恋の病
ゆっくりと列車がホームへ入ってきた。
どの車両かは、だいたい分かってはいるけど、入って見なければ分からない。
既に乗っていればいきなりご対面だ。
覚悟を決めたのか、なぜかドキドキ感がおさまっている。
ゆっくり列車が止まった。
つり革、手摺の乗客はまだ少ない。
ドアが開き、中へ入るも、すこしドキドキしながら、周りを見渡すが彼女はいない。
よし前後の車両だ。移動しよう…………
後ろの車両へ行くも、ここにもいないみたいだ。
前の車両か…………
前にもいない。
残りは3駅かー…………
どこから乗ってくるんだろう?
なんかウキウキ感も出て来たところで
次の停車駅のアナウンスが流れだした。
次かも知れない。
よし、実は喋る状況じゃなかった時の為に、メモを書いてきた。
そのメモをポケットから取り出した。
内容はこうだ。
気になって、君に会いに来た。
これに彼女がどういうリアクションでくるか楽しみだ!!
そこからは行き当たりばったりしかない。
列車のスピードが下がってきた。
ゆっくりとホームへ入る。
ホームに目を向け探してるが見当たらない。
何人かが乗ってきたが、多分いなかった。
また念のため前後の車両を確認したが彼女は乗っていない。
残り2駅だ。
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………………………………
2駅を過ぎても彼女は乗って来なかった。
…………………………
ガックリしながら離れ小島までやって来た。
場所と時間は合っている。
いつも彼女が立っている場所に、今俺は立ちながら
自分が乗っていた対向列車のドアを眺めている。
彼女は今日休みだったんだ。
俺も休みなんだから、たまたまかち合っただけか。
骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだな。
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列車に揺られながら自分の最寄り駅まで
帰ってきた。
列車を降り、疲れながらもコインパーキングまで来た。恋の病かも知れない。なんか疲れている。
駐車代を払い、今日の目的地へと車を走らせる。
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目的地に着くと疲れてたせいか急に眠くなって来た。
………………
……………ここはとある病院……………………
『ピーポーピーポーピーポー』
救急車か。なんかぼんやり目が覚めると……
「哀川さーん、哀川隆介さーん」
「あっ、はい」
「お入り下さい」
「はい。」
……………………
「隆介くんどうだい、なにか変わったことはあるかな?」
「いえ、いつも通り、全然問題ないです。」
「毎回言うけれども、大丈夫だからといって無理はダメだからな」
「はい、わかってます」
「あっ!でも先生ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「なんだね?」
「今大丈夫とは言いましたけど実はここ2、3日胸がドキドキと言うか、ドクン、ドクンと言うか大きくなるんです」
「ん~どれどれ、なんか心当たりでもあるかな?」
「女性と会ったときに」
続きを言うもいきなり先生が
「ガハハー」と笑い出す。
「恋の病て言いたいんだろ隆介君」
「いえ、そういうつもりはないんですが、ただなんか違うんです」
「まっ一応カルテには書き加えてはおくけど、恋の病と」
「やめて下さいよー、真面目にいってるんですよぉ?」
「じゃ私も真面目に言うが、まっカルテにはそのまま書くとして、君の心臓は私が見てきた中でも1、2を争うほど君に確り機能しているんだ。」
「自転車通勤など、走ることもよくあると言ってたね?」
「 はい」
「手術からもう丸4年になるけど、なんの合併症も見当たらない。」
「相性が抜群にいいんだよ」
…………………………
そう、俺は四年前、心臓移植を受けている。
四年前に新たな人生を歩み始めた。
2人分の新たな人生を………………