二十七話 商業の町‘ベルソード’
二十七話 商業の町‘ベルソード’
アルたちは、港町から、さらに内陸にある町、商業の町と呼ばれるベルソードを目指し、歩いていた。彼らが舟での移動をやめ、徒歩で内陸の町を目指すことになった経緯を知るには、前夜の会話にまで遡らなくてはならない。
小さな明かりだけが灯った部屋で、四人は輪になって話していた。女性は就寝するために自室へ戻っており、もうこの場にはいない。
「それで、この島は、どこに闇の秘宝があるんだ?」
「女神さまからは聞いていないの?」
「それぞれの島に一つずつあるとしか」
「そう」
それぞれの島に一つ。アルが訪ねてきた島では、いずれも初めに立ち寄った町や場所で、秘宝の手掛かりが得られた。しかし、それは島の規模のおかげと言える。
大地の島は、アルの生まれ育った風の島はもちろん炎の島や水の島よりも広い土地を持つ。必然的に、そこに住まう人間も多く、町も多くある。複数ある集落の中から、秘宝の保管されている場所を見つけ出すのは、他の島よりも困難だろう。
「……大地の島には、宝剣が納められているわ。そして、その守り役は、代々王家が引き継いでいるの」
「王家?」
「知らない?大地の島は、王家の納める土地なの」
フォールとセイカは知っていたようで、アルは自分の、世界に対する知識の少なさを恥ずかしく思うと共に、風の島がいかに閉鎖的だったのかを思い知った。
「……じゃあ、とりあえず、王のいる町を目指せばいいのか?」
「そうね。今は……確か、北の王都ランフェンに居城を置いているはずよ」
「城か……」
「あたし、お城見るの初めてなんです!ランフェンのお城はとってもキレイって話聞いたことがあるので、楽しみです」
セイカが期待に表情を輝かせる中、明日以降は王都のある大地の島北の端を目指すことが決まった。
翌朝、舟に向かおうとした4人に、朝食の席で王都を目指すことを話していた彼らは、女性に少々驚いたような声をかけられた。
「あら、舟で行かれるのですか?」
「え……えぇ、まぁ。ここへ来る時もそうでしたし……」
「北の港は、入港料がかなりお高いですけど……失礼かもしれませんが、大丈夫ですか?」
「……入港料?」
「えぇ」
「……ちなみに、いかほど?」
「まぁ、せいぜい十数万ですけど……」
「………………他に、王都へ行く方法は?」
「陸路がありますよ。時間は舟よりかかりますけど」
こうして、彼らが陸路にて、大地の島北の端、王都ランフェンを目指すことが決まった。
港町ショウから一番近い町、商業で栄える町ベルソードへの道のりは、木々に囲まれた獣道をそのまま広げただけのように思える、狭く暗い道だった。
生い茂る植物は日を遮り、視界を悪くしている。また、道も決して整えられているとは言い難いもので、森を抜ける為に予想外の労力を要した。
アルは、いつ、周囲の茂みから魔物が飛び出して、襲いかかってくるのではないかと心配だったが、もう一つ、予想外のことがあった。
「1時の方向に複数の魔物がいるわ。位置からして、街道沿いで待ち伏せでもしてるのかしら」
いきなり何を言い出すのかと思ったが、歩みを進めていくと、程なくして彼女の言ったとおりの方向から魔物が現れる。
身構えていたアルは、なんなくそれらの魔物をしとめることができた。
そんなこと何回か続けば、さすがに彼女の、ユリのやっていることはわかる。ユリは、なかなかの精度の策敵術を持ち合わせていたのだ。
「8時の方向から魔物3体接近中。30秒もしないうちに衝突するわ。」
「フォール、やるぞ」
「おう!」
ユリが見つけた魔物を、アルとフォールが叩き、セイカが弓矢による中距離攻撃で彼らをサポートする。
戦闘中、ユリは周囲への警戒を続け、横やりが入りそうになったときには魔法によってそれを撃退したり、アルたちが戦闘中の敵を倒し終わるまでの時間稼ぎをしたりする。
そんな戦闘中の役割分担が、自然とできあがっていた。
ようやく町の入口にたどり着くころには、すでに日か暮れかけていた。
「ベルソードへようこそ。ご予約いただいている外からいらした旅のご一行ですね?すぐに部屋へ案内させますので、少々お待ちいただけますか」
町で唯一の宿はすぐに見つかった。ユリの髪に奇異の視線が集まることはなく、伝話器による予約のおかげもあり、すんなり入ることができた。そうして今、4人は宿の一室で、旅の疲れを癒していた。
移動には一日を費やしたものの、移動した距離はそれほど長くはない。それでも彼らを疲弊させたのは、道の悪さと魔物との戦闘である。
「とりあえず、お疲れ様」
アルは三人にねぎらいの言葉をかけると、疲れ切った体がすぐにでも横になりたがるのを抑えて、明日の予定を話す。明日はまた王都目指して移動することになるだろうこと、次に目指す町や移動の方法などは、明日、商店などが開いてから調べに行くこと。どちらも移動中にユリに相談して決めたことだ。
「……じゃあ、今日は、しっかり体を休めよう。おやすみ」
翌朝、予定通り町の商店が並ぶ通りへ出た4人は、情報収集を始めようとして、早々に行き詰った。
「行けないってどういうことですか?」
「意地悪で言ってるわけじゃないみたいだけど」
「理由をはっきり教えてくれないのも変ですね」
「言いたくない人と、本当に知らない人の両方でしょうね」
王都に向かいたい旨を話すと、困ったような、あるいは怖がっているような、そんな顔をして、行くことができないとだけ言って会話を終わらせてしまうのだ。
「理由はわからないけど、行けないってことは知ってるんですか?」
「何らかの理由があって、上がそんな指示を出したんじゃない?誰かが来たら困るとか、国民が行ってしまったら危険とか。まぁ、その理由が王都にあるのか、王都に向かう道のりのどこかにあるのか、それ以外か。そのあたりは不明だけど」
ユリの分析に3人は感心するが、残念ながら、問題の解決にはなっていない。
「どうしようか」
「せめて、原因がわかればまだ動きようがあるんですけどね」
「……話したそうにしてる人に聞くのが一番手っ取り早そうね」
「え?」
アルがどういう意味かと尋ねる前に、ユリは唐突に歩きだし、先ほど通り過ぎた店先にいる男の子に声をかけた。
「ねぇ、ちょっといいかしら」
「なんだぁ?おー!ねぇちゃん、きれぇだな!」
「あら、ありがとう。それで、聞きたいことがあるのだけど」
「ききたいこと?おれ、わかるかな?」
「何か知っていることがあるから、私たちを見ていたんでしょう?」
「……なぁんだ、きづいてたんだ」
「隠すつもりもなかったでしょう?」
「まぁねぇー」
「それで、何を教えてくれるのかしら?」
「ねぇちゃんたちがしりたいことをしってるやつがいるところをおしえてやるよ」
「じゃあ、案内してもらえる?」
「うん!」
元気よく駆け出す男の子を呆然と見送る三人に、ユリが振り返ってついていくように促す。
「ユリ、どういうこと?」
「あの子、ずっとこっちを見てたのよ。私が気付いたのは今朝だけど。もしかしたら、昨日この町に入った時点で、私たちを観察してたのかもしれないけど」
「え?昨日って、てか、観察とかなんで……」
「はやくー!おいてくぞー?」
「ほら、行きましょう」
意味の分からないまま、アルたちは男の子の後を追った。
着いたのは、一軒の建物の前。
「……酒場?」
「よるはそうだよ。ただいまー!きゃくつれてきたよー」
中から出迎えの声がして、5人は中へと入った。
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