第39話 音魔術を求めて
早めにあげられてよかったです。
強く降り注いだ雨は翌日には上がったものの、今日の空は早朝からどんよりと曇っており、いつ雨が降り出すかも分からない状況だった。
というわけで、朝食を摂りながら話し合いをしたところ、今日は一先ず図書館へ調べ物をしに行くことになった。調べることは主に、昨日話し合った妨害方法やそれに関する魔術について。
各々で役割分担を決め、個別に本を探していくことになった。
しかし、ここで問題が起きた。僕は音魔術について書いている本を探すことになったのだが、それが非常に少ない。その数、実に2冊。うち一冊は『音魔術についての考察』というもので、出版年数が300年近くも昔の本だった。書かれている内容は主に推測であり、体系化されているわけでもないしそもそも正しい内容かどうかすら怪しいもの。
そしてもう一冊は音魔術が主体の本というわけでは無く、音魔術は光魔術と風魔術による合成魔術である、という旨の文章が一ページにも満たない程度書いてあるだけのものだった。
僕はここで音魔術の情報を集めるのを断念し、図書館を出て別行動を取ることを3人に伝える。そしてフィリッツさんが南門に居ることを願いつつ、図書館を後にした。
∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
南門への道中に通った道は道幅は広いながらも、周辺に住宅地が多いためか人通りは少なかった。
そんな通りを歩いていると、進行方向から馬車が走ってくるのが見えた。馬車は二頭立てで、その豪華さは貴族のそれであると容易に予想できる。車体には煌びやかかつ落ち着いた装飾が施され、また御者もかなりしっかりとした身なりをしている。
それを横目に見て、貴族ってよくわかんないけど凄いなー、でも関わると面倒くさそうだなー、なんてことを考えながら石畳の歩道を歩いていた。
馬車が横を通り過ぎた後、少しの間は蹄の音が聞こえていたがその間隔が狭くなりやがて止まった。
この辺の家に用事でもあったのかな、と思いつつも自分には別に関係のない事なので、考えはすぐに別のことへ向かう。
フィリッツさんに音魔術を教えてもらうとは言ったものの、果たしてすぐに教えてもらえるだろうか。フィリッツさんとは王都に来た時以外で10回に満たない程度しか話したことがない。
「…の………よ。し………待……。」
最初の出会いが印象的だったからかフィリッツさんは僕のことを覚えて、よく声を掛けてくれてはいるが。
「お、おい。ちょっと待てと言っているだろう、娘よ」
とは言っても、会話の内容も当たり障りのない日常会話をする程度。少なくとも何らかの対価無しに自分の使う魔術を教えてもらえるわけがないだろう。
「この………聞こえているのか、冒険者の娘!!」
ん?すぐ後ろでなんか人を呼ぶ声。トラブルだろうか?
――――そう思った瞬間。僕の肩に手が掛かり、急に後ろを振り向かされた。
そこには大体30歳くらいだと思われる、さっきの馬車に乗っていたであろう男性が立っていて。
「…ったく、もう少し早く気づいても良いと思うんだけどな。走るのなんて久しぶりだぞ……」
……え?何?呼ばれてたのって。
もしかしなくても僕ですか。
自分のことを指さしながら、一応「僕……?ですか……?」と聞いてみる。
「そう、そうだ若き娘よ。お主と少し話をしたいと思ってな」
……………ああ、…ああ。そうですか。勘違い。……なら。
「無理です。僕、男なので」
現実を、叩き付けないとな―――!!
僕の言葉を聞いて、男性は。
なんとも不思議そうな表情をして小首を傾げたのち。
「………冗談か……?」
そう言った。…………ならば。
僕は荷物からギルドカードを手早く取り出し、裏面の『性別』欄以外を隠して差し出す。
「冗談ではなく男です」
「……………………」
男性は何度も目を擦りながら、ギルドカードを食い入るように見つめている。
勝った。
僕は勝利を確信し、そして次の段階へと足を踏み出す。……悲鳴を上げろ、豚のような……!!
「ナンパですか?」
「えっ………あ、いや」
「ナンパですよね?貴族ともあろう人が」
「い、いやっ、これは違くて」
「ああ、未遂でしたね。……愛人でもお作りになるつもりで?」
「違うっ!!というか俺はまだ妻は……ぁ」
「察するにご年齢は30歳周辺だと見受けられますが……独身なんですか」
「…ぅぐ………くっ……!」
「いえいえ、いいんですよ。責めているわけじゃないんですから。ああそうだ……上手いこと言うつもりじゃないですけど、これが本当の『独身貴族』ってヤツですね」
「やめろぉっ!!!傷口抉るんじゃない!!」
ついに耐えられなくなったのか、男性は頭を抱えて地面に膝をついた。
ふははは。どうだ、思い知ったか。
「……その辺にしてやってくれませんかな」
悦に浸っていると男性の後ろの方から声が響く。
視線をそちらにやると、執事服を着込んだ老人……いや、老人と言うほどではないか。白髪混じりの
髪を後ろに撫で付けた、いわゆるオールバックという髪型をした5、60代の男性が歩いて来るところだった。
「どうも、うちのアホ主が申し訳ありません。ほら、謝りなさい。むしろ土下座しなさい」
「あ、ああ……間違えて声を掛けてしまってすまなかった…。……ってコラ。アホ主とか誰に言ってんだ」
「あなたですよ。……来た縁談を端から断りに断っていったのは誰でしたか?」
「く……仕方ないだろ、なんかピンと来なかったんだから……」
「んなこと言ってるから31にもなって嫁の一人もできずにナンパなんてやることになるんですよ。……しかも一回も成功してないとは……嘆かわしい」
「…ただ、運が悪かっただけなんだ。そう、そうだ。運が」
「いや、自分のせいでしょうが」
「……き、君からも何か言ってやってくれ、このクソ執事に……!」
「え、僕ですか?………チャンスはあったのにモノにできないのはやっぱり実力かなあ、って」
「がはぁッ!!」
「いや。なぜ彼が主の援護をすると思われたのですか?」
「くそぉ………どうせ、どうせ俺は……!結婚もナンパも成功せず一生独り身のまま生涯を終えるんだッ……!!」
膝をついたまま頭を抱えてのけぞる。
「そこまでのことは言っておりませんが……。」
「まあ、結婚は色々あるのかもしれないですけど……顔は悪くない方ですし、ナンパならそのうち成功するんじゃないですかね?」
そう言うと、僕の方に鋭い視線を向けて言い放つ。
「そのうち……だと…!?俺が今まで何度失敗したと思ってるんだ……?…38回。38回だぞッ!?」
鬼のような形相をする貴族さん。
「38……全部、今回みたいな感じで話しかけたんですか…?」
「まあ…そうだな」
「いや、それじゃ失敗しますよ」
「何っ!?」
続いて、驚愕の表情を露わにする。
「だから言ったではないですか。あんな変に貴族ぶったよくわからない話し方はやめておけと」
「い、いや……お前のことだから俺のことをからかっているのだとばかり……というか、どうすれば成功するんだ、少年」
「まあ……僕はナンパとかしたことはないんで宛にはしないで欲しいんですけど……威圧的な口調はやめて素のままで。……うんと…あと、第一印象は大事ですよね。とりあえず笑顔でいましょう」
「なるほど、第一印象か……」
「第一印象は出会って五秒以内に決まる、と言いますからな。まずは良いイメージを与えることは重要でしょう」
「ですね。それと……貴族って身分も隠したほうがいいかな、と」
「それは……どういう狙いだ……?」
「身分の違いで萎縮する人もいるでしょうから。それと、玉の輿狙いの人を避けるためですかね」
「なるほど、一理ありますな。娶った妻が家の金を使い込む、なんてのはよくある話ですから」
「それに、後で貴族と分かったほうが……女性にとってはサクセスストーリーになるわけですから。女性の憧れですよね、そういうの」
「はー………。参考になるな。……メモを取っておこう」
「あとはまあ……口説き文句とかですかね?ちょっと僕には思いつかないですけど」
「口説き……文…句…と。んー、やっぱり難しいよな……。……ウォルタ。………どうにかならないか」
「……ふ…。良いでしょう。年の功というものをお見せしましょう」
「ああ。よろしく頼む」
どうやら満足いったらしい。というわけで。
「それじゃ……目処が立ったところで。僕は失礼しますね」
「ええ。お引留めして申し訳ありません。主に付き合っていただきありがとうございました」
「相談に乗ってくれて助かった。礼を言うぞ。……あ、どうせだし名前を教えておこうか。俺はヨハネス・ヨーステン・デル・カールだ」
「伯爵位を冠するカール家に執事として仕えております、ウォルタ・ローデウェイクと申します」
やっぱ礼儀として名乗っておくべきかな。
「えっと、Dランクパーティに所属してます、冒険者のリュー・ベテルギルです」
「リューか。覚えた。まあ、また顔を合わせることがあったら声を掛けるといい。飯くらいは奢れるから」
「リュー殿……いや、リューと呼ぶ方が居心地が悪くはならないでしょうな。今日は本当にありがとうございました。それでは……失礼いたします。またお会いしましょう」
「はい。それじゃあ」
彼らと別れ、僕は南門への道を再び歩き始めた。
読んでいただきありがとうございます。
リューさんマジドS。
ナンパに関する記述はテキトーに書きました。私自身、したこともされたこともないですからね……。(白目)




