十一話 候補者たち
十一話 候補者たち
アルは興味があった。次の長と噂される人たちが、どのような人たちなのか。
「ミランダ」、「ディオネ」は女性のような感じ。一番先に女性の部屋に訪れておいて今更な気もするが、あの時は緊張でおかしかったのだ。今の心境では、ちょっとばかし訪ね辛い。
そこで、同じ男と思われる「レイクル」という人のところを訪ねることにした。
先ほどの女性に聞いた上級クラスの人たちの部屋があるというほうへ行ってみる。確かに。広い部屋なのだろう、反対側の中級クラスは四つなのに対し、こちら側には三つのドアが悠然と並んでいた。
ドアには、金属のプレートがそれぞれ張られており、真ん中のドアのプレートに、お目当ての文字が刻まれていた。
‘レイクル‘
確か少女たちの話では、上級クラスの三人は「レイクル」に「ディオネ」そして入り口で会った「ユリシア」のはず。
(よし)
アルは、覚悟を決めてそのドアをノックした。
「勝手に入ってくれていいよ。」
以外にも、返答はすぐにあった。その言葉に甘え、アルは「失礼します」と言ってドアを開けた。
中に入ると、机に向かっている緑髪の人影があった。他に人はいないようだし、彼がレイクルなのだろう。
「あの……」
声をかけると、レイクルが振り返る。
「あれ?見ない顔だね。……パーティの参列者ですか?」
彼はアルがここの生徒でないことに気づくと、即座に丁寧語へと変換する。先ほどの少女たちとは、姿勢も雰囲気もまるで違う。
「はい。まぁ、一応そうなってます」
「一応とは?」
「……いやぁ、その……。パーティがあることを知らずに来たもので」
「あ、そうなんですか。……私はこの学校の上級クラス所属、レイクル=グレネードといいます。どうぞ、楽しんでいってくださいね」
「はい。ありがとうございます」
その後、少し談笑してからレイクルの部屋を後にした。
さて。時間を見てみれば、まだパーティまで時間はあるようだ。
噂に上がっていたのは、あとは「ディオネ」と「ミランダ」の二人である。アルは、とりあえず中級クラスに行ってみることにした。
レイクルのときと同じように名前を確認して、ドアをノックしようとする。いや、しようとしたのだが、何かが引き止める。
その時、中から高い女の声がした。……一応言っておくが、悲鳴ではない。
「あーー、もう!! あのセン公ムカツク!! 勉強しろだの真面目に講義受けろだの……余計なお世話だってーの! いいじゃないさ。ここに先に入った人追い抜いて、中級クラスのトップにいるんだからさ。もっと自由にさせろってーの!」
微妙に開いているドアからは、ド派手な洋服を着た黄色の髪をした十代中頃の少女が、回りを気にせず叫んでいる姿が見えた。
アルは、黙ってその場を後にした。これは、関らない方がいい。直感的にそう思ったのだ。
再び上級クラスの人の部屋のほうへ戻り、「ディオネ」の部屋を目指す。
ドアに「ディオネ」の文字を確認し、ノックすると・・・すぐに返事があって、中へと入れてくれた。
「いらっしゃい、お客様ね?」
「はい。……ディオネさん……ですよね?」
「えぇ。私が、ディオネ=キリシアよ」
ディオネは、二十代中頃の女性だった。アルを驚かせたのは妖艶な美しさと、溢れんばかりの豊かな紫色のウェーブのかかった髪。
「えっと……その……ディオネさん、すごいんですね」
なぜか焦って、わけの分からない発言をしてしまう。しかしディオネは、さすが大人というべきか。にっこりと微笑んで対応してくれた。
「そうかしら?」
「そうですよ。だって、上級クラスですよね?初級クラスの人たちが噂してました。『次の長はディオネさんじゃないか。』って」
「あら、本当に?・・・でも、残念ながらそれは無いと思うわ。なるのはきっと、あの子よ」
そう言って、部屋の壁に飾られている写真を指差す。その写真には、少女のディオネと一緒に、青色の髪の幼女が写っていた。背景の中に見える本を読んでいる緑髪の少年は、先程会ったレイクルであろうか。
「あの、女の子ですか?」
「えぇ。……あなた、少し前に来たのよね?だったら、どこかで鉢合わせてないかしら?この子もさっき帰ってきたのよ?今は長に挨拶してるけど」
「……あ……確か、ユリ……ユリシアとか……」
「フフ……そう。そう、聞いているのね。……仕方ないか」
「え。何がですか?」
「いいえ、何でも。……縁があれば、近いうちに分かるんじゃない?」
「はぁ……」
「実はね、今回の長決めの儀式のために、長は修行で山篭り中だった彼女を、わざわざ呼び戻したのよ。ね、半分決まったようなものだと思わない?」
「そうなんですか……残念ですね。」
「別に? ユリなら、私は文句ないわ。彼女の実力は知ってるもの。 ……ミランダだったら納得いかないんでしょうけど」
「ミランダ……というと、中級クラスの?」
「驚いた。彼女の名前まで知ってるの。……そっか、それも噂話ででしょう。そうよ、そのミランダ。才能は認めるけど……性格にちょっと難があるみたいなのよね」
アルは、先程の部屋の中での様子を思い出す。
「…………なるほど」
「え?」
「いえ。……では、そろそろ失礼します」
「えぇ。また、ね」
「はぁ」
アルが部屋を出ると、奥の階段から誰かが降りてくる音がした。目を向けて音の主を見れば、それは噂の「ユリシア」のだった。
「学生寮にいる皆さん。パーティーが始まります。会場へ移動してください」
けして大きくは無い声でそれだけ言って、彼女は会場があると思われる上の階へと上っていった。
しかし、その声が聞こえていたのか、魔法を使っていたのかもしれない。部屋から、生徒たちが一斉に出てきた。中級クラスの一部の者や、上級クラスの者は混雑を避けるために瞬間移動の魔法を使っているのか……部屋から出てくる代わりに中から魔力の反応があった。
「よし、俺も行くか」
アルは、人の波にまぎれて会場へと向かった。