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朔夜
遥か太古より世界は三つの世で成りたっていた。
生者の住まう一の世を現世、死者の住まう二の世を隠世、そして其の狭間の三の世を歪世と言った。
各々の世は反発し合い、引き合い、バランスを保ち、決して混じり合う事は無かったという。
『じゃぁじっちゃん、アレはどこから来るの?』
『ん、アレはなぁ隠世から来るんだよ。歪世の扉を通じての。』
『扉?』
『そうじゃ。だから扉を見つけても開けては為らぬぞ?』
『どうして?』
『戻って来れなくなるからじゃよ。』
『どうして?』
『人は一度しか扉をくぐれないからじゃよ。』
──でもアレはボクを呼ぶんだ。早く来い、早く来いって。
『早く来よ。』
──嗚呼、また呼んでる。ボクを……。
『開いては為らぬぞ。行けば二度と戻って来れぬ。』
──声がするんだ。
『早く、来よ。』