22話
今、彼のいた駅と同じ方向に向かう線路の前に立っている。しかも先頭車両が着く場所の1番前のドアに‥‥
彼がまだいるかを早く確かめたい‥‥
列車が直ぐ来る筈もないのに、心の中では早く来てよーって、そんな気持ちで列車を待っている‥‥それが体中に蔓延している‥‥
《間もなく快速列車が到着します。白線までお下がりください》
早く来てよっ!
列車がゆっくりとホームに入ってきた‥
何故ゆっくりなの!
列車が停まりドアは開いた。
開いたドアに勢いよく入るも直ぐドアが閉まらない。
1つ、1つが凄く長く感じてしまう‥‥
私の乗っていた列車は快速列車‥当たり前だけどこの列車もそう‥‥
2つ、3つの駅を通り過ぎて行くんだ‥‥
もう列車に乗ったかも知れない。
何故彼はあの駅にいたんだろう?
もしかしたら、彼女を送ってあの駅に降りたのかも知れない?
でもちよっと待って、彼女と決まった分けじゃ、ないじゃない!
お姉さんかも知れないじゃない。ただの知人かも知れないし。
きっと私の早合点だわっ、そうよっ。
そう思ったら余計に逢いたい‥‥
まだいるよねっ、まだ座ってるよねっ、‥
お願いだからそのままそこに座ってて!!
お願い!!‥
そして彼のいる駅のアナウンスが聞こえてきた。
駅が近づいて来た‥
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今、ここで彼女と沙也加のことを考えてもしょうがないか‥明日は木曜日‥‥さて帰るかっ‥
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列車はスローダウンしホームへ入っていく‥
彼は何処?彼がいない‥‥
嫌だ、嫌だ
もう先の列車に乗ったの?
いや、あれって‥‥
よく見みると改札口に向かってる1人の男性がいた‥
彼だ!
列車が止まる‥‥慌てて駅のホームへ降りた‥‥
私は走って改札口を出た。彼を見失う‥
でもまだ近くにいるかも知れない‥‥
何処へ行ったのよー‥‥
私はここにいるのよー‥‥
駐輪場の看板が目に止まると、直ぐにそっちに体が動いた。
そこにいるかも知れない‥‥
彼の残像が何処なのか必至に探している‥
涙が出て止まらない、子供がお母さんとはぐれた見たいになってる‥‥
駐輪場に着くと辺りを見回した。
すると遠くに自転車を漕ぐ男性がいた。
あれかしら?
私に回りを気にする余裕はない。直ぐ声が出た
「何処へ行くのー!!」
「私よー!!」
でも私の声は届かないのか、こっちを振り向いてくれない‥‥
彼じゃないの?
彼は何処?
何処なのよー!!
嫌だ、嫌だ!!
どうにかなりそう‥‥
私が逢いたいのは彼なんだ!!
‥‥
‥‥
ここは何処なの?
‥‥
‥‥‥
私はどうにかなりそうで‥‥
✳
《トゥルルルルー、トゥルルルルー》
誰だろ?
めぐみだ!
「もしもし、めぐみどうしたのっ?」
「もしもし麗奈っ?」
「そうだよっ!」
「あのね、あのねっ‥」
「どうしたのっ、めぐみっ」
「もう少しで逢えたのに、彼が何処かに行っちゃったー‥‥」
「ちよっと?どうしたのめぐみ!」
「今、何処なの!!」
「何処にいるか分からないの‥」
「ちよっと、冗談でしょっ!!」
泣きべそになりながら‥‥
「分からないのよーどうしたらいいのか‥‥」
私は電話をしながらも自転車がいった方向をただ歩いている‥‥
彼だったかどうかも分からないのに‥‥
「分かったから、落ち着いてっ。」
「めぐみ!!廻りに何が見える?」
「分からないよー」
「めぐみ!!確りしなさいっ!!」
「ごめん、麗奈。」
「分かった、分かったから落ち着いてっ」
「何処かの駅に降りたんでしょ?」
「大きな建物はあるの?道は広い?お店は?」
「田舎道みたいな所、段々狭くなって来た‥‥」
「めぐみっ?よく聞きなさい。」
「廻りにお店はあるの?」
「お店はないの。」
「家がいくつか見えて来た‥‥」
「めぐみその田舎道、坂がある?」
「うん、坂になってる」
「麗奈っ、何か思い出して来たの‥‥」
「思い出したって?」
「やっぱり私は誰かを探しにこっちに出て来たのよ‥‥」
「そしてこんな気持ちになってるんだもん」
「きっと、彼なんだっ!」
「私もそう思うよっ、だってめぐみがそんなに真剣なんだもん。きっとそうよっ」
「でも、それがそうだとしても、何故こっちだと分かったのか、それはわからないのー」
「わかった、それは帰ってからゆっくり考えよ?」
「めぐみ、そこ、田舎で坂なんだね?」
「うん」
「家は近くに有るんだねっ?」
「うん」
「めぐみっ?何分位歩いた?」
「15分位‥」
「彼は何処行ったんだろう‥‥」
「わかったよめぐみっ。だから一緒に探そっ。」
「めぐみっ?今から車でそっちに行くからねっ、そこを動いちゃ駄目だよっ!!」
「うん、分かった‥」
‥‥‥




