05 終わるいじめ
翌日、梨ノ山中学校は多くのマスメディアがやってきた。
不審火で四人が死んだ後で少年の自殺、しかもその少年が不審火を起こしたのは自分だとほのめかした。
これが一大事なはずがない。
マスメディアは一人一人の生徒に片っ端から話を聞いてくる。
櫛川はそのマスメディアの群れから抜け出すように、登校する。
マスメディアはカノジョに声をかけることはなかった。
※※※
櫛川は二年二組の教室へ入る。
自分の席へ着く前に、花瓶があることに気づく。
亡くなった白雪、木上、左山、道長の机に、花瓶があった。
――ヒマワリ、カサブランカ、ラベンダー、アサガオ。
――この花瓶を置いたヒトはセンスがない。
櫛川はそう思いながら自分の席へと着く。
「よ」
男子生徒が櫛川に声をかける。
櫛川はその声に怯える。
「ビックリすんなよ」
その声の持ち主が伏原だとわかると、櫛川は表情を戻す。
「昨日、何してた?」
「唐突だな」
「答えて!!」
櫛川の大声に伏原は苦いカオをしながら、彼女の言葉に応える。
「秋本と一緒にいた」
「それから?」
「色々と話した」
「それから?」
「別れた。死ぬのなら何か一言ぐらい言ってくれたらよかったのにな」
「そう」
「そっちは夕方頃、何をしていた?」
「小林先生と話をしていた」
「何を話した?」
「面白くない話よ」
櫛川はそれ以上何も言わず、カバンから教科書を出す。
「置き勉すれば、そんな面倒くさいことしなくてもいいのに」
伏原はそんなことを言うが、櫛川は相手にせず、カバンに入れた荷物を机の中へと入れた。
「おはよう。フッシー」
女子生徒が伏原に挨拶する。
「おはよう」
伏原が手をあげると、女子生徒も手をあげる。
そして女子生徒は櫛川の傍を通り過ぎて、自分の席へと戻る。
「おい」
伏原は不満そうな声をあげる。
「なに?」
「櫛川にも挨拶しろよ」
女子生徒は伏原の視線をそらすように目を伏せる。
「白雪がトークアプリで既読無視されたとか言っていたが、あれはな、櫛川の家庭の問題なんだ。櫛川の家はスマホを親に預けることがルールなんだよ」
女子生徒はピクリと苛立ちを見せたが、伏原に言い返すことなく、ただ立ち尽くす。
「白雪が意地悪されたって言っていたけど、四六時中、スマホを使っていた白雪の方が問題なんだよ。それなのに自分が正しいばかりに大声で叫んで櫛川を犯罪者扱いにした! 白雪の言ってることが正しいと信じて、櫛川は無視していいのか」
「それは……」
女子生徒の言葉が続かない。
「もういいだろう。いじめは終わったんだ」
そういうと伏原は机に座り、スマホを取り出す。
液晶に浮かぶ動画を見て、何度も笑みを浮かばせていた。
女子生徒は櫛川に近づき、ぎこちない礼をする。
「櫛川さん、おはよう」
「おはよう」
櫛川が挨拶した瞬間、他の女子生徒が教室に入る。
「おはよう、櫛川さん」
櫛川はその場から立ち上がり、頭を下げる。
「おはよう」
男子生徒が教室に入ってくると、櫛川を見つける。
「おはようございます」
「おはようございます」
櫛川はクラスに居るみんなと久しぶりに挨拶し、ちょっとした笑顔を見せるのであった。