第0話 西の森
-1話ときて0話です。主人公視点になることはない話です。
ふと疑問に思ったのですが、地下1階と地上1階があって0階が無いのはどうしてなんでしょうか。
……どうでもいいですね。
昨日降った雪がまだ解けきっておらず、森閑とした辺り一帯は気温以上に肌寒く感じる。
今日私は、久しぶりに西の森の奥深くに薬草を採りに来ていた。
この薬草は一年中、もちろん冬でも問題なく生い茂り、いつでも使えるということから汎用性が高いものだ。
薬に使う分の薬草を採り終わり、そろそろ帰ろうかと算段をつけていた時の事だった。
「…?」
…聞き違いだろうか…??今、何かの声が聞こえた気がする。
(いや、聞き違いじゃない)
そう思った私は、声がしたと思われる、森の最深部の方へ向かった。
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しばらく歩いていると、声は大きくなってきた。ギャア、ギャア、と、鳴き声のように聞こえる。
(…もし魔物だったら危ないな)
ふとそう思い、腰に差していた採集用のナイフを引き抜く。これでもかつては毎日のように魔物と闘っていたし、いざという時は魔術を使えばいい。命の危険は免れるだろう。思考を巡らせ辺りを警戒しながら更に進む。
(………っ!?…これ…魔物の鳴き声なんかじゃない…?もしかして…赤子…!?)
目標が近くなってくると、声が鮮明に聞こえてくるようになり、私はそれが何であるかをようやく認識し始めた。
―――これは赤子の泣き声だ―――。そのことを完全に理解した私は、気が付くと走り出していた。
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1分もせずに声の元に辿り着く。大きな切り株の上にそっと置かれた赤子を見て、私は驚愕した。
「これは……人間の赤子……!?」
この森は他種族に荒らされぬよう、エルフが結界を掛けているはずだ。例えば赤子でも、人間が入れる筈がない。こんな事ありえない―――
と、私に理解できない事象について考えても無駄だろう。とりあえずはこの子を泣き止ませたい。
おくるみに包まれている赤子を抱き上げると、すぐに泣き止んだ。
「あら、泣き止んだ…。利口な子ね。……久しぶりに抱いたけれど、やっぱり赤ちゃんは可愛いわね…。」
自然と笑みがこぼれる。
「ふふ……可愛い子…。…ん……?これは何かしら…?」
おくるみの中に何か硬い物が入っている。取り出してみるとそれは本だった。
試しに何ページかめくってみるが、何も書いていないようだ。
「白紙…普通の本じゃない…?……まあ、気にしてる暇はないか。」
いつからこの赤子はここに居たのだろうか。こんなに寒い中ではすぐに凍えてしまうだろう。それに、薬草は新鮮なうちに加工しないと、薬としての効果が弱くなる。できるだけ急いで帰らなければ。
「……それに……この子はこの森にいると厄介なことになりそうだしね」
―――よし、この子は私が育てよう。謎は多いが、捨て子なら私の子にしてしまっても問題は無いだろう。
―――それになにより、この子は天使のように可愛い。
いつの間にか眠ってしまった赤子を起こさないように、しかしなるべく急いで私は森の出口に向かった。
次の話がいよいよ1話です。