プロローグ≪私とお姉ちゃん≫
時刻は夜。みんなが寝静まった頃に私はお姉ちゃんの部屋に行くためにソロソロと廊下を歩く。
ここは私の家。家といってもお城みたいなもので普通の家庭とはかなり違うみたい。
私の家はフェルーサ家と言う貴族で、王家の懐刀と言われている。
懐刀っていうと、どこかの国と対立してるのかなって思われちゃうかもしれないけど、全然そういうんじゃなくて、所謂モンスターから王家の人や街の人々を守る貴族達の筆頭っていうだけだ。
だからいつもパーティーが開かれているんだけど今日は開いてないみたい。
ガチャ お姉ちゃんの部屋のドアを勝手に開ける。さすがにお姉ちゃんも寝てる……よね?
なるべく音を立てないように部屋の奥に入って行く。
もちろん、部屋に明かりはついてないけど何度も来たことのある場所だから体がどこに何があるか覚えてる。
確かここにベッドが――あった!
すぅ……すぅ…… という寝息が聞こえた。
そぉーっと毛布をめくりベッドに潜り込む。
あったかい。
もっとお姉ちゃんを感じるためにベッドの中央へとモゾモゾ移動する。
お姉ちゃんは私の方を向いて横になっていた。
寝てるかどうか再確認するために私は顔をお姉ちゃんの顔に近づける。目は閉じてる。寝てるみたい。
「それにしてもなぁ……やっぱりお姉ちゃんは綺麗で可愛いよ」
つい言葉が溢れてしまう。だって仕方がないよ。本当のことなんだもん。
まず、顔立ちが凄く良い。肌は雪のように白く、とってもきめ細かくて美しい。唇は綺麗なピンク色で見てわかるほどの柔らかさ。髪はキラキラしてて、私と同じ白銀色なはずなのに私にはないオーラが漂っている気がする。
……本当にいつまでも見つめていたいなぁ。
すっ 私の頭の後ろに何か気配がする。
慌てて後ろを振り向こうとするも間に合わず――――グイッ ムギュッ
私の顔がお姉ちゃんの胸へとダイブした。
私の顔が自分で分かるほどに火照っていく。
あったかくて柔らかい……! 柔らかいだけじゃなくて弾力がすごい! 何この包容力っ!? ふわっといい香りが私の顔を包んでるよっ!? いつまでもこうしてたいなぁ…………ってそうじゃない! 反応が違うっ!!
「ふえっ!? お姉ちゃん!? 起きてたの!?」
私はベッドから慌てて飛び降りる。
そうそう、これが正しい反応。
「急にどうしたのかな? ルノ。いきなり人の部屋に入って来て、ましてやベッドにも潜り込んでくるなんて。」
「えっとぉ……一緒に寝たいなーって思って……ダメ……?」
私にはこれくらいしか誤魔化し方が考えつかないっ……あ、でも良いよね。本当のことだし。
「ふふっ いいよ。ほら、こっちにおいで?」
微笑みながら言ってくれる。怒られなくて良かったぁ。でも謝ったほうがいいよね……
「勝手に入ってごめんなさい………」
「別にいいよ。姉妹でしょ?」
抱きしめてくれた。
あぁ……なんでこんなにあったかいんだろ。こんなあったかさ、他に知らないよ……心や体の芯からとろけちゃいそうな、そんなあったかさ。
「お姉ちゃんあったかい……」
「そう? なら良かった」
幸せな時間。
私はこんな調子でお姉ちゃんにずっと甘えて過ごしていた。
お姉ちゃんはいつも私を可愛がってくれてて、それが何よりも嬉しかった。
お母さん達からは「仲が良いのはいいけれど少し良すぎやしないか」なんて言われてたけど、そんなこと私は気にも留めなかった。
私はお姉ちゃんが大好きだったんだ。いや、今も好きなんだけどね。
まぁそれは置いとこう。
私が12歳くらいでお姉ちゃんが15歳くらいの頃。
王都に行った後、自然が豊かな街に行く家族旅行計画がたった。
取り巻きの兵士達がいつもならいるけどプライベートにして家族だけの旅行。
テレポートしたら一瞬で旅行先まで行けるけど、少しでも多く家族だけの時間にするために馬車に乗ることにした。
私とお姉ちゃんは旅行前日に楽しみすぎて眠れなかったせいか馬車の中で大体は寝てたらしい。
馬車は王都から少し離れた場所に止まった。もうあと馬車で5分もあれば王都に着くような場所。丘が目の前にある草原だった。
なんで止まったのか馬車の運転手さんに聞いて見ると、どうやら丘の上の展望台が凄いらしい。
お母さん達は私達に行ってくるように言った。もし私の勘が当たってるならお母さん達が馬車の運転手さんに頼んだんだと思う。
私はお姉ちゃんと二人で丘を登った。
「この丘凄い高い……お姉ちゃん疲れたぁ……」
丘自体はそんなに高くないんだろうけど12歳の私にとってはかなり疲れる。
「後少しだから頑張ろう? ルノ。凄い綺麗な景色が見れるんだって」
「うぅ~…なら頑張る………」
ようやく登りきり展望台に到着する。展望台は石のブロックで出来ていて、かなり大きい。
階段もあり2階に行けるようになっている。
最後の力を振り絞って、それを駆け足で登って行き木の扉を開くと――――――
世界が、広がっていた。
遠くには山々が見え、川が流れている。近くには森や草原が広がっている。
こんな広い景色。見たことがなかった。私の住んでる屋敷は確かに大きくて広いけど、建物ばっかりしか見えない。
遠くの方にちょっと街の外が見えてるだけ。
「お姉ちゃん!! 見て見て! すっごい綺麗な景色!」
「本当だね。ルノと一緒に見れて良かった」
なんだか、お姉ちゃんとならどこまでも行ける。そんな事を思わせてくれる雄大な景色。
「えへへっ 私もお姉ちゃんと一緒に見れて嬉しい! 丘、登りきって良かった!」
何分間眺めていただろう。私からしたら只々新鮮で見飽きない景色だった。お姉ちゃんは新鮮……というより懐かしいみたいな事を言ってた気がする。
馬車に戻ろうとお姉ちゃんが階段を降りようとする。
私が黙ってお姉ちゃんを見つめていると。
「しょうがないなぁ……おんぶしてあげようか?」
「……!」 コクコク
全然そんな下心なかったんだけどなぁ……でもお姉ちゃんの好意に今は甘えておこう。
「よいしょ……っと……」
「お姉ちゃん、お年寄りみたいだねっ」
「からかうならもうおんぶしないからねー?」
私の方を見てほっぺたを膨らましながらムスッとして言ってくる。何この可愛い生き物!?
「ごめんねお姉ちゃん! もう言わないから許して? それにお姉ちゃんは若くて綺麗だから全然大丈夫!」
「約束だからね? 結構傷つくんだから」
ちょろい
私達が丘から下って馬車に乗るとすぐに発車した。やっぱり丘のために馬車を停めてくれてたんだ。
私の予想通り、5分くらいしたら王都に着いた。
王都は私のいる街とあまり変わらず、レンガ作りの家がたくさんあった。
その中で一風変わった建物がある。お母さんによると、そこが私達の宿屋らしい。
宿屋にチェックインする。
宿屋は木で出来ていた。木の香りが漂っていてどことなく落ち着く。これは檜……かな?
フロントから部屋までは廊下を通じて一直線。フロントにはベランダが備え付けられあってそこには椅子とテーブルが置いてある。
「ほら、あなた達行くわよ?」
お母さんに呼ばれて部屋までついて行く。
部屋に入るとベッドや椅子が無くて、クッションみたいなのがあった。このクッションが椅子の代わりらしい。
寝るところはどうするのかお姉ちゃんに聞くとお姉ちゃんは引き戸を開けて、布の塊を指差し「これを敷くんだよ」と教えてくれた。
カルチャーショック! あれ、カルチャーショックってこういう意味だっけ? あってる? まぁいいや。
少し呆けているとお母さん達から今日の説明があった。
とりあえず今からは自由行動になるらしい。お母さん達はお酒とか飲むみたいだから。
そして、明日に次の街へと出発するみたいだ。
私とお姉ちゃんは話し合いの結果、今日は温泉に入って、だらだらと過ごす事になった。
あれ? よく考えたらこれ、事実上お姉ちゃんとのデート……だよね??
あ、でも姉妹…………うぅ
私がそんな馬鹿なことを考えてるとお姉ちゃんが私の手を取ってくれる。
「ルノ! 温泉行こう?」
「うんっ! でも道分からないからお姉ちゃんに着いて行くね!」
「なら、手を離しちゃダメだよ?」
「わかった!」
私達は宿屋を出て温泉に向かう。
歩いてる途中、一瞬だけ握る手に力を少し入れる。そしたらお姉ちゃんも握り返してくれる。私がもう一回 ぎゅっ ってしたらお姉ちゃんも ぎゅっ ってする。
ぎゅっ ぎゅっ
ぎゅっ ぎゅっ
なんかもう! なんかもうたまらないよ!
私の脳内はお花畑になりそうな時( もうなってるかもしれないけど )お姉ちゃんがお店を指差した。
「あっ! ルノ。お饅頭屋さんがあるよ? 食べたい?」
お饅頭かぁ 私はどっちでもいいけどお姉ちゃん、凄い食べたそう。
「んー……私はいらないやっ! 早く行こう?」
少し意地悪してみる。
「そっ……そっか……ルノはあんまり興味ないんだね……」
しょんぼりしてる。いや、可愛いけど罪悪感が凄い!
「うそうそ! お饅頭食べたいなぁ! お姉ちゃんと一緒に食べたいなぁ!」
お姉ちゃんと一緒に食べたい事に関しては間違いはないから嘘は言ってないはず。
あっ、お姉ちゃん凄い嬉しそう。すぐに買いに行って――もう戻ってきた。早いな。
「はい! ルノ」
お饅頭を渡される。なにこれ!? 私の知ってるお饅頭じゃないよっ!? お饅頭のてっぺんにクラゲの模様がついてるし……
「ルノ。これは温泉饅頭っていうんだよ。ここは王都メザフィールだからメザフィ饅頭って呼ばれてるけどね」
温泉……?? ここは温泉街じゃなくて王都だよ? えっ? あっ、王都だからなんでもある……みたいな?
「ん……美味しいっ……!」
お姉ちゃん凄い嬉しそう! こんなお姉ちゃん中々見れないよ! って本当に美味しそうだなぁ。
パクッ 私も一口食べてみる。
もぐもぐ……ごくん
うん、美味しいは美味しいんだけど普通のお饅頭と変わらない気がする……私がいつも食べてるんお饅頭と変わらないかも。えっと……なんだっけ。るー……るー……るーナントカ家の貴族さんが毎回持ってきてくれるお饅頭。アレと似てる味。
「美味しくなかった……?」
「あっ! 全然そんなことないよっ! 凄い美味しい!」
凄い勢いでパクパクッと食べる。
お姉ちゃんに心配かけちゃうところだった。
「じゃあ温泉に向けてまた歩こうルノ。あと少しだから」
お姉ちゃんの言う通り2.3分歩いたら温泉に着いた。
この温泉も私達の泊まる宿と同じような雰囲気があるなぁ。
入り口は引き戸で、中に入るとおばあさんがちょこんと座っている。このおばあさんにお金を渡すのかな。
お金を渡すとおばあさんは赤いのれんを指差した。
女湯……ほかのやつは男湯……混浴……混沌浴……
よく分からないからいいや。
結局、お姉ちゃんに強制的に女湯に引っ張られ、のれんをくぐらされて脱衣所で服を脱ぐ。
私は颯爽と服を脱いでお風呂場まで走る。
「ルノ! 走ったら危ないよ?」
「大丈夫だよお姉ちゃん! お風呂場では走らないから!」
ガラガラッ 引き戸を勢いよく開く。
私はお風呂を見て一言。
「私達の家のお風呂よりちっちゃいね!」
「ちょっルノ! 静かに……ね??」
あっ、そっか失礼だよね。
って、私達の家のお風呂はタイルだけどここは石なんだ。
チャプン 二人で同時に温泉に浸かる。
「あ~……」
「ルノ、お年寄りみたい」
あっ、丘での仕返しされた!
「むぅ……お姉ちゃん嫌いっ!」
お姉ちゃんから背を向けて言う。
嫌いになるわけ絶対ないんだけどね。
「ごめんねルノ! 謝るから許してっ!?」
後ろから抱きつかれた。裸だから私の背中にお姉ちゃんの胸が直接当たって――――ボンッ
顔がどんどん赤くなっていく。
私の背中にもっちりとした凄い柔らかい弾力があああぁぁぁ――もう、卑怯だよぉ……
「ほっ! 本気で言ってないから大丈夫だよっ!? お姉ちゃん!!」
「ふふっ。知ってたよ?」
ああっ! からかわれてた!
温泉を満喫した後は宿屋に帰ってお母さん達と夜ご飯を食べた。
お魚が生で出てきたんだけど生で見たことなんて無かったから私はそれを魚だって認識するまでかなり時間がかかった。美味しかったけどね。
そして私達は取り留めのない家族の会話をして寝る時間になった。
ベッドの代わりである布の塊に少し期待しながら入ってみる。
ベッドとは違う感覚。なんか好きかも。
お父さんが電気を消した。
みんなで「おやすみ」と言い合う。そういえばいつも違う部屋で寝てたから新鮮。これが普通の家族……なのかな?
「ん………んぅ……」
何時間経ったのだろうか。馬車であんなに寝たせいか起きてしまった。
となりを見るとお姉ちゃんはいない。
いないっ!? えっ?
「お母さん! お父さん! 起きて!」
声をかけてもこの二人は酔っ払ってるのか起きない。
私は部屋から出て宿屋のフロントへと向かう。
なんで!? どこに行っちゃったの? なんで何も言わないで――――って……
ふとベランダを見ると、そこにお姉ちゃんはいた。フロントから見ると横姿が見える位置の椅子に座っている。
「おn――」
声をかけようとした。だけど私には出来なかった。
お姉ちゃんの瞳がいつもと違う。
いつもの優しい包んでくれるような青い瞳はそこにはなかった。どこか哀しいような、何かを見透かしていそうな、そんな瞳。
怖い。そう思った。
いや、恐怖心ではないのかもしれないけど似たような感覚を私は感じた。
ただ、それと同時にかわいそうとも思った。なぜかは分からないけど。
「だれ……?」
お姉ちゃんが私に気がついて声をかける。そして、その瞳で見つめられる。
私の声は喉の奥につまって出ない。
「ルノ……?」
お姉ちゃんの瞳がいつもの双眸へと戻っていく。あぁ 優しい瞳だ。
「どうしたの? こんな時間に」
「起きたら……お姉ちゃん……いなかったから」
「ごめんね? 中々寝つけなくて。部屋に戻ろうか?」
お姉ちゃんが立ち上がって私の方へ歩いてくる。
「行こう?」
手が差し伸べられる。私はその手にゆっくりと手を重ねる。
お姉ちゃんはそのまま手を掴んで部屋まで私と一緒に歩いていく。
「お姉ちゃん……何してたの?」
少し怖かったけど聞いてみた。
「ルノが産まれる前の事を思い出してたんだ」
「そっか……」
それが嘘かどうかは私に確かめる術はない。けど、今は信じよう。
そのまま無言で部屋までたどり着き、別々の布団に入る。
「ねぇ……ルノ?」
「…………何?」
「たまには私がルノのほうに行きたいな」
正直、何だか怖かった。けど、お姉ちゃんの方を見ると瞳が震えていた。
断ったら……ダメだ。
「いいよ」
「ありがとう……ルノ」
お姉ちゃんが私の布団に入ってくる。
「しばらく……抱かせて……」
私の事を抱きしめる。私もお姉ちゃんを抱きしめる。
「ルノ……いつまでも……いつまでも一緒にいようね」
「うん……そう……だね」
この時、私はお姉ちゃんの言葉の意味を理解しきれていなかった。まさかあんなことになるなんて――――
えっと、これはあくまでもプロローグです(´・ω・`)
なのでここから僕の頭のおかしさが炸裂するお話となっていくことでしょう(希望的観測)