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五つの秘宝  作者: 逸見真希
水の巻
29/37

二十三話 英雄の資格 後編

 水の島の港に、小さな舟が停泊している。

住人たちが日常的に使う小舟とは違う、簡易な屋根なども付いた島から島への移動に使われるタイプの船だ。

「本当に、ついてくるんだな?」

「うん。……実は、ユリさんの話聞いてから、ちょっと考えてたんだよね」

 アルはフォールに舟の説明をしながら、荷物を積み入れている。

「ユリの話……どれだ?」

「あー、いろいろ聞かせてもらったけど……、小島で夜を明かしてる時の」

「あの時か」

 アルにとっても新鮮なものだったあの時の話を思い出し、二人はもう一人の同行者へ目を向ける。

「……そういや、ユリさんは何をしてるんですか?」

「なんか、魔法で舟の浮力あげるんだと」

「浮力を?……魔法で?」

「あぁ。祠からここまでの短い距離ならともかく、次の島まではきついからな」

「……確かに、この船で4人はつらいよな」

 まだ準備に手間取っているらしく港にいない、四人目の旅の仲間が決まった瞬間が、二人の頭によぎる。


 アルが勇者の子孫であるとわかり、祭司をはじめ、その祭司を信頼する町長たちも、アルのやろうとしていることに協力の姿勢を見せ始めた。しかし、先祖代々守るように言われてきた秘宝を手放すのは、やはり簡単に決められることではなかったようだ。

 協力したいをいう態度を見せつつも、なかなか決断のできない祭司と町長に対し、ユリはある提案をした。先祖が頼んだのは、あくまで悪用しようとする者の手に渡らないようにするということである。ならば、秘宝を消滅させる瞬間まで、水の島の者が同行して、その責務を全うしてはどうか、と。

 二人は納得しかけたが、それを、島民の誰かを旅という過酷な環境へ送り出すという罪悪感が邪魔をする。その時、自分が行くと名乗り出たのが、フォールだった。

島の長の子である自分が、水の国の代表として水の首飾りを守るのは自然なことである。

 二人とはセイカを助けるために短い時間ではあるが行動を共にし、悪くはない関係を築けている。実戦でどれだけ通用するかはともかくとして、純粋な格闘術においては大人にも負けることはない。それらの理由を掲げ、そしてさらに、自分が旅に出て、もっと見識を広めたいと思っていることを訴えた。

 町長は息子を危険が伴う旅に出ることを渋ったが、いつの間にか精神的な成長をしていた息子に、最終的には秘宝を守り、アルたちの旅に同行するよう長として指示を出した。


「でも、まさか……あいつまで来るなんて……」

 フォールが旅に同行することが決まった直後、自分も行くと言い出したものがいた。他でもない、今回救出の対象だったセイカである。


 秘宝を守るのは教会で神に仕えるマーキュリー家の者であるべきだ。かつて勇者より秘宝を託されたのも、自分の先祖のセリナ=マーキュリーである。フォールが行くのなら、秘宝ではなく、秘宝を守護する自分の護衛をするのが妥当ではないか。

 そんなことを、父である祭司と、町長へ語った。

 フォールの時以上に反対があったのは、やはり彼女自身の身を案じてのことだろう。戦いの心得があるフォールと違い、セイカは今回何もできずに攫われてしまったのだから。しかし、セイカは引く様子は見せず、その熱意に負けた二人は、アルに判断を委ねた。

 困ったのはアルである。ユリに意見を求めるが、アルに任せると躱されてしまった。アルが迷っている間も、セイカは自分を売り込み続ける。近接戦闘には向かないけど、弓は扱ったことがある。自分の歌には、人を癒す力(ユリの推測では、それも無意識に使用している魔法らしい)がある。

 結局、アルはセイカの旅への動向を認めた。


「セイカちゃんは、信心深いというか……責任感が強いんだな」

「え?」

「ん?」

「なんで?」

「え……だって、家が代々秘宝を守ってきたから、今回も……て言うんだろ?」

「…………いやー、あいつは……」

「おまたせしましたー」

 何か言おうとしたフォールを遮ったのは、元気な声で港にやってきたセイカだった。

「あ、セイカちゃん。荷物はまとめれた?」

「はい。これから、よろしくお願いしますね」

「あぁ。旅はきついと思うけど……、世界のために、頑張ろうな」

「はい!」

 フォールの前に割り込みながら元気よく返事をしたセイカは、アルに向けていた笑顔とは全く違うオーラをまとった笑みでフォールに振り替える。

「これ、舟に積んでおいてくれる?」

「あ、うん……」

 余計なことは言うな、という副音声が聞こえてきそうだ。こういう時の彼女には、逆らうものではない。そんなことを考えたフォールは、ため息をついてセイカの荷物を受け取った。

「……大丈夫なのか? あんなんで」

「ただミーハーな気持ちだけでついてきたのなら、すぐに挫折するわ。そうなったら、すぐに帰せばいいのよ」

「ユリさん!?」

 いつの間にかそばにいたユリに、フォールのこぼした言葉は届いてしまったようだ。

「でも……女って、意外と強いものよ」

「あー、それは、まぁ、わかります」

「あなたも、生半可な気持ちだったら来ないほうがいいわ。今度は、隣の小島に行くだけのとは違う。帰ってこれるのがいつになるのか、今のところはわからないわ」

「……わかってます」

「そう。なら、」

 フォールの顔に真剣さを感じ取ったユリは、表情を改める。

「これから、よろしくね。フォール君」

「…………はい!」

 蒼い海の上の、青い空に輝く太陽が中天にかかるころ、4人に増えた旅人を乗せた小さな舟は、次の島を目指し出港した。

これにて、水の巻は終了です。

次は・・・土曜日更新にする予定です。

そして、一番長く滞在する島になるかと。

今までの巻末と違い、次話予告はできません。何せ、まだ書けていないので。

何年か前の下書きはあるのですが、文章の細部は書き直しが必要なので、いつになることやら……。

仕事もちょっと忙しくなってきたので、少しずつ書き溜めて、ある程度の量になってからまた定期更新?を再開することができればと思います。

その間は、別の小説のストックを消費していくことになるかと。

それでは、長々と失礼しました。

更新再開するときは、また何らかの形でお知らせできればと思います。

予定は未定ですが。

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