第21話 来訪者との邂逅
厨二っぽい展開?まあ、そうかもしれませんね。
盗賊を放置した日から時間は経ち、馬車はこのまま行けば明日には王都に着くであろう所まで来ていた。
僕達は今まで通り、偶に襲ってくる魔物を退けながら進んでいた。
昼時、強烈な突風が吹いた。
「わっ!?」
「うお!?なんだ??」
思わず声を上げるリーナとエル。
木々が揺れざわめき、鳥は慌てるように飛び立っていく。
「っ!?」
強大な魔力が近づいてくる。それを感じ取り、思わず身が震える。
「何か近づい―――」
何かが迫っている、そう言葉にしようとした瞬間。
―――辺りを巨大な影が覆った。
咄嗟に上を見上げ―――そして絶句した。
そこには1羽の赤い鳥がいた。
問題はその大きさ。
体長は優に3、40メートルを越し、その巨体から断続的に受ける羽ばたきによる風は凄まじいものだった。
「し……神獣……」
馬も怯えたのだろう、いつの間にか止まった馬車から降りたショーンさんは上を見上げ、そう呟いた。
神獣。世界中に10体いるかいないかと言われる希少かつ神聖な魔物。神話にも語り継がれ、信仰の対象にさえなっている。特徴はなんといっても強大な魔力だが、気性は割と穏やかで知能も高く、あらゆる生物の言語を理解するという。
なぜ神獣が突然に現れたのか。
『あー、そこの人間達。私の言葉は通じているか?』
神獣の声が響いた。
『あ、ここではそちらの声が聞こえないな。降りるからしばし待っていろ。』
え、降りるの?森破壊する気?
そんな心配はいらなかったようで、再び風が吹いたかと思えば、2メートルくらいのサイズに縮んだ神獣が馬車の後ろに降り立っていた。
「えっと………こんにちは?」
他のみんなはなんか固まってるので、とりあえず声をかけてみた。
『ふふ、神獣相手にこんにちは、か。さらに既視感のようなものを覚えるな。』
なんで既視感?と思いつつ、問う。
「いきなり質問なんですけど………どうして僕達の前に現れたんです?」
『ああ、敬語はあまり好きじゃないから、使わなくていい。どうして―――か。強いて言うなら、興味が湧いたから、だな。』
興味……?何に……?
『おっと、自己紹介もまだだったな。正式な名は知らないが、私は人間達には《朱雀》と呼ばれている神獣だ。』
「え、朱雀?四聖獣の?」
おっと。思わず声に出してしまった。
『四聖獣……というのはよく分からないが、この名は初代勇者から貰ったものだ。………っと、そういえばまだ君の名を聞いていなかったな。教えてくれるか?』
それに応じる。
「僕はリュー・ベテルギル。それで………興味が湧いたって……何に対して?」
『それは君に、だよ。』
………え?なんで僕?
『人の身でありながらその魔力量だ。…まあ、彼よりは少ないみたいだが、もしや初代勇者が甦りでもしたかと思ったよ。魔力の質も似通っているようだしね』
「えっと………その……初代勇者とはどういう関係?」
『仲間だった。………もう500年は前のことだが。彼を魔王城に連れて行ったりもしたな』
魔王城って…………。
『では、今度は私が質問をしよう。………君は………"何"だ?』
「え……」
『そんな魔力の量と質を持った者は、勇者以外に見たことがない。しかし、君は勇者ではない。では、何だ?』
「僕は………」
思わず口ごもる。
『もしかして、《この言語も話せたりするのか?》』
「!!!」
それは―――約15年振りに耳にした"日本語"だった。
僕の驚きの表情を見て、合点がいった、というような感じで小さく頷く朱雀。正直、察しが良すぎると思う。
『………そうか。――懐かしい事を思い出させてくれた礼だ。君にこれを』
そう言って、嘴を開いて一鳴き。
すると、朱雀の体から赤い光が零れ、嘴の前で形を成していく。
出来上がったのは一枚の深紅の羽根。朱雀は僕に手に取るよう指示する。
「これは………?」
『魔力を篭めると私を召喚できるように術を組み込んであるものだ。緊急時に使うと良い。本当にマズい時しか使うなよ?』
なるほど、喚ばれて飛び出てくれるのか。どこかの大魔王みたいだ。
「ありがとう。でも、良いの?」
『礼だと言っただろう。気にするな。………では私は行くとしよう』
「ありがとう。機会があったら、また。」
『ああ。ではな』
そう言うと朱雀は羽ばたき始め、数秒のうちに空へ飛び上がり、やがて姿が見えなくなった。
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「凄かったねー、朱雀。」
「ああ。なんつーか……神々しい?姿だったな」
「……なんで疑問形?」
神獣である朱雀を見たことへの興奮覚めやらぬ中、馬車は再び王都へと進んでいた。
「にしても、神獣に興味を持たれるなんてな。リュー、お前そろそろ人辞めちまうんじゃねえか?」
「辞めないよっ!?」
なかなか心外な発言だ。
「もう半分くらい辞めてる気もするけど………そういえば、朱雀が何か言ってたみたいだけど、あれどこの言葉なの?リューは解った?」
く……流石リーナ、なかなか痛い所を突いてくる。
「いや、解らなかったよ。どこの言葉だろうね?」
取り敢えずしらばっくれておく。
「………それにしては驚いたような顔してなかった?」
ちょっと………なるべく動揺は隠したつもりだったのに。……そしてなんでそのタイミングで朱雀じゃなくて僕の顔を見てるのかと。
「いきなり知らない言語で話されたんだから、そりゃ驚くって。」
それらしく取り繕う。
「んー……まあ、そうだって言うならそうなのかな。」
ふう………日本語なんて、異世界に関する事言えない………。
その後も雑談を続け、馬車は澄んだ空の下を進んでいった。
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翌日、昼前に馬車が王都に到着した。
「みんな、お疲れ様。なかなかに良い旅になったよ。次も頼みたいくらいだ。」
ギルドの前で馬車を降りると、ショーンさんが僕達4人にそう言った。
「私たちも良い経験になりました。指名してくれれば多分請けますよ?」
リーナがそう言う。
「そりゃあありがたい。………それと、リューくん。本当にありがとう」
ショーンが深々と頭を下げた。
「え………ちょ、何がですか?」
「まずはミラを治してくれたこと。セレスもとても喜んでいたよ。―――そして、神獣を見れたこと。滅多にあることじゃない、君が居たからこそだ。」
………ああ、その2つ。
「いえ………ミラちゃんを治したのはクエストだったからですし、神獣に至ってはその……たまたまじゃないですか。」
「たまたま、か。そのお陰でまたセレスへの土産話が増えたんだ。感謝せずにはいられないよ。」
あ、結局セレスさん至上主義なんだ。
「ノロケ乙でーす。ほら、さっさとギルドに報告行きましょうよ。」
「はは、そうだね。」
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「さて、今日これからどうするよ?」
ギルドに報告をして報酬の10万ニル(金貨一枚)を受け取り、ショーンさんと別れたのち、エルがそう言った。
「えっと………3人はDランクになったんだし、祝勝会でもやる?」
思いついた事を言ってみる。
「おいおい、ランク上がったって言ってもまだDランク程度だぜ?その位で祝勝会やってる奴とか、小物臭しかしねえよ」
…しゅん………
「リュー、いじけないの。まずは宿に荷物置いて………あ、私魔道具店行きたいんだけど!!」
ああ、例の『可愛いデザイン』の。
「私は図書館に行く」
ティファ、本好きだしね。
「じゃ、別行動になるか。俺は図書館について行くけと、リューはどうするんだ?」
「僕はリーナについて行こうかなー。リーナがどんなのを選ぶか見ものだし。」
「そうか。そんじゃ早速、宿行くか!」
次話、リューとリーナのドキドキデート(嘘)です。