第九話:ノート≠お弁当
第九話
ノートの交換条件としてリリィさんのお弁当を作ることになった。おかずの位置も、いつもより気を使っている。
「…料理は愛情、まごころ…つまり、ハートか?」
白ご飯では申し訳ない。やはりここはまごころお米にコメましたと表現するためにそぼろをハートにしておいた方がいいだろうか。
「ハートにしてくれたの?祐城のくせに気が利くじゃない」
多分、リリィさんはこういってくれるだろう。今後も僕の気遣いに泣いて喜んでノートを好きなだけ貸してくれるはずだ。
「…いや、ないよ」
「え?じゃあ安子はどういう感じになると思うんだ」
脇から出てきた安子がしばらく考えていると、ぽんと手を叩いた。
「…ツンデレがどういったものか、わかってない」
「…ハート?ハートって心臓でしょ。だったらもうちょっと正確にそぼろで書いてくれてもよかったんじゃないの?見本が無いですって…そこにあるでしょ?えいっ(ぐちゃっ)ほら、あんたのこれを見て書きなさいよ…あらら、あんたのケチャップがついてお弁当が美味しそうになったわね」
「そんな、感じ…」
「何だかツンデレというより猟奇の匂いがするんだけど」
なんてスプラッタな絵なんだ…絶対にリリィさんはそんなことしないだろう。
「…だらけてきたなぁと思ったら下ネタか猟奇を入れるといいって、偉い先生が言ってた」
そんな安直な事を言う奴はいないと思うんだ。
「猟奇はともかく、純情ロマンチスト朴念仁の僕に下ネタはちょっと無理がある」
僕の言葉にどう思ったのかは知らない…安子は冷蔵庫の中をあさって材料を出してきた。
「…お兄ちゃん、こんなところに雄々しいソーセージとギャラティカなヒジキがあるっ」
「おっと、こっちにはミートボール…はっ、リリィさんの恥じらいの顔がこの材料を使えば…って、やらないからね?」
「…ちぇー」
着替えに行った安子のお弁当をちゃちゃっと作ることにして結局リリィさんのお弁当は僕らと同じ内容となった。ちなみに安子のやつだけスペシャル弁当にしておいてやった。
食材を冷蔵庫から出してそのままにしていった報いを受けるといい…。
「…うーむ、結局ハートになってしまった」
家の前で待ち合わせして、リリィさんが出てくるのを待つ。安子は今日の日直らしいので既に学園へ行ってしまった。
「ごめん、遅くなったわ。待たせたわね」
「いいや、今来たところだよ」
「…さっきから『まだ~?』連発してたくせに良く言えるわね」
ジト目で見てくる階下の住人には微笑みをプレゼントしましょうねと昨日の特番で言ってた。今日の占いでも『階下の住人にお弁当を渡せば仲良くなれる!』とあったから間違いないだろう。
「空耳だよ。よくあるから気にしないで…っと、お弁当持ってきたよ。はい」
話をそらす恰好のアイテムがあったことを思いだす。
「ありがとう」
「ついでにノート、助かったよ」
「ん、また何かあったら貸してあげるわ…その時は…」
ちらりとこちらを見て、リリィさんは押し黙った。
「どうしたの?あ、トイレに行きたくなった?」
「…なんでもない。あんたに期待した私が悪かったわ」
「まだお弁当を食べてもいないのに変な事を言うんだね。期待していていいよ?愛情はちゃんと入れたから」
「…うっさいわね」
少々、機嫌の悪くなったリリィさんと共に歩いていると携帯電話が鳴り響いた。
「丸地から?」
「そうみたい。えーっと、今日は風邪ひいたからお休みするんだってさ」
「そう、ちょっと心配ね」
「…怪しい」
「祐城?」
「え、あ、そうだね」
葉奈…もしかしなくても宿題をやっていないんじゃないだろうか。昨日の授業中、完全に寝てたもんなぁ。
その日の授業ではまぁ、何と言うか…件の宿題を提示した先生が風邪をひいて休みになり明日に引き延ばしとなった。
そしてお昼時。
「今日は丸地が休みだから教室で食べましょ」
「いいよー」
葉奈がいると女子が全員集まってきて大変な事(主に葉奈が身動きを取れなくなる)になるので屋上が基本だ。
葉奈が休みと言うわけで、クラスの女子も当然僕らの周りにやってはこない。
「…丸地君休みか…」
「あたし、丸地君をみる為だけに来てるのに居ないなんて…」
「放課後、みんなでお見舞いに行きましょう…」
何だろう、葉奈に負の感情を抱いてしまった。
「丸地のどこがいいのかしら」
リリィさんがたこさんウィンナーをかじりながら首をかしげている。
「名前。他?直接聞いてみればわかるかな…ねぇ、葉奈の良さって何?」
疑問に思ったので女子に聞いてみることにした。葉奈本人に聞いてもよさはわかるまい。
「…」
「…」
「…」
「あれ?軽く無視されてるっ」
「丸地のよさって何?」
「全部ね」
リリィさんの言葉には反応する女子に対して不満を持つ。
「まずなんで僕が無視されたのか理由を聞こうか」
「だって、祐城君と話すと妊娠するって聞いたの」
「目があったらだめだって」
「どこの誰?そんな噂をばらまいたのは!」
「そこに居るデレッタさ…じゃなくて、丸地君」
既にここの女子生徒達は葉奈ウィルスに感染していたらしい…。うっとりした眼で葉奈の席をみて居やがる。
「くそう、葉奈の奴め…」
羨ましいったらありゃしない。妬ましい…ハンカチの角を食いちぎりそうだ。
「うう、葉奈に劣っていると言うのが悲しい」
「あ、えーっとね、祐城君もそこそこかっこいいけど…ねぇ」
「うん、もうあれだし…」
何やらみんなが僕らの事をにやけてみている。
「え?どうしたの」
「…ゆ、祐城は気にしなくていいの。ほら、さっさと箸を動かす!」
「うーん、納得いかないけれどそうだね」
女子が僕らを見ながらきゃーきゃー言っている。女子って理解に苦しむときがあるよ。