仕掛人
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昼のチャイムが鳴りだすと、私は解放されたかのように真っ先に食堂へ行き、そしていつものように麗奈とお互いのお弁当をつつき合い、お喋りをする…………
今日もその筈だった。
いつものチャイムが鳴る。
…………食堂へ行き、いつもの席へ着くも、
麗奈はまだ来ない。
待ってる間にキョロキョロ見渡すとそこへ後輩の春が食堂へ入ってきた。
「ねぇねぇ春~」
その声を聞き付けた春が待ってましたかのように駆け寄ってくる……
「めぐみさん何でした?」
「麗奈、もう来るかなー」
「えっ、麗奈さんですか?」
「うん」
「麗奈さん今日はお休みですよ。めぐみさん知らないんですか」
「あっ!!そうなんだ」
麗奈とは半年前までは同じ係りだったけど、今は離れているせいか、たまに休みを聞き逃す時がある。
「あっ、そうだめぐみさん、この席いいですか?みんなまだ来ないから」
みんなとは春の取り巻きのことだ。
「うん、いいよ」
春は礼儀正しくて、気も利くし、そして明るい。
だからお喋りしてても楽しいし会社でも人気者だ。
「めぐみさん、もうちょっとでお別れなんですね。何か寂し過ぎます」
「うん、私も寂しいよ。春の顔が見れないと」
春が寂しそうに……
「めぐみさん、実家に帰るって聞きましたけど本当なんですか?」
「うん、でもまだ迷ってるの」
そう言うと春が少し張り切った様子で。
「えっ、そうなんですか?だったら帰らないで下さいよー。そしたら麗奈さん繋がりでまた会えるかも知れないじゃないですかー」
「うん、そうだね。私も春とまだまだ遊びたいしね」
「そうですよ、いっぱい遊びましょ」
「うん、そうだね」
春が思い出したかのように……
「あっ、そうだ!めぐみさん」
「何、春?」
「何か近いうちに合コンがあるって聞いたんですけど、めぐみさん聞きました」
「あっそれ麗奈にも聞いて誘われたんだけど、断ったの。止めとくって」
「えー行きましょうよー、めぐみさん。いっぱい遊ぶって、今言ったばかりじゃないですかー」
「んー、でも麗奈には断ったからー」
「麗奈さん、そんなの気にしないですよ」
押しの春に私は少し怯みながら、
「んー、でもー」
「行きましょうよー。めぐみさんと一緒にって、もうないと思ったら、もうこれが最後なんだもの」
「ん~、じゃ考えとく」
「やったー!!
じゃ、私、行きますね。絶対ですよ!!」
「うん」
考えてとくって言っただけなんだけど…………
春の取り巻きが入ってきて、いそいそと春は他の席へ移っていった。
…………
食事が終わり、麗奈に電話してみる。
「もしもし」
「あっもしもし麗奈」
「うん、どうしたの」
私はトーンを低めに…………
「麗奈今日、休みだったんだー」
「そうだよ」
「でさぁー麗奈」
「なに?めぐみ」
「春がさー、コンパへ私も来るようにって、何か気合いが入ってるのよー。」
麗奈のトーンは急に高くなった、
「そうよー、やっぱりめぐみが来なかったらはじまらないわよー。みんな思ってることは同じなんだってー」
私はトーン低めで
「で、その春さー」
「うん、何?」
トーン高めで言ってみた。
「あなたの差し金でしょ」
…………………………
「ばれた?」
呆れた様子で
「ばればれだよー」
「ごめん、ごめん、そっちは春の方が勢いがあるからさー、ひょっとしたら行くって言うかもって」
「まっでも、そのことで電話したのもそうなんだけど、この間の話しも聞いて欲しいなっと、思って」
「うん、わかった。じゃ、今日終わったら電話頂戴。それと私もめぐみに聞いて欲しいことがあるの」
「でも、今日、早出勤で残業が有るから、また明日食堂で話そっ」
「うん、わかった」
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俺は病院を後にし自宅へと車を走らせているその道すがら、彼女のことばかりを考えている………………
黒髪でストレートの女性を見ては思い出し、他には電車を見ては思い出す。勢いかけて自転車を漕ぐ人を見ても思い出す。
どうなってるんだ!!
恋の病だけでは片付けられないぞこれは。
彼女に関連があると兎に角思い出す。
ひょっとして、これってストーカーとか言うやつに発展しないだろうか。
か、すでにストーカーなのか?
ばかな?まだ会ってもいないだろ。
会おうとしたことは確かだけど。
思い出したかのように落ち込んで…………
そうだ、会えなかったんだー
はっ!!
待てよ、ひょっとして彼女、毎週金曜日が休みなんじゃないだろうなー
それが解れば、金曜日に公休希望を出せばいいんだ。
……………………付き合えればの事だけど




