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pipi pipipi pipipi pi… ピッ!無意識に携帯のアラームを止めるとだんだん頭が働きだしてくる。
高校2年になった春から俺は奇妙な夢を見るようになった。時代とか分からないが一言で言えば昔だ。昔話に出てきそうなほど昔な感じがする。夢の内容は、ある人家族の日常を見ているのだ。家族構成は夫婦に男女の双子の4人。仲が良いらしく楽しそうにご飯を食べているとろこや、山深いところに住んでいるのかみんなで雪かきをしていたり、たまに夫婦喧嘩をしていたりする。仲の良い家族を見るのはいい。穏やかな気持ちになるし、ほのぼの系は嫌いではない。
でもそれは、テレビは本の中での事だ。
何で、何で俺がそのほのぼの家族の母さんの位置から夢を見ているんだ?大事な事はもう一度言おう。俺はほのぼの家族の母さん位置から夢を見ている。
たとえばご飯を食べていれば、家族が美味しいって言って食べてくれるとうれしくなる。雪かきのときは終わったら温かい汁でも作ろうと思った。ただ、あの夢は辛かった寝てただけのはずなのに疲れていてしかも月曜日で本気で自主休校を考えた。せめて夢の中で飯食ってから起きればよかったと後悔したほどだ。
そして今日の夢が夫婦喧嘩だった。詳しい事は分からなかったが、旦那になる男が村の女に言い寄られているのを見てキレた。そして、最終的にはあれだ、ほら分かるだろう。なんだかんだと慰められら体で…。
旦那とはいえ男が覆いかぶさってきたら引くだろ、ドン引きだろ。殴るとか蹴るとかするだろ。でも俺、夢の中だと奥さんなんだよドン引きどころか喜んでんだよ。お前だけだとか、子供もう1人作ろうとか言われて頷いてたりするんだよ…。
脳みそが覚醒して夢の出来事を思い出してしまい
「うぎゃーーー」
叫んだら
「うっさい。あんた何時だと思ってるのよ。朝っぱらから叫ぶな絞めるぞ。」
怒られた。そんな早い時間でもないのに姉ちゃんならマジでやる。俺より大分小さい姉ちゃんは見た目可愛いが中にいるのは鬼でおっさんで腐女子だ。ろくでもない姉ちゃんについてはいろいろ言いたいこともあるが、それはまた今度だ。
「ヤバイ。姉ちゃん夢。夢見た」
「えっ!!あの面白ドリーム見たの?よし分かった、10分で着替えてリビングに来なさい。そしたら絞めるのは延期してあげる。」
「姉ちゃんメッチャいい笑顔だけど、俺の悲鳴聞いたよね、ヤバイって言ったよね。言わないとダメ…ですよね。はい。分かってます。着替えるので待っててください。」
笑っているだけなのに怖い。俺の返事を聞くと楽しそうにリビングに降りてった。
「遅い。お腹減ったよ。そして私に笑いの提供をして。」
急いで降りてきた俺の方を見ることなくスマホをいじっていた麻友ちゃんは欲望を隠すことなく言い放つ。スマホの相手は付き合って2年になる彼氏だろう。こんな鬼のような彼女と付き合ってくれている彼氏さんに感謝でいっぱいだ。
「麻友ちゃん……急いでご飯作るから話はその後でいいかな?片手間で話したくない。」
「ん?昨日の夢はそんなに楽しい事あったの?友樹がそういうなら後でもいいけど、笑える出来事は早く知りたいな。それに夢って時間がたつと忘れるでしょ。」
「大丈夫。忘れたくても忘れられない。いっそ記憶から削除してしまいたい。聞くだけの麻友ちゃんはいいけど見てる俺は笑えなし、夢がだんだんリアルになってくるんだよ。いっそ無かった事にして引きこもってみようか。」
最後のほうは麻友ちゃんに向かって話しているというより独り言のようになってしまった。だが、手は動かす。
「引きこもるのは勝手だけど、きっちり話してもらうよ。逃がさないから。そして場合によっては、おもいっきり笑わしてもらう。」
「逃げられないのは分かってるから、ご飯作ってる間に腹くくるから父さん達よんできて。」
しゃべりながら台所へ行き冷蔵庫の中から、ある物を使って朝ご飯を作り上げていく。麻友ちゃんに話しをする時間を逆算したらそんなに時間をかけていられない。ご飯は昨日から仕込んであるので茶碗に注ぐだけだし、ワカメと豆腐の味噌汁に甘い玉子焼き、軽く炙ったノリと焼き鮭に漬物をテーブルに乗せれば完成だ。