恋は満潮
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会社の椅子に座り、考えこんでいる私‥‥‥
私が怒りっぽい日を過ごす切っ掛けとなったのは、多分あの彼が原因だったんだ、きっと‥‥‥
少しづつではあるけれど薄らと思い出してきた‥
彼が女性と一緒にいる所を見かけ、そしてその直後‥‥私の中に、急に嫉妬心みたいなものが働いた‥
‥‥‥
そうよっ、思い出した‥
私、急に怒ってその場から離れたんだ‥
どうしよう、大変!!
きっと、そんな私を見て何なんだあの子はと思ってるかも知れない‥
そっぽ向かれたんだ‥‥
だから今日、彼はあの車両に乗ってなかったんだ‥‥
昨日もかも知れない‥‥
でも何故私が怒る必要があるの?
彼と一緒にいたのは彼女なのかも知れないのに‥‥
分からない、でも何か悔しくて‥
毎日彼女と会うんだろうか‥‥
嫌だ!
そんなのやっぱり嫌だ‥‥
何故嫌なのかも分からないけど‥
ただ逢いたいくてしょうがないこの気持ち
これはどうしたらいいの‥‥
誰か教えて‥‥
‥‥
「めぐみー大丈夫?」
麗奈が私の目の真ん前で手を小刻みに振っている。
「あっごめん。何か私ぼーとしてた?」
「うん、してた。」
「帰ろっ、めぐみ。」
「うん」
歩きながら私は、朝の事を誤った‥
「麗奈、ごめんね、朝のこと。て言うか昨日、一昨日と」
「カリカリしてばっかりだったね」
「ううん、大丈夫だよ。」
「ただ、めぐみが困ってること、もっと知りたいのにちょっと残念だなー」
「ごめん、実は私も分からないの、自分が」
「じゃ、私もっと分からないね」
「ごめん」
「ひょっとして対向列車の彼のことが原因?」
麗奈が踏み込んだ質問をぶつけてきた‥‥
「ごめんめぐみ、ちょっと入り過ぎた?」
「ううん」
「私もここと言うときは麗奈がいる。だからぎりぎりまで我慢してたのかも」
「我慢しないで、何でも話していいんだよ、めぐみ。」
「うん、有難う」
「じゃそうするよ、麗奈。何でも話す」
「そうしてっ、」
「何かめぐみの口からそれを聞いて私もホッとした‥」
「ごめん、麗奈にも凄く心配かけてたの今、凄くわかった」
「いいのよ、でもよかったっ」
「私もよかった」
「で、めぐみ?」
「何?」
「突然だけど、私から1つ聞いていいかな?」
「うん、何?」
「めぐみが会社に入社した頃の話しするねっ。」、
「えっ?あっ、うん」
「私に言ってたことの中に1つ分からないことがあるの」
「分からない事?」
「何?」
「めぐみが自己紹介の時にある人を探しに田舎から出てきたと言ってたの覚えてる?」
「えっ?」
「ある人を探しに?えっ?そんなの言ってた?」
「うん、皆聞いてるんだけど、その日の帰りに、私が誰を探しに来たのって聞くと、今と同じようにそんなの言った?って私に‥」
「えっ?」
「そのあと何人かでめぐみのことを、何あの子?ちょっとおかしな子だねって」
「でもそれっきりで、あとは普通、いや、それ以上に友達思いで、後輩思いで、それに発言力もあって、しまいには、男性からも女性からも憧れの存在になるんだもの」
「そんなことないよ」
「だから最近のめぐみを見るまで、その事を封印した形になってたんだと、私は今そう思ってるの」
「めぐみはやっぱりそのこと憶えてないんだよねー、今も?」
「うん。でも不思議?で凄く気になる」
「でその対向列車の彼がひょっとして探してる人なんじゃない?」
「その人って前に会ったことあるの?」
「ううん、それがないの‥」
「初めて会った時が対向列車の中なの。で、ドキドキして、放れていくと何か凄く辛くなるの」
「そして、次に会った時には涙も出てきたの、確か」
「確か?」
「うん」
「やっぱりめぐみ、全部は憶えてないんだよ、きっと」
「そうなのかも。でも少しづつ思い出してる感じはするの」
「ただ彼と会った瞬間、こう思ったの。やっと逢えた‥」
「これだけは直ぐに自分の中に入ってきたの」
「やっと逢えた?」
「うん。」
「居酒屋へ行く途中にめぐみが言った、もう少しで会えるからねっ、と何か被るわ?」
「めぐみが辞めることになってた最終日だよね。その彼と初めて会ったのって」
「うん、そうだった」
「その最終日に彼と会わなかったら、私、本当に会社を辞めてたかも知れない」
「そうだよ‥」
「‥‥‥」
何か麗奈が考えている‥‥
「麗奈?どうしたの?」
「いや、何か気になって‥‥」
「何故その最終日に彼と巡り会えたのか?」
「本当だ‥」
「本当だって、めぐみ、もっと確りしてっ」
「‥‥‥‥」
「めぐみー?」
麗奈がまた何か考えている‥‥‥
感が鋭い所がある麗奈に、私はのめり込んでいきそうに‥‥
「‥‥」
「どうしたの、どうしたの?麗奈?」
「めぐみっ?」
「何、何、麗奈?」
「あのさ、ひょっとして会社の誰かに、彼と接点がある人がいるんじゃない?」
「えっ?接点がある人?」
「うん」
「会社の中に」
「うん、そんな気がする」
‥‥
--私は麗奈と話し込んだあと、麗奈と別れそのまま列車に乗った‥‥
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俺はいつもの、 自分の最寄り駅まで帰って来たけど、改札口へは出ず、ホームの椅子に座り考え込んだ。
明日また沙也加は乗ってくるのか。対向列車の彼女はもう乗って来ないのか。
1日開けて明日は、実は対向列車なんてこなかった‥‥
それは絶対ない!!
あれは現実たがら‥‥
地震も確かに起きたんだ、彼女も存在する絶対に‥‥
あれからまだ1か月なのに…・何か凄く長い1か月に思える…・
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‥‥私は列車に乗りながら麗奈との話しを思い出した‥‥
もう少しで会えるからね‥‥
もし麗奈の言う通り、私が本当にそんなことを言ってて、その会いたい人がその彼なら、私の過去に彼が存在していたことになる‥‥
私は彼のことを考えながら列車に揺られている‥‥
いつも途中に停車する駅に向かって列車はスローダウンして行く‥‥‥
そして列車は駅に停車した。列車の後ろのドアが開く‥‥
私は向かいのホームに目をやりながら彼のことを考えている。
そして何気なくそのホームを見ていると1人の男性に目が止まった‥‥
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‥‥彼女のことを考えてるせいか、何か小さくドクン、ドクンと聞こえるような‥‥
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下を向いているその男性が顔を上げた瞬間‥‥
私の体の中に激震が走った‥‥
彼だ!!
私は慌ててそのホームに降りようと体が反り返るぐらい逆の扉に向かうも、扉は無情にも閉まってしまう‥‥
私は扉を叩いた!!
列車は動き始める‥‥
直ぐに彼の側の扉に移り、また扉を叩いた!!
ひと目も憚らず‥‥‥
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このドクン、ドクンってそもそも彼女のことを考えた時に、ランダムで起こる症状なのかな‥‥
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私よ!!
気がついて‥‥
私はドアにしがみ付きながら何度もドアを叩いた‥
離れて行くのが嫌で直ぐに涙が出てきた。
もう少しなのに‥‥
何故こっちを見てくれないの!!
‥‥‥
私は次の駅に止まるも直ぐに降り、彼のいた駅に戻る為、ホームからホームを走った‥‥




