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五つの秘宝  作者: 逸見真希
炎の巻
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八話 魔法使いの館

 八話 魔法使いの館



「なんなのよあの子!!」

 少女が去った後、魔女の女性は叫んでいた。

「絶対私より年下じゃない! なんであんなとこ通れるのよ!」

 少女がいる間は、ただ呆然と見ていたのだが……。

「実力だろ?」

「なんですって!」

 どこからか聞こえた声に、女性は何故かアルを睨みつける。

「え、いや……俺じゃないです」

「彼女はここの生徒だ。ここで学ぶものなら、あれくらい突破して見せろ、ってことだろう」

 アルの背後から聞こえてきたのは、先ほどと同じ声だ。

「どういうことよ?」

 声の主は、もう一つの長いすに腰掛けていた男性だった。

「君の実力が足りないと言っているんだよ。それに……魔法に歳なんて関係ない。モノを言うのは素質と精神力だよ。」

「素質って……、私だって、魔女の娘よ!」

「君は……知らないかな? 歴代最高・最強と謳われた魔術師、クルソウド・ライ=トゥルークを」

(誰だそりゃ?)

「な……それくらい知ってるわよ! 魔法使いなら常識じゃない!」

(え。そうなの?)

「彼女は、そのトゥルークの末裔だよ?」

「え…………」

 アルにはよくわからない話が展開されている。

「まさか……」

「トゥルーク家特有の群青色の髪。聞いたことがあるだろう?」

「で、でも……本当に?」

「見ただろう。炎の国の炎に怯むことなく氷魔法で対応して見せたところを。」

 ここの土地柄、この魔法学校で学ぶものは炎魔法を得意とし、氷や水は苦手とするものが多い。

「じゃあ……」

(……とりあえず、すごい人だったんだ……)

 アルは、少なからず先ほどの少女に興味を抱いていた。


「アルフォートさん」

 いつの間に連絡が付いたのか、受付の老婆に声をかけられた。

「はい」

「よかったじゃないかい。面会の許可が降りたよ」

「ホントですか?!」

「あぁ。……今日は式典があるから、すぐに、というわけには行かないようだがね」

「ありがとうございます」

 アルは、感謝の意を込めて頭を下げた。

「そうそう。守護魔法をかけておかないとな」

 そう言うと、老婆は指をこちらへ向けて、指で何かの文様を描きながら呪文のようなものを唱える。すると、老婆の指先から橙色の光が出てきて、アルの体を包んだ。

「これで、そこの魔方陣も平気だよ」

「あ、ありがとうございます」

 よく分からないうちに魔法をかけられてしまったが、いやな感じはしないし、老婆の言葉を信用しよう。

「……あの」

「まだ何か?」

「……お、私ばかりいいのでしょうか?あちらにいる魔女の女性は、魔方陣に入館を阻まれているみたいでしたが……」

 まさかとは思うが、老婆があの女性に魔法をかけ忘れていたりなどしたら、自分ばかり先にここを通過してしまうのは魔女に恨まれそうで怖い。

「その心配は要らないよ」

 まるでアルの思考を読み取ったかのように、老婆は怪しげな笑みを浮かべて言う。

「あのくらいの炎、入校希望者なら防げなければ話にならないよ。しかし、あんたは長からも入館許可が下りた正式な客人だ。試すわけには行かないよ」

「なるほど。…………ということは、この学校って、小さい子とか入れないんですか? ある程度独学で魔法を学んできた人じゃないと無理ですよね?」

「ユリシア様は初めていらっしゃった時はまだ五つにも満たない幼子でしたが、自らの気高さと気迫だけで身を守ってみせましたよ」

「ま、マジですか?」

 もう何も言うまい。多少の誇張や過剰表現はあるだろうが、先ほどの少女が幼い頃にここを通過したということは事実であろう。

 アルは、魔方陣の上を何事もなく通過し、奥へと進んだ。


 いくらか進むと、途中から二つの細い道に分かれた。

(どっちへ行きゃあ良いんだ? あの婆さん、分かれ道のことなんか言ってなかったよなぁ?)

 とりあえず右側の道へ行ってみるが、通路は渦巻状にできており、渦の中央へ来ても何もなかった。隠し階段とか、何か仕掛けがあるのかとも思ったが、いくら壁や床を調べてみても何も見つからなかった。

 仕方なく、先ほどの分かれ道まで戻って、もう片方の道を行く。今度は先の道よりも奥まで進むことができ、期待が高まる。

(……あ、階段だ!)

 長い廊下の先に階段を見つけた。アルは歓喜のあまり駆け寄る……が、ゴツンと、マンガのような音を立てて、アルは何かに頭をぶつけた。

「―っ痛ぅ・・・」

 思わぬ衝撃に、アルは涙目になりながら原因を調べる。

「……階段が……途中までしかない?」

 そう。階段はただの飾りで、本来上の階に行けるように吹き抜けになるはずのところも、ただ天井がそのままあるだけ。

「ちっくしょ! どうなってんだよ!」

 悪態を吐くが、老婆の言葉を思い出し、暴れたくなる衝動を抑える。おそらく、先ほどのものも、今のこれも、正式な客人でないものを試すための仕掛けだろう。

 しかし、

「客人は試さないって言ってたよなぁ?」

 アルは、早々に諦めて、受付の老婆の元へ戻った。


「悪かったね、言い忘れてたよ。……一般の総合受け付けへの道は、幻術によって隠されています。道を進んで最初の突き当りを道なりに左へ曲がるのではなく、右へ曲がってください。壁に見えますが、それは幻ですから」

 老婆はあっけらかんと、そして事務的に答えた。

 アルの怒りもなんだかよく分からなくなり、今度は先ほどの小さな冒険が無駄だったということへの怒りを通り越した疲労感でいっぱいになった。

「……ありがとうございました」

 とにかく、老婆に言われた通りの道を行く。どう見ても壁にしか見えないところへ突っ込んでいくのは正直怖かったが、魔法だ、と言い聞かせて突破した。

 魔法によって外からは見えないようになっている薄暗い道を進み……しばらくすると、暗闇の中に一点の光が見えた。

(出口だ……)

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