九話 魔法使いと開かずの間
九話 魔法使いと開かずの間
「ようこそいらっしゃいました。アルフォート=アスタ=ウィドリーク様ですね」
暗い道を抜け開けた空間に出ると、変わった服装をした若い女性が迎えてくれた。
「は、はい。そうです。」
ここもまた、受付のようだ。
「それでは、こちらの階段を使ってお進み下さい。階段を上がりますと、学校の生徒たちの居住スペースとなっております。更に上の階へ参りますと、本日の式典の会場がございます。式典の席を用意してありますので、始まるまでお好きなように時間をつぶしてください」
「あの……式典に、俺も参加するんですか?」
「えぇ。強制ではありませんが、その方がよろしいかと」
「なぜ?」
「聞いているかと思いますが、本日の式典では新しい長が決まります。式典が終わり次第、長様との面会になりますから、決まるときに立ち会うのもよろしいかと思いますよ」
「あ……そう、ですね」
「それから。お時間もお時間ですし、こちらの都合でお待ちいただくわけですから。どうぞ、夕食のほうもそちらでお済ましください」
「ありがとうございます」
「それでは、奥へどうぞ」
二階の居住スペースは、式典前でそれぞれ仕度でもしているのだろうか。想像していたよりもずっと静かだった。しばらく、何もない廊下を進む。
途中で左側に少し大きめの扉があったが、なぜか開かないように封じられていた。比喩ではなく、本当に「封じ」られていた。
(魔方陣……魔力の込められた文字が書いてある鎖……すげぇ)
その扉の向かい側には、曲がれるように廊下が続いていた。廊下の向こうには右手に三つの扉が見える。大きさからして、その三つは個人の部屋だろう。
その扉の一つが、微妙に開いていた。
アルが思わず中をそっと覗いてみると・・・中には薄桃色の髪の女性がいた。女性は視線に気付いたのか、すっとこちらを向く。
「あ……。」
目が合ってしまい、アルは気まずくなるが、彼女は、やさしく微笑み迎えてくれた。
「あ。すみません」
「どうぞ。……お一人で、居ずようが無いのでしょう?」
アルは図星だったので、彼女の言葉に甘えて上がらせてもらった。
「失礼します。」
「どうぞ、おかけになって。」
女性に勧められるままにイスに腰掛ける。
「今日のパーティのお客様でしょう?」
「はい、まぁ……」(一応……)
「この学校のことについて、どの程度ご存知で?」
「あ……いや、その……。恥ずかしながら、ほとんど何も……」
「では、暇つぶしにでも聞いていきませんか?」
くすっと笑ってされたその提案に、アルは乗ることにした。
「……この学校には現在、三十人ほどの生徒がいます。その内上級クラスが三人、中級クラスが六人、そしてその残りが初級クラスです」
「三十人……」
これだけの大きな建物があるのに、全校生徒数が三十人というのは、少々少なく感じる。アルのそんな気持ちを察したのか、女性は続ける。
「昔は……年号が飛翔になる前くらいの時には、百人ほど居たそうです。魔法を使える人間は数が少なく、当時も学校にしては充分少なかったのですが……。今では、更に減ってしまったそうです」
「へぇ……」
飛翔が始まる前というと、丁度伝説の勇者たちが闇を倒した頃のことだ。……飽く迄も、伝説によれば、の話であるが。
「あの、中級とか、上級とか……何か学校の中で待遇とか違うんですか?」
人数の比率を聞く限り、学年のようには思えない。おそらく、本人の実力によってクラスが代わるのだろう。
「えぇ。部屋をいくつ見てきたか知らないけど、初級は三人から四人の共同部屋で、一人部屋をもらえるのは中級クラスからなの」
「ということは、あなたは……」
この部屋を見ている限り、彼女に同室者がいるようには思えない。
「えぇ。私は一応中級クラスの者よ。……そこの廊下の三部屋と、壁挟んで反対側の三部屋の六部屋が、中級クラスの者の部屋なの。一人部屋と言っても、まぁこの通り。それほど広いわけではないんですがね。プライバシーがあるのはうれしいことです」
「なるほど」
「この部屋の隣の廊下を奥へ進むと、左手にさっき言った中級クラスの部屋、右手に見える廊下へ曲がれば、初級クラスの者たちの部屋があるわ。上級クラスの部屋は、中級クラスの三部屋の廊下を挟んだ向かい側。中級クラスの部屋よりも広くなってるらしいわ。……私は入ったことが無いから、噂だけどね」
「そうなんですか……」
この階の説明をしてくれたのはありがたいのだが……。
(さっきの部屋は結局なんなんだろう。)
アルの思い浮かべているさっきの部屋とは、もちろん、あの「封印」されていた部屋である。
「あの。ここへ来る途中にあったあの扉は一体……」
「知らない!」
「え?」
「わ、私は何も知らないわ。あの部屋のことなんて」
「どうしたんですか?」
「ほ、ホントに知らないのよ。ただ、あそこは現在生徒はもちろん指導者も立ち入り禁止になっていることは確かよ。入らない方がいい、開かずの間。分かった?」
「は、はぁ……」
とりあえず、あまり触れてはいけないことなのだろうということはアルにも理解できた。
「そうだ!今回の新しい長決めなんだけどね、候補に挙がってるのは何人かいるらしいんだけど、上級クラスの三人は確実だと思うの」
「そうなんですか……」
「三人とも、私より年下なのよねぇ。まいっちゃうわ。……まぁ、ここの生徒の中じゃ私が一番年上なんだけどね」
「……みなさん、若いんですね。」
「えぇ。……ある程度の年になっちゃうと、中級クラス止まりでも、別の国に就職先見つけちゃう人多いから。今や魔法使いは貴重らしいからね、ここにいるとそんな感覚も薄れるけど。だから、中級でも魔法使いは充分重宝がられるんですって」
「へぇ」
「でも、私はそういうのいやなのよ。ちゃんと、上級クラスにまでなって、一人前の魔女になってから、世間に出たいの」
「……頑張ってくださいね。」
「えぇ、ありがとう」
アルは女性の部屋を後にした。
もうお気づきの方もいるかもしれませんが、この「五つの秘宝」は、同じ作者の作品「Light and Dark-光と闇の物語-」と同じ世界です。
時代が違うけど。
同じ施設…炎の島の魔法学校・・・が出てきたので、一応ここで明言しておきます。
作者が勝手に楽しんでるだけなので、L&Dを読んでなくても全然大丈夫です。