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第31話 クロナガスクジラ

お待たせしました。約一年ぶりの投稿です。

ご賞味下さい(?)

クロナガスクジラ。


この名前を聞いたとき、リューは内心笑っていた。


どんなネーミングセンスだよ?なんで森にクジラが居るの?と。


だが、今の状況は全く笑えない。


クジラに脚をつけただけのような姿ではあるが、その巨体は優に40メートルを超えるだろう。四肢は丸太というか、巨木と表した方が正しいかもしれない。


口内には鋭い歯がズラリと並び、明らかに肉食のそれだ。



彼等は全力で走っている。どうしても遅れ気味になるティファの背を押しつつ、必死に。


しかし、必死の逃走を嘲笑うようにそれは起こった。


「なっ………!?」


初めに気付いたのはエル。その聴覚の良さ故にそれを聞き取り、



そして思い切りブレーキを掛けた。



「…エル!?どうし…………ッ!!!」


次に止まったのはリーナ。


その耳に聞こえたのは地鳴り。


それも、前から(・・・)。



残りの二人もようやく異変に気付き、静止する。


「………この……音…って……!?」


息切れし、激しく呼吸を繰り返しながらティファが疑問を口にする。


彼らの反応に呼応し、リューはスキルによる視点を前方に移す。



「………………………!!!」



その光景に言葉を失った。



「二体…………目……」



辛うじて出た言葉は絶望を孕んでいた。


「二体目って………リュー……前からもクロナガスクジラが来てるって言いてえのか!?」


エルの声に、リューは無言で首を縦に振る。


「挟み…………撃ち………」


呟きながら、リーナは地に膝をついた。



「終わった………完全に終わった………」


死を覚悟するようなリーナの言葉に呼応するように、ティファもリューもその顔を青くしている。


助からない、もう終わりだ、という空気が4人の周りに満ちていった。


しかしそんな中、


「………戦って………みるか?」


エルだけは戦意を示していた。


「!?………エル、正気………!?」


「Sランクでしょ……?勝てるわけ無いわよ………!!?」


「そんな無謀な事……」


3人の言をよそに、エルは背中の大剣を抜き放つ。


「別に、勝つ気はねえよ」


何を言っているのかと言わんばかりの皆の表情をよそに、エルは続ける。


「奴等を足止めして、逃げる。ただそれだけだ。勝てるわけねえからな」


その言葉に、3人はハッとしたような顔つきになる。


「……………なら、わたしのやることは……………決まってる」


ティファは即座に詠唱を始める。それは彼女が知るなかで最も強固な氷魔術。氷雪による牢を作り出し、敵をその中に閉じ込めるものであった。Sランクの化け物に通用するとは限らないが、それを最善策と考え行動した。


「ああ、流石分かってんな。前のやつは俺が止めてティファが捕縛。リュー、リーナ。おまえらは後ろから来るやつの撹乱と足止めを頼む」


「足止め……って…………ホントに…戦うの!?」


リューは未だに踏ん切りがつかず、戦うことに難色を示している。


「…うん、分かった……!!」


一方、リーナに関しては既に決心が固まったようで、腰から2本のナイフを抜く。


「リュー、………お前無しじゃ恐らく逃げ切れねえ。無茶苦茶だってのは分かってるが……頼む」


いつになく神妙な面構えのエル。それを見たリューは、


「……あー…………もう……分かったよ……。」


そう呟き。


「スキル:身体能力強化、自動防御、魔導増強オン!対象、パーティ全体!」


リューがそう叫ぶとともに、4人の体の周りに光の膜が現れ、次いで半透明の板……障壁のようなものが浮遊し始める。


「こりゃあ………」


「その浮いてる板は敵の攻撃を防いでくれるけど、Sランクとなると強度に心配があるから……あまり頼りすぎないようにね?それと、スキル3つとなると消費魔力が多いから……短期決戦でさっさと逃げよう」


リューがそう言うと、ティファは詠唱を続けながらチラッと横目でそちらを見、リーナとエルは小さく頷く。


「それじゃ………がんばろっか!!!」


リーナの掛け声とともに、皆が武器を構える。



そして―――――――



眼前に黒い巨体が現れた。敵との距離は約25メートルほど。


ティファの詠唱も終盤に入り、残り3節ほどで詠唱を終えようとしている。


皆、姿を捉えたことで敵の強大さに改めて気づかされ、たじろぐ。


しかし、既に決意は固まっている。ここで戦わなければ待っているのは死。


グッと剣の柄を握り直―――――その瞬間、作者のダラダラとした解説を無視するかのように、ドン、という轟音が辺りに響き。




クロナガスクジラの姿が、消えた。




―――――否、消えたのではなかった。


クロナガスクジラが、宙を舞っていた(・・・・・・・)。


折れた小枝をバラバラと飛ばしながら、太陽を遮るように青空を跳ぶクジラ。


皆、頭上を通過する黒い巨体をただ呆然と見ることしかできず、誰もが言葉を失っていた。


永遠にも思えるような数秒間ののち、後方15メートルほどの場所で着地音が響き、クロナガスクジラはそのまま走り去っていく。




……………………


……………………………





………なんとも言えない微妙な空気が流れる。



「………え………?え…………?どういう……こと…?」


リーナはそう言うと、気が抜けたように地面にヘナヘナと座り込んだ。


そこで、ティファとエルはほぼ同時に気がつく。


しばらく前から、足音がひとつになっていたことに。


それはつまり、二頭のクジラが目指していたのは自分達ではなかったということ。


そう思い至ったエルはいきなり走り出した。


「えっ……エル!?」


リューは何事かと、エルの後を追いかける。


遅れて、リーナとティファの二人も後を追い始める。


「ちょっとエル!!待って!止まって!」


リーナがそう叫ぶも、エルは走りをとめない。


やがて、四人は目撃することになる。


一角猪を一心不乱に貪る二体のクロナガスクジラの姿を。


彼らは一角猪の死骸を三体ずつ分け、さも美味そうに喰らっている。………食用には向かなかったのでは?


四人の存在に気がついたのからなのか、二体は慌てて自分の目の前にある死骸を『これは自分のだ』と言うかのように足で寄せた。


「……………いや……別にとらないけど………」


リューはその光景を見て、つい呟いた。





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵





その後僕達は、一角猪を狩る→クジラがやってくる→食べるのを傍らで見る を繰り返し、33体の一角猪を倒す間に延べ13体、計6体のクジラに遭遇した。


その事をギルドへの報告時に伝えると、


「モノホーンボアはクロナガスクジラの大好物ですから………ってあれ?もしかして依頼を受けたときにこの事言われなかったんですか?」


受付嬢は驚いたようにそう言い、僕らが首肯すると大きな溜め息をついた。


「…………申し訳ありません…………。一角猪の依頼を受ける方にはちゃんと伝えるようにと通達されているはずなのですが…………。………ちなみに、処理をしたのは誰だったか覚えていますか?」


確か、とエルは他の受付にいる若い男性職員を指差す。


「………ああ、はい。分かりました。報酬には少し色を付けておきますので、それで手打ちとしていただけますか?彼は私共のほうでしっかりと教育しますから………」


薄く笑みを浮かべた受付嬢の後ろに阿修羅のようなものが見えた気がして、皆が無言で頷いた。





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵




時間は過ぎ、次の日の朝。一行は王都行の乗合馬車に乗っていた。


あの後、雑談などはしていたものの、クロナガスクジラとの遭遇についてはほとんど触れなかった彼らだったが、馬車の中でふと、ティファが口を開いた。


「…………昨日、私たちがクロナガスクジラと戦っていたとしたら………逃げ切れていたと思う……?」


投げかけられた言葉に、皆が若干表情を硬くする。


「逃げ切れてたか……かあ……」


リューが呟く。


「…正直、私は難しかったと思う……」


リーナは暗い声でそう言う。


「俺も無理だったと思うなー」


「「「え………」」」


戦うと言った張本人のまさかの発言に一同唖然。


「なんだお前らその顔は……いや、明らかに火力不足だったろ?戦うなんていったけどな、あんなもんやけっぱちで言ったにすぎねえ。現時点じゃどうあがいても逃げ切るのすら無理だったな。今回は運が良かったが、別のSランクの魔物だったら確実に……死んでたろうな」


そう言いつつ、首筋に手刀を当てるようなポーズをとるエル。


実際誰もが同様のことをいたために、言葉を発することができる者はいなかった。


「けど、な……


今がどうあれ、未来はわかんねえ。これから俺らが何をするかでどうにでもなる。どうにでも成長できるはずだ。次に同じようなことがあったとしたら………俺は逃げるんじゃなくて勝つつもりだぜ?」


言い切ると、エルはニヤッと笑った。


そのエルの表情に、皆の表情が緩む。


「エルって時々、なんか良い事言うよね。普段の言動と見合わないほどに」


リューは皮肉気味に言う。


「……おい。普段の行動と見合わないって……それはねーだろ」


「えっと……眠いとかいきなり言い出したり、目開けて寝たりとか……でしょ?リュー」


「………今日の朝も起こされるまで起きなかったのはどこの誰………?」


「ぐ…………」


リーナとティファの糾弾に唸るエル。


「…………成長って……どの口が……?」


「………ッ……あ゛~~……もう…うっせーな!!今成長中なんだよ今!!身長だって伸びてんだろが!!」


「身長って………まあ確かに最近異常なほど伸びてるけど……」


リューが若干の納得を示す。


「だろ!?もうすぐ180になるからな、リーチも伸びるし攻撃の威力もまだまだこっからだっての!」


「え!?180!?……でっかくなってきたなーとは思ってたけど……」


「180かー………男としては正直かなり羨ましいよ……」


「リューも身長欲しいの?……エルはなんでそんなに伸びたわけ?それも最近……」


「あ?まあただ単に成長期だな。今の時期、獣人はかなり成長するんだよ。運が良けりゃ190近くまで伸びるだろうな」


「ええ!!?そんなに!?獣人の成長期ってそんな急激に………でもあれ?ティファは別に身長がいきなり伸びたりはしてないけど……個人差あるの?」


リューは驚きと羨望を露わにし、また疑問を口にする。


「ちょっと、リュー!!ティファに失礼だよ!?ティファだって………ティファだってちゃんと成長してるんだから!!どんどんおっきくなってるんだからね!?」


???という疑問符がリューの頭に浮かぶ。


「見えてないけど………元々私よりずっと大きいのに……さらにおっきくなってキャアアアアッッッ!!!???」


唐突にリーナが悲鳴を上げ、もんどり打ち始める。


「あ、足ッ!!冷ッ!足首に!氷がぁっ!!!!」


フードに隠れて表情は窺えないが、ティファが氷魔術を発動させているようだ。

リューはというと、リーナの言ったことの意味が分からず呟いている。


「見えない……?けど大きく……?……リーナより……?………………ッ!!そうか………!!


最大魔力量…………だね…!?」


そして、リーナの意図した事とは違う場所に着地した。


それを聞いたティファは数秒押し黙った後、そう………と小さく呟いた。


その返答にリューはなんとなく疑問を感じるも、靴の中の氷を出そうと馬車の前方、御者台の付近から外に体を出していたリーナの短い叫び声によって思考を中断せざるを得なくなった。


いや、リーナだけではなく、いっしょに行動していた商隊のあちこちからも悲鳴や馬の嘶きが聞こえている。


魔物か?と思い、エルやリューが馬車の外に出る。


しかしその目に飛び込んできたのは魔物などではなく――――――




はるか前方、王都の方向にそびえ立つ、巨大な光の柱だった。




次回に引っ張る感じの終わり方って……前話と大差ない…

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