二十一話 救出
二十一話 救出
アルとフォールの二人は、それぞれ灯りを持ち辺りを探った。
ユリの意識は、まだ戻る気配はない。気絶しているユリがここに棲む魔物に襲われないかと心配したが、先程の戦いの影響か辺りは不気味なほど静かだった。
しばらく辺りを探っていると、アルは壁のくぼみを見つけた。こんなところにいるとしたら、簡単に見渡しただけでは見つけられないだろう。壁のくぼみを注意しながら捜して行くと、教会の舞台の上で見た色の布が見えた。灯りを当ててみれば、やはりあの時歌っていた少女だった。
「フォール、いたぞ!」
とりあえず、まだどこかを捜しているだろうフォールにも聞こえるように声を上げ、次に少女の様子を見る。外傷はなさそうだ。アイダの意味深な言葉に心配していたが、それも杞憂だったようだ。
「セイカちゃん?」
躊躇いつつも、名前を読んでみる。
「……うん……?」
すぐに反応があり、少女はゆっくりと目を開ける。
「…………だれ……?」
「セイカ!!」
まだはっきりしない意識の中で呟いた少女に、アルの声を聞いて駆け付けたフォールが安堵の息を突く。
「セイカ、よかった……」
「…………フォール? あたし……なんか、変なのにさらわれて……?」
「助けに来たんだ。この人は、旅人のアルフォートさん。あと、もう一人いるんだけど……二人が、協力してくれたんだ」
フォールが説明をしながら手を貸してやり、少女、セイカはゆっくりと起き上がる。
「……あたし、助かったの?」
「あぁ。もう、大丈夫だよ」
少し高くなった視界で辺りを見回し、不安げに尋ねるセイカを、アルは安心させようと柔らかい笑みを作って頭をなでた。
「…………どうした? セイカ」
「え? あ……大丈夫? 顔赤いけど、どこか怪我でもした?」
いきなり顔を赤くして俯いてしまったセイカに、男二人はあたふたとするしかない。
「だ、大丈夫です。その……アルフォート様とお呼びしても?」
セイカが俯いたままではあるものの、怪我はないということなので二人は胸をなでおろした。呼び方を尋ねられたアルは、戸惑いながらも様付けはないと結論付ける。
今でこそ、伝説の勇者を想起させるようなことをしようとしている・・・というよりさせられているが、本人はいたって普通に生きてきた、平凡な少年のつもりだ。
「え? ……あーいや、様はちょっと……」
「それでは、アルフォートさん。」
「うん。何?どうしたの?」
「あたし、本当に怖かったんです。助けていただいて、ありがとうございます。感謝してもしきれません。」
「あ、いや・・・俺一人で助けたわけじゃないし・・・でも、まぁ。どういたしまして?」
きらきらした目で見あげられて、アルは少々居心地の悪い気持ちになったが、感謝の気持ちはありがたく受け取っておくことにする。
「えーと、それで。これから地上に戻らなきゃならないんだけど」
「地上?」
「あぁ、知らなかったかな。ここ、地下なんだよ」
わけのわからないまま連れてこられたのだろう、セイカは自分のいる場所に大層驚いていた。
「えっと、だから……立てそうかな? しばらく歩かなきゃならないんだけど」
「…………えっと、その……ちょっと、足が痛くて……できれば、肩を貸していただけると……」
「じゃあ、フォール、頼むな」
「え!?」
セイカは少し考えた後、言いにくそうに、顔を赤らめながら申し出る。アルが彼女を支える役割をフォールに与えると、セイカは赤かった顔に驚きの色を浮かべた。
「わかった」
そんなセイカの様子などいざ知らず、フォールは今度こそ役に立とうと元気に了承する。
「あ、あの……アルフォートさんは……その……」
「俺は、ユリを連れてかなきゃなんないから」
いくらフォールが鍛えていると言っても、自分よりも背の高い、しかも意識の無い人間を背負うのはきついだろう。
「え……? あの……」
「じゃあ、移動の準備するぞ」
セイカの戸惑いには気付かず、アルは一足先にユリの方へ向かった。
「じゃあ、セイカ。オレ達も行くぞ」
フォールの差し出す手を取ろうとはせず、セイカはじっとアルの背中を見ている。
「どうした?」
「ねぇ、ユリって誰?」
「は? ……さっき言った、もう一人の旅人。アルと二人でウォータレスに来たみたいだよ」
「二人で……」
「で、それがどうしたんだよ。早く行くぞ」
「なんでその、あたしを助けに来たはずの人が、アルフォートさんの手を借りなきゃいけないような状態になってるのよ!!」
「何怒ってんだよ」
「怒ってない!!」
何故か不機嫌になっている幼馴染にフォールは一つため息をついて、答える。
「……お前を助けるために、戦闘があったんだよ、魔物と」
「まもの?」
「そう。ユリさんは、その戦いの中で気を失ったらしい」
自分を、まともな抵抗もできないまま攫った魔物という存在は、今まで以上にセイカに脅威を覚えさせていた。自分を助け出すために、フォールはともかく、見ず知らずの二人が助けに来てくれたことのすごさが、セイカはやっと実感できた。
「ほら、わかったら行くぞ」
再度手を差し出され、今度こそセイカはフォールに助けてもらって立ちあがる。
「じゃ、しょうがねーから、肩貸してやるよ」
先程頼まれたのにしたがい、フォールはそのまま歩く補助をしようと動くが、セイカは一人で歩きだし、アルの方へ向かってしまう。
「…………元気じゃねーかよ」
少々の怒りと、呆れの混じった声は、誰の耳にも届かず消えていった。
アルがユリを背負って、簡単に落ちないように固定し終えると、セイカが一人で歩いてきた。補助を頼んだはずのフォールは、一人で後ろからやって来る。
「あれ。セイカちゃん、足大丈夫なの?」
「はい。立ちあがる時は少し痛かったんですけど、歩きだしたら意外と何とかなっちゃいました!」
「そう。よかった」
アルの笑顔にまた見惚れているセイカの横から、フォールが呆れた顔をしてやって来る。
「アル、こいつ大丈夫みたいだし、行こうぜ」
「あぁ、じゃあ、行くか」
「はい! アルフォートさんにご迷惑をかけないように、あたし、がんばります!」
「ありがとう。でも、途中で辛くなったら言ってね。休憩とかも考えるし」
「はい!」
「……じゃあ、手が空いたフォールは、露払いを頼むな」
「へ?」
どこか疲れた顔でセイカを見ていたフォールは、よくわからない言葉を、しかも突然自分に話を振られたため、間抜けな声を出す。
「雑魚は任せた。俺はこれじゃうまく戦えないし、お前が頼りだ」
アルが言い変えると、アイダとの戦いでは途中からずっと気を失っており、役に立たなかったと落ち込んでいたフォールは、殊のほか喜んだ。
「おう。任しとけ!」
元気なフォールの先導のもと、ユリを背負ったアルと、セイカは地上への道を進んだ。
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