四話 旅立ち
四話 旅立ち
「いいですか?この近海には、六つの島国があります。ここ、六つの中でも北東にある島、風の島ウィドリーク。中央に位置する一番大きな島、大地の島グランド。
小さな山々の間に人が住まう南東の島、炎の島フィアリ。水上に栄える南西の島、水の島ウォータレス。独自の信仰の元に在る北西の島、雷の島ティアライ。そして……先ほど言った、火山のある最北の小さな島。ここから一番近いのはグランドですが、まずはフィアリ。そこへ行って、五つある秘宝のうちの一つ、【炎の指輪】を譲り受けてきてください」
ウィアの言葉に、アルはすぐに反応することはできなかった。自分の知らない他の島々の話に、頭の中がいっぱいになっていたからだ。
「よろしいですか?」
「あ、はい。……あ、その……。なぜ、炎の島なんですか?」
「そのことですが……。急かすようで悪いのですが、炎の島にはすでに、何モノかが侵入したとの知らせがあったのです。その時はただの下見だったようですが、油断はできません。そのため、一刻も早くお願いしたいのです」
「なるほど。わかりました」
侵入者の話に不安を覚えたが、今はもうやるしかない。
「頑張ってください。私は応援することしかできませんが……。あなたは、選ばれし者です。それから……これからは、アルフォート=アスタ=ウィドリークと名乗りなさい。風の島ウィドリークの代表者のみが名乗ることを許される名ですが……。今は、あなたにふさわしいでしょう」
(島の代表……か)
その言葉に恐縮しながらも、アルはなんだかうれしかった。
「最後にもう一つ。あなたに、これを託しておきます」
ウィアは、アルに小さな……軽い、銀色の耳飾りを手渡した。
「……これは?」
「五つの秘宝のうちの一つ。この島に納められている【風の耳飾り】よ」
「風の……イアリング……」
アルは受け取った耳飾りを小さな袋に大事にしまった。
「あ、因みにそれ、ただの飾りに見えるかもしれないけど、装備するとすごく身軽になれるのよ」
「……え?」
「つまり、旅路を速く移動したり、魔物と遭遇した時には攻撃が避けやすかったり逃げやすかったりするの」
「先制攻撃もしやすかったり?」
「そうね。だから、充分旅の役に立つと思うの」
「へぇ。そうなんですか」
アルはしまった耳飾りを取り出すと、耳に付けてみようとする。銀色のリングには、風を連想させる装飾と、その間に小さな翠玉が施されている。
「ただし!」
アルは、なんとなくいやな予感がして手を止めた。
「秘宝は精神を蝕み、使用者の死期を早めるから、使うときは覚悟しといてね」
「…………は?」(そんな危ないもの持たせんなら、それを先に言えよ!)
そうツッコミたかったが、ウィアが仮にも神様だということを思い出し抑えた。
「まぁ、気をつけて行ってきてね、アルフォート=アスタ=ウィドリーク」
その日の昼、アルは旅支度をして船出した。まずは一つ目、風の島ウィドリークから、南の島。炎の島フィアリへの旅である。
果たして、彼の行く手には、何が待ち受けているのだろうか。
アルが去った後の海岸から、一人の女性が森へと入っていった。
彼女が辿り着いたのは、いくつかの石が立ち並ぶ場所だった。
「あなた、お義父様。あの子が……アルフォートが旅立ちましたよ。とうとう、この日が来てしまったのですね。……どうか、あの子が無事に帰ってきますよう、お守りください」
女性が去った後、その整然と並べられた六つの石の右から二番目と三番目のところには、花が供えられていた。そう、ここは墓なのだ。しかも、「ウィドリーク」ができて以来の、百五十二年前からの、歴代の村長たちのものである。
そして、右から二番目の石に刻まれた文字は・・・
【風の島ウィドリーク五代目村長、ランフォード=アスタ
飛翔百三十六年没 享年四十四歳】
少年、アルフォート=アスタの父の眠る場所だ。
これにて風の巻終了です。
風の島ウィドリークは、小さな島のほとんどが森に覆われ、人々の住む村は森の中にひっそりと存在しています。
森には、動物たちが住んでいますが、縄張りを侵したりしない限り人を襲うことはありません。
ウィドリークは漁業をおもな生業としています。
また、この世界で隣接する六つの島々の中で、一番東にある島です。
風の島についてはこのような感じです。
次は、女神さまに支持された通り、炎の島を目指します。
ちなみに、この話までは毎週木曜日更新でしたが、次の巻からは、基本的に毎週火曜日の更新になります。
始めの章のみ、今日の午後更新します。