第14話 王都ギルド
少し時間がかかりました……。
僕達を呼び止めたのは、南門の警備を担当していた騎士らしき風貌の男性だった。
「先ほどは申し訳ありませんでした。もしや魔物か何かではないかと思ったものですから……。」
あの後、身分を証明出来る物を高く掲げろ、と言われてギルドカードを見せると門に来ていいと許可され、今は門番の騎士に謝られている。
「いえ、疑われるようなことをした僕が悪いんです。それより、さっきの声を飛ばすのはどうやってやったんですか?」
気になったのでとりあえず質問してみた。
「ああ、あれですか。私の声を魔術で直線的に遠くまで届けられるようにしています。強いて言うなら『音魔術』といったところでしょうか。」
「音魔術……ですか……。なるほど、興味深いです。すごいんですね」
合成魔術の一種だろうか。
「いえいえ。風魔術で空を飛ぶことができるリュー殿こそ」
んー………?そんなに難しいものじゃない気がするんだけどなあ……。音魔術のほうがよっぽど………
「あの……、すみません。この辺りの安い宿を教えてくれませんか?」
リーナが騎士にそう聞いた。……おっと、忘れかけてた。
「そうですね………今の時間帯だとどこも埋まっている可能性がありますが、この門の正面の通りならば安宿が多くあるでしょう。」
「そうですか、わかりました。ありがとうございます。リュー、行こうか」
リーナに促され、騎士に礼を言って正面の通りに向かって歩き出す。………あっ、あの騎士さんに名前聞いてなかったなあ。まあ、今度南門に来たら聞いておこう。
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宿探しは思った以上に難航していた。流石王都、宿の数が多い。
しかし、客の数も多い。
これまで8つの宿に行ったが、時間帯が夕方だけにどこも満室。現在9件目の宿にいる。
「すみません、今部屋は空いてますか?」
これを聞くのも9回目。だが、返答は今までと同様ではなかった。
「そうですねえ……ああ、2人部屋ならひとつ空いてますよ?」
ちょ、ちょっと。それはダメでしょ。一応男女なんだから、ちゃんと別の部屋じゃないと。ていうか受付。あんた確信犯だろ。僕の性別間違えてはなさそうだし、微妙ににやついてんだよ。2人部屋なんて却下だよ却下。次行こう次。
「あ、そこでいいです」
……………なにいいィィィィイ!!?
「はい、ではこちらにご記名下さい。」
受付がニヤニヤしながらリーナに用紙を渡す。
おいリーナ、今完全に判断力落ちてるよね?宿屋廻りすぎて精神的にキてるよね?
「できました」
「確認しましたこちら鍵ですごゆっくりどうぞ」
おい早いよ??そして受付バックヤードに下がって行かないで!!有無を言わせないつもりか!!
「リューどうしたの?早く行こうよ。」
そしてリーナは自覚無し、と。
…………今日寝られるかな………?
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「昨夜はお楽しみでしたねえ。」
翌日、ニヤニヤを隠さず、昨日の受付がそう言ってきた。
………まあ確かに、あんなすごいのは初めてだったしね………
∵∴∵∴∵昨夜∴∵∴∵∴
「ひゃあああああ!!!くるううう!!」
「うっ……く……!!!ああああ!!!」
「リュぅぅぅぅぅぅ!!!」
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「へえ、この宿ではゴキが2匹出て客が騒ぐことを『お楽しみ』って言うんですねえ?」
真相はそうだ。ちなみに上の回想は、奴らが2匹揃って飛んできた時のこと。とっさに火魔術(青い炎)で燃やしたけど。
受付のにやけ顔が引きつる。
「…………で…?どう落とし前をつけるんですかね……?」
「………」
「そうだ、今日はギルドに行くから、そこで他の人と色々と情報交換するかもしれないなあ………。」
受付の顔が青ざめていく。
「………っ!!!……………本日の宿代は無料、という事で手を打って頂けますか……?」
うーん………ま、いいか。
「ま、それでいいや。………また近いうちに来ますねー??」
受付の顔が恐怖の色に染まった。
部屋に戻ると、リーナが起きていた。
「あ、リュー。おはよう」
「おはようリーナ。ああ、さっき受付に昨日の事で話したら、宿代タダでいいってさ。」
「えっ?そうなの?得したねぇ。………それよりリュー、ちゃんと寝た??顔色よくないよ?」
…………気づかれた……。
……実際、僕は新たなゴキの襲来に備えて空気の壁で2人分のベッドを囲う作業をしていたため、一睡もしていない。おかげで昨日消費した魔力は全体の半分くらいしか回復していない。
「…………んー………、まあ、大丈夫だよ。ちょっと体はダルいけど」
「ダメだよちゃんと寝ないと……!!」
言いながら、リーナは僕に回復魔術を掛ける。
おお………。体が若干楽になった。
「ありがとうリーナ、助かるよ。」
礼を言うとリーナがはにかむ。………その笑顔が眩しいです。御馳走様でした。
「さて……と、先に食堂行ってるから。ゆっくり着替えて来てよ。」
そう言って立ち上がる。
「あ、う、うん。分かった。」
返事を聞きながら、僕は部屋を後にした。
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「それで?最初に魔道具を買いに行くの?」
朝食後、宿を出て宛てもなく歩きながら僕は質問をした。
「最初にって………ううん、今行ってもお金足りないから………。しばらくはクエスト請けまくって貯金生活かなー……。」
「そっか………ちなみに、魔道具って普通幾らぐらいするの?」
相場が気になったので聞いてみる。聞いても僕が買う訳じゃないんだけど。
「んー……そうだね、一番安い物で10万ちょっと、高い物は数百万から数千万なんてのもあるらしいね。」
数千万………。どうすればそんな額になるんだろうか………?
「そっか。じゃあ頑張ってランク上げないとね。」
「そうだね。頑張らないと…………あ。あれギルドじゃない?」
リーナが前方にある一際高い建物を指差す。剣と盾のエンブレムがついているのはリンコマとは同じだが、比べものにならないほどに建物は大きい。
「ギルド………みたいだね。さすが王都、規模が半端じゃないね」
予想より相当大きかったギルドに心を躍らせながら、僕たちはギルドへ歩いていった。
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「え?」「あ」
ギルドの受付で、僕とリーナの2人はそう声を洩らした。
「初耳です………」と僕。
「そうだった………忘れてた………。」とリーナ。
なぜこうなったのか。それは遡ること数分前。
受付で早速クエストを受けようと思った僕たちは、少し困ったような顔をした受付嬢にこう問われた。
「失礼ですが、お2人組ですか?」と。
はい、とリーナが返事をすると、受付嬢は言いにくそうに言った。
「大変申し上げにくいのですが、王都ギルドのクエストはGランクの雑用等以外、ほとんどが3人以上でなければ請けることができないものとなっています。」
……………………………
そして僕達は一旦、受付から離れたのであった。
――――――緊急会議開始――――――
「……どうする………?」
「どうするって………そりゃあ誰か誘うしかないでしょう?」
「でもほら、周りみてよ。みんな4人組とか5人組だよ?入れるわけ無いじゃん、空気的に。」
「………確かにそうだけど……でもそれじゃ前に進めないよ………」
「そうだけど……」
「……でもあんな男ばっかりの集団の中に分け入っていくのも正直嫌だし………どうすればいいんだろ……」
「「ハァ……」」
同時に溜め息をつく。
そんな僕達に近づいてくる足音が聞こえた。
「ねえ、君たちは2人組?」
と、後ろから女性の声がした。
振り返ってみると、そこには獣人の少女と少年が立っていた。
次話、新キャラ登場です。
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