第10話 雷魔術の活躍
雷魔術ったら雷魔術。
残り6体を討伐し終えて、帰る準備を整える。
リーナのナイフ捌きは中々のもので、請け負った3体は一撃で仕留めていた。
「あ、もしかして部位とか取っていかないといけなかったりする…?」
「え?いや、カードが自動で記録するから大丈夫だよ?まあ、部位が高く売れる魔物もいるけど、ゴブリンじゃ特に有用なところは無いしねー」
「へえ、そっか。それじゃあ帰ろうか」
「うん……ね、ねえ、リュー…」
「ん?何?」
「あの、さ……よければ…なんだけど……しばらく私と組まない?」
「え?うん、いいよ」
「……え…?そ、そんなあっさり………」
何故か動揺しているリーナを尻目に、街へ戻るために森を離れた。
ギルドへ戻ると、セレスさんの受付が開いていたのでギルドカードを提示する。
「ようこそ、って、もう達成ですか?初めてにしては早いですね…。」
「あ、はい。頑張ったので。じゃあ確認お願いします」
セレスさんがギルドカードを魔道具に差し込み、確認を終えて返してくる。
「はい、クエスト達成確認しました。どうぞ、報酬の8000ニルになります。」
報酬を受け取る。
「ありがとうございます。あ、質問いいですか?」
「いいですよ、何でしょうか?」
「ランクアップするためにはFランクの依頼をあといくつ達成すればいいですか?」
「ランクアップですか?通常でしたらあと2つ達成でいいと思います」
「2つですか。じゃあ2つ、同じ場所で達成できるクエストってありませんか?」
セレスさんが書類の束を捲り、条件に合うクエストを探している。
「あ、これはどうでしょう?スモールラットとスモールバット。場所は東部の洞窟、数はともに20、期限は3日です」
スモールラットにバットか。よくあるネーミングだけど、こういうのって普通のネズミやコウモリより大抵でかいのに『スモール』が付くのはおかしいと心底…………なんでもないです。
「それでお願いします」
ギルドカードを再び渡す。
「はい、ではご健闘を祈りしてます。」
∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
「…あ、なんかごめん。勝手にクエスト決めて」
洞窟に行く道中、リーナに謝った。リーナはキョトンとした表情で答える。
「何言ってるの?私が勝手にリューのクエストに付き合ってるんだから、謝る必要なんて無いわよ?」
「……そうかもしれないけど、一応しばらく組むってことにしたのに相談なしは悪かったかなと思って」
「……だけど、今のうちはまだ難易度の低いクエストしか請けられないし、どれを請けても私的には問題ないよ。ランクが上がってきたらちゃんと相談してくれればいいと思う」
「そっか。わかった、そうする」
あ、そういえば忘れてた。
「あ、さっきの報酬山分けしておかないと……」
「え??……いいわよあれぐらい。冒険者になった祝いと思ってて。…ていうか大半リューが倒したし受け取れない…。あ、でもバットとラットはあわせて16000だから、それは半分貰いたいな。頑張るから」
「りょーかい。ところで、洞窟ってあれで合ってる?」
前方にある、いかにもといった感じの洞窟を指差しながら言う。
「あっ、う、うん、ここ。……着いてるのに気がつかなかった…。」
おいおい。僕は場所分からないからって案内頼んだのに。
洞窟に入ると、入口からの光以外は光源が無いため、辺りが真っ暗だった。
索敵には相当な数の生体反応がある。この数を闇の中相手するのはかなり厳しいので、光魔術を発動し、全身を光らせて僕自身が光源となる。
「……リュー、あなた今最高に輝いてるわよ……!」
「……その表現はおかしい」
明かりに惹かれてか、辺りの魔物が近づいてきているようだ。色々な鳴き声が聞こえる。
いつでも戦えるように武器は既に抜いている。
「っ!!」
索敵に反応あり。10体どころじゃない数の魔物が一斉に接近してくる。
「リーナ!!来るよ!!」
「分かった!!」
2人とも戦闘体制に入る。頭上では大量のバットがキィキィと鳴き喚き、地面ではラットが歯を鳴らしている。
上から下から、魔物が襲ってきて、戦闘が開始される。
3、4匹のバットが上から襲い来る。それを避けたり武器で迎撃したりと、忙しくなってくる。ラットはラットで体当たりを仕掛けてくるので避けながら蹴り落としたり斬りつけたり。
捌ききれないわけではないが、とにかく数が多くて面倒くさい。リーナも数に押されて手こずっているようだ。
避ける斬る避ける避ける斬る避ける避ける避ける斬る避ける避ける避ける避ける斬る避ける避ける避ける避ける避ける斬る……………
………………あ゛ああ!!!!めんどくさい、とりあえずバット全部撃ち落とす!!!!
雷魔術発動。
バチバチバチィッッ!!!
青白い電撃が空中に放たれ、敵を撃ち堕とす。何十ものバットが墜落していく。同時に索敵の反応も激減する。
「リーナ!!バットはほとんどやったからラットに専念して!!」
リーナは返事をするまでもなくラットと戦っていたが。
∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
「ああー……疲れた……リーナ、怪我とかしてない?」
「ハァ………ハア……なんで今日に限ってこんなに多く…。…怪我は無いわ、大丈夫。」
約10分後、僕たちは辺りの魔物をあらかた殲滅していた。そこら中に残骸が散らばり、悲惨な光景となっていた。
「これは酷い。……自分でやったけど。最早何体倒したか分からないなあ……。」
「それなら大丈夫。ギルドカードを見れば表示されるから」
言われてカードを見る。
「スモールバット63体 スモールラット41体………」
…………やりすぎた。
∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
「………やりすぎですよ」
ギルドに戻って、セレスさんに言われた。
「………すみません、どうしてなのかあまりにも数が多かったので………。」
「まあいいです、スモールバット3回分、スモールラット2回分で、合計した報酬は4万ニルです」
ありがとうございます、と言いながら1万ニル銀貨4枚を受け取る。……時給にするとすごい額だ。うっかり死ぬかもしれないけど……。
「それと、ランクアップですね。おめでとうございます。Fランクですから、これでEランクのクエストまで請けられるようになります。」
返されたギルドカードにはFの文字。嬉しいけどまだまだだと実感する。
受付を離れながら、銀貨を2枚リーナに渡す。
「予定よりだいぶ多くなったね。はいこれ」
「うん、だね。まいどありー。」
そのままギルドを出る。
「さてと、そろそろお昼にしよ?」
「そうだね。どこにす……」
「おい」
話している間に、昨日の不良達に囲まれていた。
「よォ嬢ちゃん達。昨日は随分舐めた真似してくれたなぁ、おい?」
「オトシマエつけて貰うぜ?その躰でなあ!!」
下品に笑う不良AB。
リーナはしまった、という顔をしている。
(またか……こいつらいっつもこんな事やってるのかな……?………っていうか、まだ僕を女だと思ってるのか……!?)
再び怒りが沸々と湧いてくるが、僕は昨日より冷静だ。
ジリジリと近づいてくる不良達に、僕は叫びながら魔術を使った。
「僕は男だああぁぁッッッ!!!!!!」
バチバチバチバチバチィッッッ!!!!
前言撤回、冷静じゃなかった。
死屍累々。不良達は死ん………ではいないが、皆気絶して倒れている。
「…………えっと……おつかれ…?……リュー……。」
リーナが遠慮がちに声をかけてくる。
「ああ………うん……。ねえ、闇魔術でこの人達から僕らの記憶を消すのと、僕がこの街を離れるの、どっちが良いと思う…?」
「えぇ!?……えと………後者、かな……?記憶だけ消しても、こいつらはまた同じ事を繰り返しそうだし。ここを離れるなら私も一緒に。行きたいところがあるから」
「そっか。……で、行きたいところって?」
リーナはニコリと微笑み、高らかに言った。
「王都、リゲルフィアよ!」
5/15 一部修正。