サッカー
私立星凛高等学校、元々は私立星凛女子高等学校という女子高で年々、入学数が減少しているため、3年前に共学になった。
スポーツに秀でており、バレーボールやソフトボール、バスケットボール、陸上などで、数々の賞をとっており、その中でも、女子サッカーはずば抜けて強く、全国で優勝したこともある。
そのため、日本中からサッカーをやりたい女子が集まってくる。
今日は、その星凛高校の入学式だ。
ボクは友達の葛城修と一緒に学校に向かっている。
「奈央、早く行こーぜ!!」
校門の前で男子がさけんでいる
イケメンで背が高く、肌が少し焼けて黒い、髪は短くもなく長くもないといったくらいだ。
「うん、今行く!」
ある男子がイケメンに呼ばれ返事をした。
その男子は、先ほどの男子と違い、背は160前後と普通の男子高校生の平均伸長より少し小さく、童顔で女子の制服をきていてもおかしくないような中性的な顔立ちだ。
背が高い方がボクで、小さい方が友達の修……と言えたらいいんだけど、その逆だ。
小さい方がボク、月島奈央だ。
で、高い方が葛城 修だ
修は幼なじみでもあり、ボクの入っていた中学のサッカー部のキャプテンでもあり、親友でもある
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ~、疲れた~
校長先生、話し長すぎ」
「だな、さすがの俺も疲れたわ」
ボクたちは無事に入学式を終え、それぞれのクラスにむけ歩いていた。
「それにしても、同じクラスって言うのは運が良かったな
知っている奴がいると、やっぱり楽だし」
「そうだね、ボクは人見知りだし、無口だから修が一緒にいてくれると、心強いよ」
ほんと、そう思う。
・・・ボクは昔から人見知りが激しく、自分から友達を作れたためしがない・・・・小学校でも中学校でも修がいなければ、1人も友達ができなかっただろう
「なあ、奈央!!
今日はもう、学校終わりだろ
サッカー部見に行かねえか?」
「うん、良いよ!!
もともと、ボクも行くつもりだったし」
星凛高校の男子サッカー部は女子サッカー部と違い、そこまで強くない
「…でも、何で修は、この学校に来たの?
修の実力なら、サッカー推薦も沢山きただろうに、わざわざこんな弱小校こなくても良かったんじゃないの」
修の実力は半端なく凄い
残念なことに中学サッカーではボクを含めメンバーに恵まれず、良い結果は残せなかったが、関西の中学でサッカーをしている者なら、知らない者はいないっていえるほどの実力を持っている。
「そんなの決まってるだろ
また、お前と一緒にピッチを駆けたいからだよ
中学では、余りできなかったからな」
・・・・今、何て言った?・・・・ボクと一緒に・・
・・・ありえない、多分、お世辞だろう・・・・
ボクの実力は修とは全く正反対だ。
キープ力、視野の広さ、判断力、テクニック、瞬発力、殆どが平均以下だ。
ただ1つ張り合えるとしたら持久力だけだろう。持久力だけは、小さい時から走り込んでいたため、修と同等、もしくはそれ以上だと自負している
それでも、こんなボクとサッカーをしたいって言ってくれたことについては凄く嬉しい
「……うん!!一緒に頑張ろう!」
ボクは恥ずかしくなり、1人早足で教室にむかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
学校は無事に終わり、ボク達はサッカーグラウンドに向かった。
「サッカーって、どこでやってるの?」
隣にいる修にきく。
「校舎裏のグラウンドって聞いたぜ
・・・・ほら、あそこだ。ゴールポストが見えるだろ」
修の指を指した方をみると、芝でできた緑のジュータンの上にポツンとある真っ白なゴールポストが目に入った。
「わ~、凄いや!!
ボク、芝でサッカーするなんてはじめて!!」
「ん、そうなのか?
芝なんて、そこら中にあるだろ」
「そんなわけないじゃん
修は、トレセンとか選抜で見慣れてるだけ
普通の中学生なら芝でやるなんて、滅多にないよ!!」
「ふ~ん、そんなもんか?」
・・・まったく、修はどこか天然が入っているんだから・・・芝のことといい、さっきの発言といい・・・普通ならあんな恥ずかしいこと、真顔で言えないよ・・・・
だから女子にモテるのかなぁ?・・・
「あ!?あそこにフットサル場があるよ!!
この学校ってフットサルもあるんだね」
グラウンドの隅の方、そこだけ、柵で囲まれており、芝ではなく、コンクリートだ
「そうみたいだな・・・・・・・でも、入学のパンフレットの部活紹介欄にフットサルなんか書いてたか?」
「きっと見落としたんだと思うよ」
修は、よく見てるなぁ・・・ボクなんか、めんどくさいからパンフレット一回も見てないのに・・・
「そうか?・・・・・・あっ、そうだ奈央!!
ボール蹴っとかねーか?・・・・どうせ、サッカー部の人が来るまで暇だろ」
「え!?・・・でも、ボールなんて!?・・・・」
「大丈夫!!・・・こんなこともあろうかと家から持ってきたんだ」
そう言って、修は鞄からボールを取り出す。
思わず苦笑する
「・・・はは・・・いいね、でも勝手に芝に入って怒られないかな?・・・
「大丈夫だろ、どうせサッカー部に入るんだからな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そのボク達は2人でパスをまわした後、一対一をすることにした。
最初はボクがオフェンスで修がディフェンスだ。
ボールを持ちながら適当な距離を離れる
「行くよ、修!」
「いいぜ!!どっからでも掛かってきな!!」
ボクは足でボールを前に押し出し、ドリブルを始める。
ボールは常に膝の下にくるようにし、視線は上に・・・目の情報ではなく、体の感覚でボールをかんじろ
ある人が教えてくれたコツを思い出す
まだまだ荒削りだけど、一応できるようになった。
ドンドンと修との距離が狭まっていく
どうやって抜こうか?
スピードでは無理だ
ボクがスピードに有利なオフェンスとはいえ、修には全く問題ないだろ・・・・・・・ボクのトップスピードでも、修の瞬発力なら簡単に体を入れられてしまう
―――なら、テクニックしかないな
フェイントで相手のバランスを崩し、抜く
だが停滞するフェイントは駄目だ・・・仮に抜けたとしても、簡単に追い付かれてしまう・・・・・・なら、スピードをいかせるフェイント
上体を左右にふり、フェイントを入れる
「甘いぜ、直!!
そんなフェイントが俺に通用すると思ってるのか!!」
これはフェイクだ、修に左右、どちらかに抜くぞと思わせるための。
修との距離が残り一メートルくらいの時、ボクは仕掛けた
自分の膝の下にあるボールを右足が少し前で左足が少し後ろになるようにして、挟み、右の踵を転がるように、左足でボールをあげる
そして、上がったところを、さらに右の踵で上にあげる
まあ、世に言うヒールリフトと呼ばれる技だ
成功したなら、ボールは綺麗な弧を描いて修の頭上を通り抜けるだろう
そう、成功したならばだ・・・
「なっ!?」
修から驚きの声が漏れる
―――よし、できた・・・これなら・・・・・・・え!?
上手く出来たと思った瞬間、後頭部に何かが当たったような衝撃がはしる。
そのせいで、ボクは体勢を崩し、派手に転んでしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
修が心配して、近づいてくる
「・・・う、ん・・・って、あれ?・・・思ったより痛くない」
「そりゃあ、そうだろ。
芝は土よりも柔らかいからな・・・ほらっ」
修はそう言って、ボクに手を差し出した
「・・・あ、ありがと」
修の手をとり、立ち上がる