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五つの秘宝  作者: 逸見真希
水の巻
23/37

二十話 アイダ 前編

この話は長いので前・後編に分けています。

後編は今日の午後に更新します。

二十話 アイダ



《水ノ首飾リハ持ッテキタカ?》

 またひとつ階段を降りた先で待ち構えていたのは、水の島の教会で見た、鈍い青色の衣を纏った何か――魔物だった。

「水の首飾りは渡せない。でも、セイカは返してもらう」

 今まで倒してきた魔物と違う雰囲気に、フォールは声をこわばらせながらもそう言った。

「ソウカ」

 答える魔物からは、何の感情もうかがえなかった。動物ではありえないそれに恐怖を感じながらも、相手の動きに備え身構える。

 すると、答えらしい答えを返したのは、別の声だった。

「交渉決裂ね」

 淡々とした声とともに現れたのは、青い髪を後ろでひとくくりにしている、ユリよりも年上に見える女性だった。

「誰だテメェ! お前がセイカをさらったヤツか!?」

 相手が人間のようだからか、フォールは先ほどよりも威勢が良い。女は威嚇するように睨むフォールを一瞥すると、興味なさそうに視線を戻した。

「あんたたちは、こちらの要求を呑まなかった。……死ぬ覚悟はできてるんでしょうね?」

 女の言葉に、三人は臨戦態勢を取る。

「おとなしく秘宝を渡せば、先の短い命をもう少し永らえることができたのにね。残念、あんたたちは、ここで私に殺される」

「どういうことだよ!」

「……秘宝を渡せば、国ごと潰してあげれたってこと」

「どっちにしろ殺す気じゃねぇか」

 アルの小さなつぶやきは、アイダには届かなかったが、すぐ後ろにいた二人はうなずいたり恐怖に身を縮めたりしていた。

「あなたは、何者なの?」

 死の恐怖に勢いをそがれたフォールの代わりに、女に問いかけたのはユリだった。

「これから死ぬ人に教えて何の意味があるの?」

「意味がないなら、話してくれてもいいんじゃない?」

「……私の名はアイダ。あるお方の命で、闇の秘宝を集めているの」

「あるお方って?」

「これ以上話す必要はないわ。そろそろ、死んで頂戴」

 言葉と共に、アイダが手を振り上げると、それを合図にしたかのように、先程の魔物が動き出した。

「来るわよ、構えて」

 ユリの声に、フォールは気を引き締めなおしこぶしを握る。

「へぇ、坊やも戦うつもり?ガキには荷が重いんじゃない?」

 フォールを見るアイダの目は、明らかに見下したものだった。

「気にするな、フォール。魔物は俺が倒す、お前は、援護を頼む」

 一歩前に踏み出していったアルの横を、フォールは駆け抜けた。

「おい!」

 素早く繰り出された正拳突きは、魔物の体をとらえた……かに見えた。手ごたえのなさにフォールが疑問を抱く間もなく、魔物は目の前の獲物に持っていた大鎌を振り上げた。

「フォール!!」

 そのままフォールを切り払うかに見えた鎌を止めたのは、アルの剣だった。

「落ち着け。こいつは得体が知れない」

 呆然とするフォールを叱咤し、アルは剣で魔物を一度振り払う。アルも混乱していた。先程のフォールの拳は、魔物の体をすり抜けたように見えたのだ。

「なんで……」

「二人とも落ち着いて」

 魔物と自分の手を交互に見つつ呟いたフォールを引き立たせ、ユリは魔物を見据える。

「コレに打撃は通じない。今までの魔物とはタイプが違うの。アル、魔法は通じるはずよ。フォール君、あなたはアイダを倒しなさい」

「やってみる」

「わ、わかりました」

 ユリの冷静な声に二人はうなづき、それぞれの目標を見据える。

「ガキに何ができるのよ」

 嘲笑を浮かべたアイダは、腰につけていた短刀を抜き、手前にいたアルとフォールの間を駆け抜け、ユリへとその刃を振り下ろした。

「ユリ……!」(速い!)

 ユリはとっさに身を引き致命傷は避けたが、肘から手首にかけて、血の赤い線ができていた。

「……っこの野郎!」

「アル!」

 交戦中の魔物をおいて駆け寄ろうとするアルを目線で制し、ユリはアイダから距離をとった。

「私は大丈夫。このくらいなんてことないわ」

「でも……」

「いいから」

 ユリの怪我が本当に大丈夫なのかは分からないが、魔物から目を放すことが危険なのも事実だ。

「……信じるからな」

 アルは歯を食いしばり、魔物に向き直った。

「フン、仕留め損なったか」

 アイダもまた距離を取り、それほど残念ではなさそうな声でそう言った。余裕の笑みを浮かべるアイダであったが、突如脇腹に走った激痛にうめき声を上げる。

「がはっ……ぅ……!」

 アイダに痛みを与えたのは、フォールの蹴りだった。

「オレの事忘れてんじゃねェよ」

 アイダの一瞬の気の緩みを見逃さず見事な蹴りを決めたフォールだったが、次の瞬間、ヒトの体が発するとは思えない派手な音を立てて、彼の体は宙を舞い、壁に叩き付けられた。

「う……ぐ……」

「なるほど。ただのガキじゃあないみたいだね」

 何であるかも認知できなかったそれは、アイダの掌拳のようだった。

「フォール!!」

 アルの呼びかけに答える様子のないフォールは、体を叩きつけられた衝撃で気を失い、地面に伏していた。

「くそっ」

 アルは風魔法を込めた剣を一閃し、続けて無数の風の刃を差し向け、魔物を消滅させた。

「大丈夫か!?」

 ひとまず魔物を倒したことに安心したアルは、アイダを牽制しつつ、意識の無いフォールに駆け寄る。

「フォール!」

 打ちつけた背中と、後頭部にできたこぶの他は、特に外傷は見られない。

「何があった? 魔法か?」

「魔力の気配は感じられなかったわ」

 魔法ではないと判断しつつ、ユリも普通ではない何かを感じていた。

「フォール、しっかりしろ!」

 戦いのさなかに意識がない状態でいるのは危険だ。実際にその経験は無くとも、今までの戦闘経験から容易に想像できる。

「人の心配をする余裕があるの?」

 二度目の、やはり不意を突いたアイダの動きに、アルもとっさに身を引くことしかできなかった。

(よけきれない……!)

 攻撃を受けることを覚悟し、アルが目をつむった瞬間。目の前を熱いものが通り過ぎた。

「アル、フォール君は任せて。戦闘に集中して」

「でも、怪我は……!?」

「問題無いわ」

 そう言うユリの腕からは、いつの間にか傷はなくなっていた。

「え……なんで……?」

「そう、アンタも魔法使いだったの」

「えぇ。この程度なら、数秒あれば治せるわ」

「でも、攻撃魔法は私より遅いようね」

 いつの間に離れたのか、遠くから聞こえたアイダの言葉で、先程の熱気はユリの魔法だと気づく。アイダに魔法攻撃を向けることで、命中はせずともアルから遠ざけたのだ。

「サンキュ、ユリ」

 回復魔法の効力に感嘆しつつ、アルは戦いに集中するためにアイダに目を向ける。

「召喚」

 アイダの言葉に反応するかのように、彼女の横にはまた一体の魔物が現れた。

「あの男をやりな」

 アイダの命の通り、魔物はアルに一直線に向かってきた。アルは剣を構えなおし、それを正面から迎え撃つ態勢をとる。

「……アンタは、仲間を助けないの」

「私が動けば、あなたはこの子を狙うでしょう?」

「当然」

 先程の魔物よりも動きの鈍く、また物理攻撃も効いている様子で、アルの斬撃に魔物の体は少しずつ崩れおちていった。

「それに、私が手を貸すまでもなさそうだし……」

「どうだか」

 激しさを増す戦いの横で、二人は互いに隙を見せぬよう、じっと目をそらさない。

「くらえっ」

 アルは徐々に魔物を追い詰め、最後は魔法を込めた一撃を叩きこみ、魔物は砕け散った。


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