六話 炎の島フィアリ
六話 炎の島フィアリ
飛翔百五十二年、晩春。
炎の島の南の港に、一艘の船が到着した。
「……やっと着いた。うっ……」(ヤバッ、吐きそう。俺、船酔いするんだ……知らなかった)
船から降りた少年、アルはなんとか船を港につけ、深呼吸などをして気を落ち着ける。
数十分後。
「よし、行くか。」
幾分気分もよくなって、アルは荷物を持つと港を出て村へ向かう。
村は、ウィドリークのアルの故郷よりは少し大きいくらいのところで、建物は独特の雰囲気を持っていた。
正直、一瞬村へ入るのも躊躇われたが、アルは意を決して中へ入った。中に入ってみれば、建物以外は案外普通で、アルは少々拍子抜けした。しかし、気を取り直して聞き込みを開始する。
田舎の村で育ったアルは、外の島のことなどろくに知らなかった。ましてや、存在が忘れ去られそうになっている【闇の秘宝】の在り処ことなど、知っているはずもなかった。
「すみません。最近、この村で何かありませんでしたか?」
しかし、まぁ。それは村の住人といっても、一般人なら同じこと。ストレートに聞いて答えが出るとは思わなかった。
何人かに質問して回って、何人目かの・・・主婦らしき中年女性に話しかける。
「すみません……」
「そうねぇ……。なにか事件があった、とかは聞かないけど?」
「そうですか」(また駄目か……)
アルは正直疲れだしていた。
「でも、ここに限らず、最近は大変らしいじゃない?いろいろと」
(あ……ヤバイ、捕まった)
女性は、何か話したくてたまらなかったようだ。しかし、近所の人たちは忙しそうに行き来していて、邪魔はしづらい。そこへ、いい獲物がかかったわけだ。
「なんでも。最近海が荒れてるらしいじゃない?長様が言ってたけど。海に出ると化け物が出るとか……」
女性の言うとおり。実は、アルがここへ来る時も、船の上で数回化け物・・・魔物の襲撃を受けた。
「ほんと、怖いわよねぇ。まぁ、村の中にいれば、長様の魔法で守ってくださっているから安心らしいけど」
「長様?」
先程から何度か出ている名詞。ちょっと気になっていた。
「あら、あなた。長様を知らないの?!」
「はい、恥ずかしながら」
アルは頭をかきながら女性に答える。
「そうなの……。じゃあ、私が教えてあげるわ。長様はね、この国で一番の力を持った方なの!」
女性は得意そうに言い切った。
「ちから?」
ただ単に力といっても、いろいろとある。
「そう。この国一番の権力者で、さらに最強の魔法使い」
「権力と、魔力ってことですか」
「そのとおり」
「でも、なぜ……」
それは長事態に力があるのではなく、今回の長がたまたまなのではないのだろうか。
「この国にはね、この世界唯一の魔法使い養成機関、【ルビファン魔法技術学校】があるの。そこの学校長が、国長も兼任してるのよ」
「……なるほど」
アルの疑問を察したのかただ単に知識を披露したかっただけか、おそらく後者であろう女性の説明で、アルはやっと納得する。
「そうそう、長様といえば! 今日新しい長様を決める式典が行われるらしいのよ!」
「新しい長様?」
「そうなのよー。長様はね、任期は特に決まってないんだけど、回りの人の異見や、長様の意向、突然死、気分とかで交代があるの」
「そうなんですかぁ……って、気分?!」
前の三つは納得できるが、最後のは聞き捨てならない。
「えぇ。……それが何か?」
「…………いえ、何でも」(ここじゃ普通なのか? オレがおかしいのか?)
魔法使いというものは、変わり者が多い。個人差はあっても、それはいつの時代も変わらない。
「それで、その長様の交代が今日行われるらしいのよ。どんな方になるんでしょうねぇ。」
「そうですね」(……そろそろ抜けれないかな?)
アルが話を打ち切って去ろうと思ったとき
「長様に代々受け継がれる秘宝とか、式典に来るお客様、会場に並ぶ高級料理の数々!一度見てみたいわぁ」
うっとりとして語る女性の声が耳に入る。
「なんですって?!」
「あらやだ、冗談よ? いくらなんでも、一般庶民の私が長様の館に……魔法学校へ入れるとは思ってないわ」
「それじゃなくて!」
「あら、どうかしたの?」
声を荒げるアルに、女性は驚いたように首を傾げる。
「あ……いや……。式典って、魔法学校で行われるんですか?」
「えぇ、そうよ」
「その……魔法学校って、どこにあるかご存知ですか?」
「え?…………そこの、村の奥に見える山の向こう側の森の中、と聞いたことがあるけど?」
女性の言う方向を見ると、町の……いや、「村の奥」に特別高くはないが低くもない山がそびえているのが見える。
(あの向こう……か)
「ありがとうございます」
アルは女性に一言礼を告げ、その場を去る。
「ちょっと、もしかして学校へ行くつもり?」
「はい」
「魔法使いの館よ? 危ないわ。私たち村の民だってめったに近寄らないんだから。」
初対面の女性に、心配されているようだ。
「大丈夫ですよ」
アルは情報を提供してくれた女性を安心させるように最高の笑みを作る。
「こう見えて俺も、魔法使いの端くれですから」