Accidental e-Mail title「遺書」
『Accidental e-Mail』
・登録・利用は無料。
・登録は簡単。お持ちのメールアドレスをこのサービスに登録するだけ。
・メールを出す際はHNを入力してください。一度お使いになったHNは再び使うことはできません。
・本文は1000文字までです。
・届いたメールには一度だけ返信ができます。返信時にはHNを入力することはできません。返信終了後それで相手とのやり取りは終わりです。
・このサービス利用にあたって起きたトラブルに関して当方は一切責任を負いません。
・それでは『Accidental e-Mail』をお楽しみください。
最近巷で何かと人気を醸し出しているこの『Accidental e-Mail』というサービス。
友人に勧められて自分も登録してみたものの届くメールは以下のようなものばかり。
『おはよー』(みー)
はいおはようございます。
『今日の夕食なんだけど魚と肉どっちがいい?』(マダム144)
金欠の俺の夕食は今日も閉店間際のスーパーの安くなった惣菜です。
『結婚してください』(misozi)
……少し考えさせてください。
といった感じのメールばかりで迷惑メール甚だしい。
一応、返信だけは律義にしているものの、そろそろ飽きてきた今日このごろ。
自分からメールを出したことは未だにない。
顔も名前も知らない。どこの誰に届くかも分からない。そんな相手に向かっていったい何を書けって言うんだ。
このサービスで実際に出会って、結婚までいった、なんてカップルもでたなんてニュースでやっていたけれど。本当かよ。たった一度のメールのやり取りでよく実際に会おうなんて考えれるものだ。
ポケットの携帯が震え、メールが来たことを告げた。
今日初めてのメールだった。『Accidental e-Mail』が来る頻度は不定期で一日に何通も来ることもあれば一週間音沙汰がない時だってある。
『胴も始めまして^^。T県T市にすんでるケンタです。歳は二十歳です。もしこのメールを呼んでいるあなたがT県T市にお住まいだったら。もうこれは偶然という名の運命です。実際に合いませんか? 別に変な意味で言ってるんじゃなくてちょっとお茶するだけです。色々と話しあいましょう。返事待ってます^^』(sigeki223)
まったく……。
女目当て丸わかりのメールだな。
こういうメールも最近よくくるようになったな。このサービスで結婚まで漕ぎ付けたってあのニュースがあってぐらいから。それにしてもT県T市って今自分がいるここじゃないか。まさかこれ出したやつが今近くにいるんじゃないだろうか……。
あれ……シゲキ……。
悪しくもこのサービスを自分に進めてきた友人と同じ名前だった。
まさかな……。
嫌な予感を覚えつつも返事を書いた。
『私もT県T市に住んでいて、歳も二十歳です。本当に偶然ですね。今ちょうど外に出ているんでよかったら少しお話したいです。サンダーって喫茶店わかりますか? そこに今から一時間だけ待ってます。それでは』
俺は友を信じたい。疑いを晴らすため、違うどこかのケンタが店にくることを願ってそう返信した。そして喫茶店サンダ―へと向かった。
ゆっくりと歩いて向かった。ついたころにはメールを出してから二十分ほど経過していた。
扉を開けて中に入った瞬間、俺は泣きそうになった。
俺の友人のケンタがどこかそわそわしながら奥の席に座っていた。
俺はゆっくりとその席に近づいた。
「よお、シゲキ一人で何してるんだ」
「おわっ! なんだお前かよ。ちょっと今待ち合わせ中だから違う席行けよ」
「誰と?」
「誰だっていいだろ。最近知り合った子だよ」
「実は俺もついさっき知り合ったやつとここで待ち合わせしてるんだよ」
「お前もかよ。まったく」
「ああ。お前が紹介してくれたあのAccidental e-Mail』でな……」
俺はどこか含みを持たせた言い方でそう言った。
「……まさか」
どうやらシゲキは勘づいたようだ。
「確か相手の名前はsigeki223―――」
「お前かーーー!」
店内に響き渡るような大声でシゲキは叫んだ。
「迷惑だぞ」
「お前、俺がこの数十分どんな思いで待っていたと思ってるんだ! やっと、やっと、出会いがあったとおもったのに……」
「無理だって。あの文章じゃ下心まるわかりだって。それにしたってsigeki223って。223回もこんなメールだしたのかよ……」
「違っ……その223はあれだよ。俺の愛車のHONDA CB223から取ったんだよ」
「お前が乗ってんは50ccのスクーターだろ……」
反論を諦めたシゲキは深く項垂れた。
口止め料としてフルーツパフェとクリームソーダを奢ってもらった俺は満足にお腹を膨らませながら店を出た。
そしてそのまま大学に向かって午後の講義に出ようかと思った矢先に今日二度目の『Accidental e-Mail』が俺の元に届いた。
『どうも、こんにちは。
私は今とある学校の屋上にいます。
青い空がとてもきれいです。
何故平日の昼間に屋上なんかに上っているかと言うと、もうすぐ飛び降りて自殺しようとしているからです。
このメールは言わば遺書みたいなものです。
誰に届くか分からない。読んでもらえるかも分からない。そんな遺書を私は今、携帯のボタンをポチポチと操作して書いています。
死にたい理由はよくある話。毎日が嫌になったんです。
私の通う高校は毎年東大合格者も数人輩出している結構な進学校なんです。
この三年間、私の高校生活は勉強ばかりでした。
いえ、私の人生は勉強ばかりでした。
父親は医者で、母親は弁護士。大学は早稲田と慶応。いつも勉強は一番だったとよく私に自慢してきて、私にもそれを求めました。
物心ついたときから勉強させられて、よくわからないまま私立の小学校を受験させられました。そこはなんとか合格できました。
だけど次の中学受験は失敗してものすごく叱られました。
そこから両親の仲も悪くなっていきました。もともと良かったわけではないですけど。
高校受験に失敗したらどうなってしまうのか、という恐怖心に駆られて中学三年間は必死で勉強しました。部活も何もせず勉強していた記憶しかありません。そのせいか高校受験はなんとか成功しました。
両親は仕事が忙しいので家ではいつも一人きりでした。
暗い性格なので友だちもいませんでした。
もっとも友だちがいなかったのは私だけではないのかもしれません。
クラスの中はいつもしんと静まり返っていて昼休みも、放課後も皆一心に机に向かってカリカリとテキストを解いていました。
かくいう私もその中の一人です。
ただ決められたノルマをこなす日々でした。
楽しいことなんて何一つありませんでした。
いつまで続くの?
気が狂いそうな毎日をなんとか今日まで耐えしのいできました。
だけどもう無理です。
昨日模試の結果が返ってきました。
志望大学への判定が今まではB判定だったのがC判定に落ちていました。
その結果をみた母は私の頬をはたいてただ一言「勉強しなさい」と言うだけでした。
とても冷たい目で、突き放したような声でした。
泣こうと思っても涙が出ません。悲しいって普通の感情すら擦りきって欠落してしまったようです。
もう疲れました。
明日が見えません。
思い返すような思い出もありません。
長い愚痴です』(nanami)
文章はそこで切れていた。おそらく『すいません』と続いていたのだろう。
どうやら既定の1000文字を超えたようだ。
俺は大きく溜め息をついた。
これほど長いメールが届いたのは人生で初めてではないだろうか。
いや一つだけ心当たりがあった。
あの日のことを思い出しつつ僕は返信を書いた。
『どうも、こんにちは。まだ君が飛び去ってないことを祈って返信を書きます。
偶然にも数年前にもこのような長い手紙が自分の元に届きました。それは紙飛行機でゆらゆらと僕の元に落ちてきました。
その手紙は遺書というものではなかったけれど、今思うと彼女にとっては遺書だったのかもしれません。
その手紙もあなたと同じ様に変わらない毎日を嘆いているような内容でした。
ある日僕はその手紙の主に偶然にも会うことができました。
たった一日だけだったけど彼女と話す事ができました。
だけど次の日、彼女は飛び去ってしましました。元々あまり長くはなかったみたいだけど。
時々、僕は彼女のことを思い出します。
それが彼女にとって唯一の願いだったから。
だからもし、君が飛び立つにしても、引き返すにしても、彼女と一緒に君のことを思い出すよ。
できるなら引き返す事をお勧めするよ。
それでは、どうか次こそは届くように………』
長い文章を打って右手がかなり疲弊していた。
大学に行く気力は消え失せ、Uターンして帰路につくことにした。
ふと空を見上げた。
眩しい。
目を細めてただ祈った。
誰も紙飛行機を飛ばさないようにと。
読んでいただきありがとうございます^^
最初はそんなつもりはなかったんですが書き進めるうちに以前書いた紙飛行機少女の続きにできるのでは? とふと思いその路線に変更しました。
だからそれを読んでない方には少し意味が分からない所があったかもしれません><
よかったら紙飛行機少女も読んでください^^