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第26話 美味しい昼食

視点変更あり。


それと、この話から『!』と『?』を大文字に変えます。他の話も順次改訂していくつもりです。

翌日、朝。


目を覚ます。


ずるずると体を動かしてベッドから足だけ下ろし、座る体勢になる。


まだ寝ぼけたままの頭を起こそうと、カーテンを開けた。



…………暗い。



またこの時間帯に起きたか、と思い、少し憂鬱になる。



仕方ない、二度寝してやる。眠くないけど。



横になって目を閉じていれば、きっとそのうち寝られるはず。そう判断し、僕は再びベッドに体を沈めた。





∵リーナ・フルストside∵





今日はなかなかに寝覚めが良かった。


部屋の壁掛け時計は7時30分過ぎを指し示している。


――リューはやっぱりもう起きてるのかな…?


一瞬そんな事を思ってしまい、何故そんなことを考えているのかと焦りを覚える。…少しだけ、顔が熱いかもしれない。


しかし、それも支度をしなければという思いでかき消される。



起きて10分程で着替えやら何やらを済ませ、自分の部屋を出て食堂に向かった。



食堂にはリューの姿はない。前のように外に居るのかと思い宿の受付に尋ねるも、今日はまだ誰も出て行くのをみていない、との答えが返ってくる。


まだ寝てるのかな………?珍しいこともあるもんだ。


それなら私が起こそう、と




コンコン。


ドアを二回、ノックした。



返事はない。



コンコンコン。


一回多くノックをし直しながら、声をかける。「リューーー?起きてるーー?っていうか居るのーー………!?」



…………返事が無い……。



リューはいつも眠りが浅めなはず……。………まさか、急病………………!?


考えがそこに至ると共に、どうしようもない不安に駆られ始めた。


強めのノックをする。



………あ、中で音が聞こえた……!


ゴトッ、ガタッという音を立てながら、リューがドアに近づいてくる気配がする。


………良かった、大丈夫みたいで…。



ドアがゆっくりと開く。


「……ごめんリーナぁ………ちょっと二度寝しちゃった……」


寝ぼけ眼のうえ、寝間着のまま現れたリューを見て、私は思わず一瞬固まってしまった。


「……あ、う、うん…。だ、大丈夫だよ?」


なんとか返答を絞り出す。


「……ごめんねー……5分で行くから…。先に食堂で待ってて?」


「う、ううん。5分くらいなら私待つよ……?」


「………分かった、3分だけ待ってて」


会話を終えるとリューはすぐに部屋に引っ込む。それを合図にするように、私は両手で顔を覆ってうずくまりながら心の内で叫んだ。



(……か………かわいぃぃぃぃぃ…………!!!)



身を悶えさせる。



(本当にあれ男の子!?なんか性別間違って生まれてきてない!!?)



眠そうなトロンとした目に少しだけ乱れた髪、そして一度も見たことの無かった寝間着姿は、リューの魅力を十二分に引き出して―――



「待たせてごめ……ん………って、うずくまってどうしたのリーナ……?具合悪いの?大丈夫?」



あ……れ…?


……あ、もう3分経ったんだ。


「ぇ、あ、いや、別に、具合は悪くないよ?だ、大丈夫だ、問題ない。」


酷く動揺しながら立ち上がる。


「イーノッ……………あ、いや何でもない…………そう、なら良かった。じゃ、行こっか?」


促され、私達は食堂へ向かった。





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵





現在の時刻は午前10時前。


朝食(案の定エルは遅れた)を終え、僕達はギルドに来ている。


ちらりと横を見ると、エルが眠そうに大きな欠伸をしていた。


「エル………まさか、まだ眠いの?」問いかけてみる。


「ん?……ああ、眠い。」


「はぁ……。あれだけ寝といて?」


当然、とでも言うような感じで返事をするエルに、リーナが溜め息をつく。


「リュー、リーナ、これはもう持病みたいなものだから……諦めた方が良い。」


ティファが僕達に同情の眼差しを向けてくる。


「例えば、『願いがなんでも叶うって言われたら、俺が要求するのはいつ、どこでも快適に寝られる能力だからな』とか『物語でさ、敵の術中に嵌って自分の欲求に沿った幻覚とか見せられる、みたいな展開あるだろ。多分、俺だったらひたすら寝る幻覚を見せられる』とか言ったり。あ、これを言ったのは6、7年前だけど………昔からずっとこんな感じ」


「「…………」」


どこか遠くを見つめるような瞳で語るティファ。僕達2人は思わず押し黙った。


そして、力無く首を横に振る。



『だめだこりゃ』と。





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵





「すみません」


「はい、ようこそ王都ギルドへ。ご用件は何でしょうか?」


「えっと、クエストを請けたいんですが…………なるべく短時間、昼頃には終われるようなものってありませんか?」


受付で、リーナが質問をする。


「短時間での達成が可能なクエスト、ですか。ランクは不問、としても良いでしょうか?」


「あ、はい。大丈夫です」


ランクは不問、といってもC~Eランクなんだけどね。


「ええと、条件に合致するのは……4件、でしょうね。あっ、うち1件は期限が今日までですね。」


「今日まで………ですか?内容を伺っても?」


割と珍しい、期限付きのクエストに興味が涌き、僕も会話に参入する。


「ええ、構いません。えー……ランクはフリーランク、報酬は1人1万ニル、期限は今日の昼まで。内容は…………炊き出しの手伝いです」


………………炊き出しって。冒険者の仕事ですか、それ?


「炊き出し、ですか?」


不思議そうに、リーナが首を傾げる。


「……はい。………あー、依頼主はギルド長ですね、なるほど、納得しました。」


「えーっと、何に納得したんですか…?」


そう言うと受付の女性は一瞬、しまった、というような表情をした。


「……あっ、すみません……。こちらにしか分からないことを言ってしまいました。確か…一昨日、だったかな。ギルド長がお一人でディノスを仕留めて、肉を持って帰ってきたんです。」


「ディノス………というのは?」


聞いたことのない言葉に、疑問符をつけて聞き返す。


「ディノスというのは体長が4、5メートル程の、Aランクの魔物です。肉が柔らかくてすっごく美味しいんですよぉ……」


以前にも食べたことがあるらしい受付の女性は、それを思い出したのかうっとりした表情で語る。口角上がりすぎ。


「Aランクを1人で、ですか……!?」


肉の感想じゃなくて、ギルド長の方が気になるんですけど………。


「ええ。なんせギルド長は元SSランクの冒険者ですから。一昨日はたしか、『散歩がてら狩ってきたから、今度炊き出しでもするか』とか言っていましたので……」


散歩がてらって。何か余裕が滲み出てる。………流石は元SSランク………。


「あ、それで……このクエストは請けますか?それとも別のものを?」


むう。報酬はなかなか良いし、肉も美味しそうだけど……。


「………どうする?」


3人に問いかけ、審議開始。


「私は良いと思う。あんまり料理うまくはないけど、下ごしらえ位ならできるから……」


「俺も賛成。まあ、料理はからっきしだから、それ以外の手伝いに回るけどなー」


「……お肉、食べたい」


3人共に意見が揃った。


………ティファが食欲をさらけ出すなんて珍しいこともあるもんだ。


表情から僕が言いたいことを読み取ったのか、ティファが口を開く。


「以前に一回だけ、ディノスのお肉を食べたことがある。………あれは食べないと損する美味しさだと思う」


「ですよね!あれはもはや天上の食べ物かと思うような美味しさ……!!…ということで、請けるんですね?」


割り込んできた…………テンション高いなあ、この人………。



その後クエストを受託した僕達はギルド長が居るらしい広場へと向かった。





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵





広場へ到着すると、2つ繋がったテント(運動会で使うようなあれ)が目に入った。


近付いていくと、1人の老人が何やら作業をしている。


年齢は多分………60くらいだろうか。身長は170ぐらいとさほど高くはないが、服の上からでも判る隆起した筋肉が彼を大きく見せていた。


「あの、すみません。あなたがギルド長ですか?」


近くに立ち、一応確認する。


「うん?ああ、儂は確かにギルド長だが………少年少女達、何か用か?」


「えっと、クエストを請けて来たんです。炊き出しの依ら「そうかそうか!!手伝ってくれるのか!!いや、助かる!」


リーナが依頼書を出しながらしゃべっているのを遮りながら、ギルド長が感嘆の声を洩らす。


………いや、洩らすとかいう声のボリュームじゃあないけど。


「あーっとー………簡単に自己紹介だけします。エル、リーナ、ティファ、僕がリューです」


それぞれを指しながら、挨拶を済ませる。


「そうか。じゃあ早速だが、各自手を洗って、野菜の皮むきを頼むぞ。剥き終わったら順次そっちのボウルに入れていってくれ」


了解し、それぞれ作業を始めていく。




ギルド長の包丁捌きはすごかった。さっきまでギルド長が皮を剥いていたらしい野菜を適度な大きさに切っていく。ボウルの野菜はどんどん減っていく。それに負けじと、僕も一心不乱に皮むきを済ませていく。


リーナはまあ、普通のペース。ティファはそれより少し遅いくらいだが、エルは………まあ、さっきからボウルを運んだり皮を捨てたり、皮むき以外を頑張ってるみたいだし、いいか。


そんな事を考えていると、ギルド長が野菜を切りつつ話しかけてきた。


「リューとか言ったか。お前は飛び抜けて皮むきが早いな!」


おお、褒めてもらえた。


「ありがとうございます。料理歴は14年………じゃない、6年前くらいから母の手伝いなどをしてました」


うっかり元の世界の分も合わせたのを言いそうになった。


「なんだリュー、お前ハイハイしながら料理してたのか?」


エルがそういって笑う。


「う……言い間違いを茶化さないでよ……!!恥ずかしくなるから!!」


「エルは黙って働いてなさい!!……それより、これって何を作ってるんですか?」


リーナが庇ってくれたー。


「うん?ああ、これはディノススープとか、大体そんな感じのもんだ。ディノスの肉から出る出汁とコイツで味付けをする」


そういってギルド長が取り出したのは―――



「これ…味噌!?」


「ほう、ミソを知ってるのか」


そう、それは明らかに赤味噌だった。



「ミソって………なに、それ?」


ティファが疑問を口にする。


「一般には殆ど出回っていないがな、これは初代の勇者が伝えたという調味料だ。今回は城のほうの知り合いに都合つけてもらった。かなり高くついたが…まあ大金叩く価値はあるな」


そう言ってギルド長は苦笑する。



味噌、野菜、肉。つまり出来るのは―――おそらく豚汁に近いもの、か。


………今まで知らなかったな。一般的じゃないにしてもまさか味噌が伝わっていたとは……。勇者の影響力恐るべし。





∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵





「よーし、完成だな」


1時間程で豚汁モドキは完成した。


まるで松阪牛のように綺麗な霜降りが入った、調理前のディノス肉が頭から離れない。


「お疲れ様でした。早速配りますか?」


広場のほうをちらりと見ると、少なくとも100人は集まっていた。老若男女、人種を問わず様々な人がいる。


「いや、その前に儂らが喰わねばな。直ぐに無くなってしまうだろうからな」


ギルド長はそう言いながら僕達の分を取り分けていく。


………このデカい鍋4つ分がすぐに無くなるんだろうか。こういう活動はしたことがないから知らないけど。


「ほれ、お前の分だぜ、リュー」


「ああ、ありがとう」


エルに豚汁モドキの注がれた器と箸を渡される。


…………って、今までの生活で違和感なく使ってたけど、箸も初代勇者効果か!?


「では、喰おうか」


ギルド長の一声で、各々がいただきます、と声を上げる。


僕はまずディノス肉をすくい上げる。


パクリと一口。



「これ…は………!!」


溶けるほどの柔らかさ。牛と豚の中間のような味。噛めばじゅわりと溢れ出す肉汁。


「うっま………!!!」


食べながら3人に目をやる。


リーナは………表情が緩みきって、極上の笑顔を浮かべている。


ティファは表情こそ変わらないが、黙々と食べ続けている。


エルに至っては凄い勢いでかき込んで……あ、食べ終わった。

「おかわりくれ」


「はっはっは、断る」


エルのおかわり宣言をギルド長が一蹴した。


全員が食べ終わり、ギルド長が再び声をかける。


「さあ、配るぞ!」




ギルド長がどこからか木の器と箸を取り出し(魔術らしい)、僕達が豚汁モドキを取り分けていく。


最初の数人は友人同士らしい青年達だった。


僕達から器と箸を受け取ると、少し離れた所で食べ始める。



次の瞬間、叫び声が上がった。



『うめええぇぇぇ!!!!』




………確かにこれはすぐに無くなるかも。



昼までの場面で文字数が5000くらいだったので………続きはまた次話。

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