうが腐ってもフェルーサ家か……よし、テレポート準備できたぞ」


 テレポートは設置型の魔法で、テレポートの魔法陣が設置された場所でないとテレポートできない。

 だけど、お姉ちゃんが私を庇った時に使った魔法。あれもきっとテレポートなんだと思う。どうやったのかは知らないけど。


「テレポートするぞ。行ってこい!」



 シュンッ



 一瞬。王都のテレポート屋まで着いた。


 それにしてもテレポート屋って高いなぁ……アルバイト代とたいして変わんない気がするよ。


 王都は小さい時に来た時と別段変わりなく、レンガ作りの建物が主だ。


「あれ? お祭りにしては人が少ないなぁ……」


 疑問に思いながら王都を散策(さんさく)してるとすごい事がわかった。お祭りは明日からだって。今やってるって言ってたの誰さ。


 「やる事もないし王都を散歩することにしようかな」


 あの旅行で泊まった宿がまだあった。そこからお姉ちゃんと二人で歩いたルートを歩く。


「あっ、お饅頭だ」


 王都メザフィールの名物メザフィ饅頭。


 最近わかったけどこのお饅頭って凄い美味しんだね。いつも美味しいのを食べてるから昔は分からなかったって事なのかな。


「一つください」


 買う。ここでお姉ちゃんと二人でじゃれ合ってたなぁ……


 口に運ぶ。うん、変わらない味。

 お姉ちゃんの事をより一層強く思い出してしまう。



「はぁ………」




 あの事件の後、お姉ちゃんの事をどう折り合いつけるかをずっと考えて来たけど、どうにも折り合いがつかない。


 そして私と場所を入れ替わった時に私に向けて放った言葉。

 あれはきっと侮蔑(ぶべつ)の言葉なんだろうなぁ。この愚妹に対しての。



 たけど、侮蔑されていたとしても、それでも私はお姉ちゃんの事がまだ好きでいる。

 また会いたいと思ってる。成長した事を褒めて欲しい。いろんな事を一人でできるようになった事を褒めて欲しい。強くなった事を褒めて欲しい。色んなな欲望がある。


 でも――


「あははっ、私のせいで死なせちゃったのにね……都合がよすぎる……かな」


 お饅頭の味を噛みしめるようにゆっくりと食べ終える。



「あそこに、行ってみようかな」


 王都の門に歩いていく。

 途中に家族と泊まった木製の宿があった。変わらないなぁ。



 そして私は門へとたどり着いた。そして、そのまま王都の外へと出る。


 確か向こうの丘の上に展望台があるはずだ。お姉ちゃんと一緒に来た思い出の場所。

 そこで綺麗な景色を見て感動した覚えがある。


「馬車ではすぐだったけど結構遠いんだなぁ……」


 丘はそれなりに遠かった。

 さらに丘までは一面の草原。

 綺麗で清々しいけど飽きるものがある。


「やっと着いた」


 丘は記憶にあるほど高くはなかった。割とすぐにひょいひょいと登れるほどの高さ。

 登り終えてから気がつく。


 お姉ちゃん、私の歩くスピードに合わせてくれてたんだ。やっぱり優しいなぁ……


~~~~~~~~~~~~~

 この丘凄い高い……お姉ちゃん疲れたぁ……

 後少しだから頑張ろう? ルノ。凄い綺麗な景色が見れるんだって

 うぅ~…なら頑張る………

~~~~~~~~~~~~~



 昔の私達を思い出す。


 やっぱり、私達は仲よかったんだよね……



 丘を登りきると階段がある。

 もちろんそれも登る。

 階段もドアも全部記憶のまんまだ。階段は石で出来てて、ドアは木で出来ている。



「何にも変わってないなぁ……」


 展望台のドアを開く。


 風が吹き込んできて気持ちいい。


 あっ、既に先客がいる。後ろ姿しか見えないけど、なんだかすごい綺麗な人だなぁ……白銀色の髪が風でなびいてる。

 それにしてもジィーっと景色を見てるみたい。あの人も私と同じ気持ちなのかな?


「ここの景色。凄い綺麗ですよね! 私、昔にこの景色を大好きな人と一緒に見て、それからここが大好きなんです。どこまでも広がっていて、これから何があってもやっていける。そんな気がしますよね!」


 近づきながら先客の人に話しかけた。


 いきなりこんなこと言ったら危ない人って思われちゃうかな?


 彼女は私に気がついて振り返る。



――――ッ!!!



 息が詰まった。




 嘘だ……だって…………だってあの人は――!



 私の最愛の人は死んだ。私のせいで死んだ。あの私をいつも包み込んでくれる温もりはもう記憶の中にしかないはず――



「なのに…………なんで……?」


 気の抜けた声が出た。



 だって、だって……



 そこに立っていたのは私の大好きな「お姉ちゃん」だった。

こっからやっと1話……はふぅ

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