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五つの秘宝  作者: 逸見真希
水の巻
26/37

二十二話 戦果と変化 前編

二十二話 戦果と代価



 四人が地上へ戻ると、空はすっかり暗くなっていた。

「もうこんな時間か」

「長い時間地下にいたんですね」

 地下にいる時間の大半を気絶した状態で過ごしたセイカは、時間経過が把握できていなかったらしい。きょろきょろとあたりを見回している。

 地上へ戻るのには、行きよりも多くの時間を要した。長い階段の上りは、なかなかに大変である。下りの方が足への負担は大きいと言うが、セイカはまず自力で降りていないためこの階段は初めてであったし、アルはユリを背負いながらの運動である。ユリが特別重いというわけではないが、なかなか大変だった戦闘の後で、意識の無い人間を背負いながら、普通に登るのも億劫な段数の階段を上ると言うのは、簡単な事では無かった。

 階段を上りきると、今度は上層の魔物たちがひしめく階である。ダンジョンのボスがモンスターたちを統制していた、とかではないため、行きと変わらない数の魔物と遭遇した。行きはユリとアルが二人掛かりで蹴散らした魔物たちを、今回は、残り少ない魔力と気力で風魔法を使うアルがフォローするものの、実質、フォール一人で捌かなければならず、ここでもかなりの時間を要した。

 そうして、なんとか彼らが地上に戻った今、彼らは疲労やら何やらでぼろぼろだった。

「ここは……もしかして、島の西にある小島ですか?」

「あぁ、そうだよ。……言ってなかったっけ?」

「はい」

 洞穴内で使っていた灯りをそのまま使って、セイカは今自分がいる場所をようやく把握したようだった。

「アル。舟に行けばいいか?」

「いや。夜の海は危ないし、ここで少し休憩しよう」

「町はすぐだぞ?」

「夜は、海の魔物の動きも活発化する。注意するに越したことは無いよ」

「そっか」

 アルの説明に納得したようで、フォールは祠の前で適当な場所を見繕い、腰を下ろす。アイダ戦で役に立てなかったという思いからか、元気に、向かってくる魔物を払いのけていたが、やはり疲れていたようだ。

 アルも、荷物で簡易な枕を作ると、背負っていたユリを寝かせる。

「セイカちゃんは、早く帰りたいかもしれないけど……ごめんね」

「いえ。大丈夫です。……でも、その……怖いので、アルフォートさんの、と……隣に、居させてもらっても、いいですか?」

 セイカは顔を赤らめながらそう申し出る。辺りが暗いためアルはそれに気付ず、セイカのお願いに首をかしげる。

「別にいいけど。……ここなら、魔物に襲われることは無いと思うよ?」

 確かに、祠の中の魔物はこれも魔法の力か、人が扉を開けさえしなければ、外へ出てくることは無い。海に棲む魔物たちも、少なくともこの島の海域では、海に出たり海岸線に近付いたりしなければ、それほど危険は無かった。

「ありがとうございます!」

 アルの疑問は聞かなかったことにして、了承の言葉にだけ礼を言って、セイカはアルの隣を確保した。

「……まぁ、いいけど」

 自分の横に座って満足そうな笑みを浮かべる少女に戸惑いつつ、アルは野宿のために荷物から道具を出して、焚き火を始めた。

「フォールも、座るといいよ。疲れただろ?」

 セイカの様子を疲れた顔で見ていたフォールも、アルの言葉に従い焚き火の横に……横たわるユリの隣に腰を下ろした。

「……今日は、ここで?」

「ん?……あぁ。野宿。とはいっても、もう明け方に近いと思うけど」

「そっか、そんな時間なんだ?……眠いわけだ」

「寝たければ寝てもいいぞ?俺が起きてるし」

 現在の時刻を意識した途端、眠気を思い出したのか、フォールは大きな欠伸をした。彼は、いつもならばとっくに寝ている時間なのだろう。アルとてそれは同じだが、年長者であるからと不寝番を買って出る。

「あー……でも、オレ戦闘中に寝たし?」

「気絶は睡眠になんねぇよ」

「……そうだけど……」

 やはり、大事な場面で戦線離脱してしまったことに罪悪感があるのか、フォールは欠伸を噛み殺して、なんとか起きていようと体を動かす。

「ユリシアさんは、大丈夫なのかな?」

「あんまりよくないかもな。全然起きないし……。でも、魔法使いは、大きな魔法使うと……なんていうか、体が休息を求めると言うか……よくわかんねぇけど、強制的に眠りの状態になることがある……らしいから。たぶん、それじゃないかと」

「ふーん……そんな大きな魔法使ったのか?」

「なんか、バリアっていうのか?アイダがなんか凶悪な魔法使ってきたから、それを防ぐのに」

「そうなんだ……」

 フォールが気絶している間にあったことを話していると、アルは肩に重みを感じて話を中断した。重みを感じた方を見れば、すぐ下に、幼さの残る少女の寝顔があった。

「こいつ……寝てるし……」

 セイカがアルの肩にもたれて寝ていることに気付くと、フォールは何とも言えない顔をした。

「今日はいろんなことがあったし、疲れたんじゃないか?」

「…………まぁ、そうなんだよな。ただでさえ、歌う時は体力も気力も使うみてぇなのに……」

「その上で、あんな目に遭うんじゃね。仕方ないよ」

「……でも、いいのか? 重くね?」

「んー……まぁ、どうだろ? 別に、重くは無いけど……あ、この体勢じゃ下手に動けないか。それは困るか?」

「そんなの気にしないで、地面に寝かせとけばいいよ」

「そうか?……でも、なぁ?」

 女の子をそんなふうに扱ってよいものなのか?とでも言うように、アルは首をひねる。

「ユリさんはそうしてるじゃん」

「……まぁ、そうだけど」

 アルにとって、ユリは共に旅をする仲間であり、知識が豊富なユリは頼りにできる、対等な存在という位置づけなのだ。それに対し、セイカは明らかに年下の「女の子」であるし、魔物にさらわれてしまったのを助けに行った、要は庇護対象なのである。

 そんなことを、うまく言えないなりに説明すると、フォールは一応の納得を見せた後、

「でも、こんな状況なんだし、アルが動けないのも困るじゃん。疲れたんなら、地面に寝かすくらいしてもいいと思うぞ」

「…………まぁ、そうか」

 確かに、海に近づかなければそれほど危険は無いだろうと言いつつも、魔物がはびこるこの世界で、見張りがすぐに戦闘態勢に移れない状況というのは困るだろう。アルはそう思い直すと、すっかり眠ってしまったセイカを地面に下ろそうとして、手ごろが枕がないことに気付く。いくらなんでも、地面に直接頭を転がすのも気が引ける。

「どうぞ、これを使って」

 アルが視線をさまよわせていると、思わぬところから声がかかった。

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