第17話 護衛と夫婦
やっと書けました………。
「君達がクエストを請けてくれたのかい?」
護衛のクエストを受託した日から3日後。僕達は商人との待ち合わせの為に南門の前に来ていた。ギルドの受付嬢から言われた通り、目印にとエルが大剣を抜いて掲げている。
………道行く人が不審げにこちらを見てくるので、正直かなり居たたまれない気持ちで商人を待っていた所だった。
「はい。あなたがショーンさんでしょうか?」
話し掛けてきた男性に質問を投げ返す。ギルドで聞いた依頼人の顔の特徴が彼のそれと合致しており、ほぼ間違いなく本人であることが伺い知れる。
「うん、私がショーンだよ。はい、ギルドカード」
ショーンさんがギルドカードを渡してくる。うん、本人だね。
そういえば、この国(紹介を忘れていたが、シリウスト王国という)には商人ギルドという物はない(組合はあるが)。商人も冒険者と同じギルドに登録するのだ。
護衛を頼みたい時はギルドに申請し、クエストランクは護衛される側の商隊等の規模や通るルートなどによって設定される。
ギルドに登録している商人と冒険者では、冒険者の方が圧倒的に多く、ギルドに依頼を出せば移動の時に困ることはほとんどない。
――――という、この数日の間に知ったことを(ドヤ顔で)披露してみた。
「はい、確認しました。はじめまして、僕達4人が今回の護衛を請け負うことになりました。若輩者ではありますがよろしくお願いします。」
ギルドカードを返し、ショーンさんに挨拶をする。
「こちらこそよろしく。さて、早速出発するから馬車に乗って。……荷台だから揺れるだろうが辛抱してほしい」
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馬車の中で簡単にそれぞれの挨拶を済ませ、4人で役割を分担していると、馬車は王都の南門を出て森に差し掛かっていた。
戦闘になったときの事を考えて、機動力のあるリーナと僕は馬車の屋根の上、一撃の威力が高いティファとエルは荷台の中だ。
「そういえば聞いてなかったですけど、目的地ってどこなんですか?」
リーナが屋根の上から、手綱を握るショーンさんに質問を投げかける。
「ああ、これから向かうのはリンコマだよ。君達は行ったことはあるかな?」
あー、リンコマか。………あの不良達元気かなあ……?いや、元気であってほしくないけど。
「はい、そりゃありますよ!僕がギルドに登録したのも、リーナと出会ったのもリンコマなんですから」
「へえ、奇遇だね。私もリンコマでギルド登録をして、妻に出逢ったんだよ」
「お、奥さんに……ですか。」
リーナが声を少し上擦らせながら言う。
「そう。妻はギルドの受付として働いていてね、そこで次第に仲良くなって、一昨年結婚するに至ったんだ。あ、彼女は今もギルドでバリバリ働いているから、もしかしたら君達も会ったことがあるかも知れないね?」
へえ、ちょっと興味あるな。
「ちなみに奥さんのお名前は?」
「妻はセレスというんだが、これがまた綺麗で、気立ても良いんだよ。私には勿体無いくらいの女性なんだ………!」
明らかにニヤけながらそう話すショーンさん。はいはい、ノロケノロケ。………ん?セレスってどこかで………?…………あれ??ショーンさんの苗字って確か……
「ショーンさんの奥さんって………もしかしてセレス・クリストさんですか…??」
「あ、やっぱり知ってるんだね?……どうだい、綺麗だろう?綺麗だろう?」
「ええ、僕から見ても綺麗な方だと思います。リーナは知ってる?」
「う、うん。……あのセレスさんが……。……リューってああいう大人な雰囲気で綺麗な人がタイプなの…?」
え、何その質問。
「別にタイプなわけじゃないけど……ただセレスさんは美人だなって思っただけよ?ていうかいきなりどうしたのリーナ?」
「……え?あ、ううん……別に何でもないの……うん」
なんだか歯切れが悪い。
「ははは、若いって良いものだねえ」
ショーンさんが笑い、僕は首を傾げた。
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森に入って1時間ほど経った頃。索敵に魔物の反応があった。
「7時の方角から魔物が接近中!!数19、距離約45!!」
エルはマジか!!と声を上げ、ショーンさんは馬の速度を上げた。……!!魔物の接近が早い!!
「リーナ、この辺りで動きが早い魔物って言ったら何が居る?」
「……ルズウルフか、アンハスキーシベリくらいかな。数が多いから多分ルズウルフの方だと思う!!狼型の魔物としては小さいけど、すばしっこくて牙と爪が鋭いの…!」
説明を受けているうちに、後方の森から魔物が走り出てきた。距離20。
「後方からルズウルフ接近!!僕が魔術で先行するから、ティファは援護お願い!!」
屋根の後ろの方に移動しながらそう口にすると、ティファはいつもより若干力強く分かった、と言った。
後方10メートルくらいに大型犬くらいの大きさの狼の魔物、ルズウルフがひーふーみーよー……。唸り声をあげながら走ってくる。
距離が5メートルに迫ったところで水魔術を発動。ルズウルフの周りを水が囲い込む。
周りに現れた水に驚いたのか、なぜかルズウルフたちは水に向かって攻撃をしている。
「ティファ!!」
声をかけると直ぐに魔術を発動させるティファ。
それと同時に水が凍り始め、必死にもがくもやがて動きを止めて、ルズウルフたちは氷像となった。
「よし、ありがとう。タイミングバッチリだよティファ。」
「………うん、おつかれ…」
「圧倒的じゃないか、我が軍は!!」
「キャラがおかしいわよエル……?」
「軍と書いてパーティーと読むって……。無茶しやがって……」
エルのおふざけにツッコミを入れていると、ショーンさんが笑い出した。
「あははははは、君達は本当に良いパーティーだねえ!!」
「………そうでもない」
「エルがふざけるからねー……。」
「ホントね、…エルさえいなければ……。」
「いつの間にか俺包囲網できてる……!?」
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リンコマには3日で到着した。
魔物による襲撃が8回、うち3回は夜営中だったが難なく倒せた。
「いやあ、こんなに心配が要らない移動は初めてだよ!帰りもよろしく頼むよ!」
ショーンさんはリンコマに着くや否や、上機嫌でそう言った。
「そう言ってもらえてありがたいです。……帰りは何日後なんですか?」
「そうだねえ……商品の納入が1日、妻とイチャイチャするのが2日で……出発は4日後になるかな。」
「い、イチャイチャ、ですか………」
「そうだよ。ニャンニャンする、という言い換えもできるかな?」
「言い換えんで良いわ……!!……じゃあ4日後の朝、ギルドで待ち合わせましょうか。3日間で別のクエストを請けるかもしれないと思うんですが、良いですか?」
「まあ良いと思うけど、あまり危険なものはやらないようにね?」
「はい、そうします。」
その日は早々に宿屋に向かい、今日の戦闘の反省会を軽くやって就寝したのだった。
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翌日。例の如く早朝に起きた僕は、久しぶりに魔力量を確認することにした。
「スキル:ステータスチェック、オン」
推定魔力量:8106/8106
あ、あっれえ??なんかますます増えてる??………って、これ多いのかな?そういえば人と比べた事無いんだった。
………『鑑定』でいけるのかな……?人に使った事無いから分からないけど……。
…………よし、とりあえず――――
朝ご飯が食べたい。
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朝食を採っていると、リーナとティファが揃って食堂にやってきた。
「おはよう、2人とも。」
「……おはよう」
「おはようリュー。相変わらず早いね?」
挨拶を交わすと、僕は小声で鑑定を発動し、2人を見た。
リーナ・フルスト ♀ 15歳
人間族
B:??
W:??
H:??
推定魔力量:523/523
ん?
ティファ・シリル ♀ 15歳
獣人族
B:??
W:??
H:??
推定魔力量:1871/1871
あれ?
………………スリーサイズが見れないじゃ……いやそっちではなく。
500に1800………もしかして僕の魔力量ってかなり多い……!?
「………どうした…?私たちの顔に何か付いてる………?」
ティファが首を捻って言う。しまった、ガン見してた。
「あ、いや、ただ2人の魔力量が気になって……。」
「魔力量??」
「うん。どのくらい魔力があるのかなって」
「えっと………私が大体一般的な魔力量かな。ティファはかなり多いよね?」
「………私は……王宮に仕えられる位はあると思う」
ごめんなさい、僕それ越えてます……
「そうなんだ。もしかしてティファの親御さんって王宮魔術師、とか?」
そう言った瞬間、ティファの肩がビクッと震えた。………あ……図星…?
「………親のことは……あんまり話したくない……」
そう呟いて俯く。
「分かった、言及はしないよ。………そういえば、エルってまだ寝てるの??」
「あー……うん、多分まだ寝てる。」
「………エルはいつも朝が遅いから…」
ああ、確かに言われてみればそうだ。会ってからずっと、一番最後に起きてくるのはエルだった。
「じゃ、僕起こしてくるよ。」
僕は意気揚々と歩き出した。後ろでは2人が合掌をしていたという。
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10分後、僕はエルを連れて2人の元へ戻ってきた。
「ったく……酷い目にあった………雷魔術で起こすなんてよ。」
「だって起きなかったから……。」
「そうは言っても別に起こし方があるだろ……水魔術で水を顔に垂らすとか??」
「その発想はあった」
「あったのかよ!?じゃあやれよ!!」
「だってさ、水で起こすとかあんまり面白くないじゃん?」
「面白いかどうかで決めんなよ!?」
「ま、それはいいからさ、さっさとご飯食べてよ。」
「なんで俺、こんなに扱いが悪いんだ……!?」
エルが朝食を食べ終わり、ギルドに移動する。
「おはようございます、セレスさん」
受付に丁度セレスさんが居たので話し掛ける。
「あ、リューくん、久しぶりですね。お仲間も増えてるみたいですし、どこかに行ってたんですか?」
「はい。しばらく王都でクエストをやってまして、こっちには馬車の護衛で来たんです」
「あら、王都で。」
「ちなみに、護衛の依頼をしたのは旦那さんのショーンさんです」
「え、ええっ??連絡もらってないんですけど!?……か、彼は今こっちに来てるんですかっ!?…………私のこと何か言ってました………?」
「はい、綺麗で気立ても良くて、自分にはもったいないくらいだって言ってましたね。」
「そ、そうですかぁ……!!」
うわあ、嬉しそう。
「それから、こっちに居る3日のうち2日は妻とイチャイチャしたい、とか言ってましたねー。」
「も、もう……。……って、あなた達は私を惚気させに来たんですか……!?クエストですよね?そうだと言ってください!」
「はは、すいません。それで、何か短期間でできそうなクエストってありますか?」
「そうですねー………あ、そっちの子は魔術師ですよね?治癒魔術は使えますか?」
セレスさんがティファの方を見て話しかける。
「………治癒魔術なら……使える」
「それは良かったです。確かリーナちゃんも使えたと記憶してますが………これなんてどうです?」
そう言って一覧表を出して、ある一点を指差す。
「フリーランク………急募、治癒魔術が使える魔術師……報酬……金貨10枚………!!?」
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