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第28話 それぞれの時間


視点変更時に『○○side』という但し書きを入れてませんが、決してミスではありません、面倒臭かっただけです(ドヤァ)。





修練所地下12階、4部屋目の扉を開き、中に足を踏み入れた。


壁は一面灰色で、入り口のすぐ横に大剣・長剣・短剣・棍棒・槍・斧・盾がそれぞれ3本(個)ずつ掛かっている。

刃を潰した物、というわけではなく残らず木製であることから、訓練中に決して間違いが起こらないように注意しているのだろう。


天井までの高さは4メートルほど、広さはだいたいバスケットコート3面分くらい――一般的な体育館ほど――はあるようだ。



あれ?……隣の部屋の扉とは3メートルも離れてなかったはずだけど……。



「ここ……魔術で広さを数倍に広げてある」


疑問を声に出してはいなかったはずだけど、ティファが補足を入れてくれる。…あ、これって、

「闇属性魔術の拡張、だっけ。たしか、母も家のクローゼットを10倍くらいの広さにしてたなぁ」


母さまの寝室にあったクローゼットは、その見た目を遥かに超える空間を保持していた。


「10倍って………スゴい。尊敬する」


……いつも通りの無表情で言われても………。


「へー、流石はリューの親、だな!」


「そこは『流石はエルフ』とか言うとこじゃないの?エル」


「いやいやリーナ、この親あってのこの子あり、的な感じで言ったんだよ俺は。」


「うー、褒められてるのか貶されてるのかよく分かんないようなこと言わないでよ……。って……話が逸れたけど、時間も勿体ないしさっさと始めようか?」


危ない危ない。ここにはだべりに来た訳じゃ無いのに。


「おお、確かにそうだな。で、この部屋は縦長なわけだが……どう使う?」


「んーと………じゃあ、僕とティファが奥の方に行こうかな。ティファ、良いかな?」


魔術開発組の僕達は万が一暴発したときの為に、入り口の近くには居ない方がいいだろう、ということを考えて言う。


「ん、分かった。奥に行く」


二つ返事で了承するティファの声を聞き、僕は言う。


「よし、それじゃあ頑張ろうか!」





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵





修練所の部屋の奥で、私は魔術を発動させる。


詠唱は無し。イメージのみによる魔術。


当然破壊力などはほとんど無いが、どうしても危険を伴う合成魔術の開発には適している。


右手には地属性魔術の魔力球(属性を持つ魔力の塊)を、左手には闇属性魔術の魔力球を出すイメージ。

異なる属性の魔力球を同時に出す、これは簡単そうに思えるが意外と難しい。少し集中を乱すとすぐにどちらかが崩れてしまう。


氷属性の合成魔術を開発したときはかなり苦戦した。………まさか再びそれを経験する羽目になるとは思わなかったけど……。


久しぶりにこの作業をやったが、10分ほど繰り返すとなんとなくではあるが感覚を取り戻してきた。


両の掌を上に向け、ふたつの魔力球が安定するように魔力を流す。


十分に安定してきた頃を見計らい、それらをゆっくりと近づけていく。


別々のものを結びつけ、混ぜ合わせて溶け込ませ、ひとつのものへと変化させる。そんなイメージを固めつつ、魔力球を近づけていき、触れ合わせ――



バスンっ



――触れ合わせた瞬間、低い音を立てて魔力球が弾けた。


失敗、の二文字が頭に浮かんでくる。


が、またすぐに魔力球を両手につくっていく。


この程度の失敗、氷魔術を会得したときに比べればなんでもない。


根気強く、何度でも挑戦するんだ。


仲間が、リューが、信じてくれたんだから。





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵





「それじゃ、5分か10分くらい待ってて、エル」


修練所の部屋の奥に移動して、光魔術の練習(と言っても確認程度だけど)を始める為にエルにそう告げる。


「おう。じゃあ俺は寝「寝て待つ、とか言わないでよ?起こすの面倒なんだから」………おぅ……」


やっぱりここでも睡眠を求めるエルを牽制しておく。



……さてと、始めようかな。


袖を捲り、少し治りかけの傷を見る。


補足だけど、この傷は護衛依頼の時に少し切ってしまったものだった。


リューが異常なまでに心配してきて嬉しかったけど、魔術を使うまでもないような軽いものだったので軽く手当てをするだけにしておいた。


その傷に手をかざし、詠唱を始める。


「…光は我が力となり、彼の者を癒やし苦痛を和らげよ。ハイ・ヒール」


光が傷口へと集まり、みるみるうちに塞いでいく。


「ふう…」


5秒もかからず傷は跡形もなく消えた。


やっぱり普通のヒールより遥かに効き目が高い。代わりに結構魔力を持って行かれるけど。


「ん、もう確認終わり……か?」


「あ、ううん。もう少しだけ待ってて?」


今度は自分の靴の汚れている部分に掌をかざす。


「神聖なる光の力において、穢れを払い清浄をもたらせ。ポリフィケーション」


詠唱をすると、汚れが光に覆われ少しずつ霧散していく。


よし、こっちも成功。


「浄化魔術か」


エルがそう確認してくる。


「うん。今私達のパーティーでこれ使えるのはリューだけでしょ?ティファはその………ヒール系以外は光魔術苦手だし」


「つまりリューの手助けがしたい、ってことだな?」


「あ、え、いや、そうじゃ…なくて…」


「甲斐甲斐しい嫁だなあ」


「よ、よ、嫁、じゃ、ないし」


「はっは、動揺しすぎだろ。」


「からかわないでよぅ……」


あー……、顔が厚い…じゃない、顔が熱い。


「まあ、冗談はほどほどにして……始めようぜ?」


「うん、だね。………からかった分はぶちのめすから」


「おい、笑みが黒いぞおい」





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵





まず初手。


リーナと俺は使用する武器のリーチがかなり違う。


その利点を生かすために、リーナが近づく前に大剣(木製)を横薙ぎに振る。


正面から走りこんでくるリーナは予想していたのか、体を屈めつつ短剣(木製)で大剣を受け流す。


このままでは懐に入られる、そう思いながら大剣を振った勢いのまま前蹴りを放つ。


リーナはそれを一瞬見て、踵を返すように後退し距離を空けた。


「っ…!……投剣使うのかよ!?」


危ねえ。飛び退きながらスローイングナイフ投げて来やがった。


「え?ダメ?」


少し不満そうな表情を浮かべながらリーナが切り込んでくる。


「駄目とは言わねーけど、剣術の技術向上の為じゃなかったのか?」


リーナが振るってきた両手の短剣を、それぞれ大剣の腹と刃(無いけど)で弾く。


「模擬戦、としか言ってないと思うよ?」


話しながらも鋭い剣戟を打ち込んでくる。

「…………そう、だな…」


「そうだよ。……じゃ、もう少し速度上げるね?」


言った途端、リーナの打ち込みが急激に速くなる。


「……ぐ………」


速い。ギリギリで直撃は避けているが、掠ることが急に多くなった。リューと同等、と言って良い速度だ。


素早く、手数の多いリーナの攻撃を弾いたり避けたり偶に喰らったり。弾いたり避けたり偶に喰らったり。俺が劣勢のまま20分程が経過したころ。このままじゃあヤバい、と思い、策を講じることにした。



「また……前、より一段、と速、くなったな」


ずっと動きっぱなしで喋ることすら辛い。


「そう、かな……?」


自信なさげにそう言うリーナ。


しかしその間も攻撃の手は緩まない。


「ああ。これならリューに匹敵するくらい、だし、あいつも背、中預けられるだろうし、ずっとリューの、側にいられ、るレベル、じゃねえか?」


「ずっと、側に……?」


苦しい防戦を強いられている俺の起死回生の策、それは―――


「嫁としてな」


「よ、っめぇ……!」


―――動揺を誘うこと。


案の定、リーナの動きが目に見えて鈍った。


………ここだッ…!


剣筋の乱れた、両手に握られた短剣を打ち上げる。武器を弾くには至らないが、リーナの両手が挙がる。


そのまま胴体に―――打ち込もうとすると確実に逃げられるので、大剣を放棄し、リーナの両手首を掴んだ。


「ぅあっ」


リーナが声を洩らすがもう遅い。


そのまま重心を後ろに、脚をリーナの腹部に当て、背中から倒れ込むようにしてリーナを真上に投げる。

リューが俺のこれを初めて見たときは『トモエナゲ』に似てる、とか言ってたか。………トモエナゲってのはなんかの技らしい。


完全に宙に浮き上がったリーナの体を、素早く大剣を拾って打ち据える―――


―――寸前、視界の端から何かが――――





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵





「スキル 身体能力強化、オン」


皆と別れてすぐ、僕は早速スキルを発動した。


「お……?」


体が軽いような感じがする。


これが身体能力強化か。……そういえばこれ………使ったこと無かったんだっけ………!?


………なんか錆びさせるみたいで申し訳ない。


…………それとこれから一層使わなくなることが本当に申し訳ない…………


もしスキルが擬人化したら『今までずっと放っといて、今更何よ!……しかも今回限り、ですって……!?バカにするのも大概にしなさいよ、このグズ!!』とか言われてたに違いない。……うわ、怖いなー。




………


…………



………そんな意味不明なことを考え出した自分の頭が怖い……


って、何やってんだろう。今は集中しないと。


ちょっとジャンプでもしてみるか。




……よっ……「とぉあ!?」



着地。



………危ない。天井にぶつかりかけた。


しかしこのスキル、反射神経あたりも強化されるらしく、咄嗟に首を捻ったお陰で頭を打たずに済んだ。


「これ……かなり良いスキルじゃん……」


あまりの有用性に独り言が洩れる。


今度は動かず、どんな風に作用してるのか感じ取らないと……


立ったままで目を閉じて意識を集中させる。


………なんだろう、これ………


言葉に表しにくい感覚だ………。



……強いて言うならば……神経や筋肉には普段微量しか流れない魔力が結構な量集まっている……みたいな感じ………かな?…………あっ


効果が切れた。……もう20分経っていたらしい。



………よし、この感覚を元に………



体中に魔力を巡らせるイメージで―――


いや、これじゃ循環させてるのと何ら変わりは無いな……。


もっと『魔術』を意識した感じ……




10分くらい試行錯誤を繰り返したのち、何となく良さげな感覚に辿り着いた。


神経から魔力を流していって、筋細胞に溶け込ませる。


そんなイメージを固めていく。



……



………



……………



…………………お!いい感じ。



体がさっき以上に軽い。よし。成功だ………!!



じゃあ、とりあえずジャンプ……は危ないから、走ってみようかな。


そう思い、走る構えをとり―――


ドォッ!!


踏み出した瞬間、足元で変な音が、と思ったすぐ後。



ドゴォッッッ!!



気付けばエルに激突していた―――。


28話終了。


ぶつかられたエルの体(主に骨)は大丈夫なのでしょうか。



10/1 一時休止。



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