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猫語の再会と、揺らぐ公爵家の正義

「ぐるるうるるにゃ、むなにゃあなな!」

 ピンキーが、人間には到底発音できない複雑な響きの「猫語」で叫んだ。

 メイドたちの抱っこをすり抜けた双子が、声のする方へと弾丸のように走る。舞踏会場に駆け込んできたピンキーは、飛びついてきた二人の小さな体をしっかりと抱きとめた。

「ぐるぐるにゃおにゃおなーなー」

 三人は激しく猫語で言葉を交わす。ピンキーが最初に叫んだのは、おそらく人間には聞き取れない双子の本当の名前だったのだろう。


そこへ、騒ぎを聞きつけたディーアナ・ドルドア公爵と、情報局局長のイツモア・カゲヤネンデスが姿を現した。

「皆、何を騒いでいるのですか。明日の朝はルビーのための大切な舞踏会があるのですよ」

 ディーアナ様は厳格な声を上げた……が、足元の子猫たちを見た瞬間、その表情が劇的に崩れた。

「キャー、可愛い! 何、どうしたらこんなに可愛くなるのですか!? ああごめんなさい、おばさん二人があんまり可愛かったもので、つい、はしたなく叫んでしまって……。それにしてもこの子たち、可愛くなる病気にでもかかっているのかしら」


「ははは、ご冗談を閣下」

 イツモア局長が苦笑しながら膝をついた。

「ああ、可愛い子猫ちゃん。この方はディーアナ・ドルドア様。この家で一番偉い人ですよ。そして私はイツモア・カゲヤネンデス。……おや、お腹が空いているのですね? 厨房へ連れて行ってあげましょう。美味しいものがたくさんありますよ」

「ピンキー、僕リス捕ったんだ。焼いて食べようよ」

「私、塩焼きがいいわ!」

 双子の提案に、ディーアナ様がにこやかに命じた。

「ではピンキー、料理してあげなさい」

「はい、公爵様!」

「ええ。……それにしてもピンキー、今日も可愛いわね」

「相変わらずピンキーにはお優しいですな。部下には鬼のようですのに」


イツモアの軽口に対し、ディーアナ様の手が閃いた。持っていた扇子をフェンシングのサーベルのように使い、とんでもないスピードで連続突きを繰り出す。だが、イツモアはその全てを紙一重でかわしてみせた。

「……全部かわすとは。少しは忖度して、一発くらいは食らいなさいな」

 女当主が不機嫌そうに扇子を畳む。その隙に、ピンキーと双子はリスを抱えて足早に厨房へと消えていった。


「――はい、仕事再開ですよ! 各国の要人がいらっしゃいます。僅かなミスも許されません。公爵家の名に傷がつかぬよう、秒の狂いもない完璧な運用をするのです!」

「「「はい、公爵閣下!」」」

 先ほどまでの弛緩した空気は消え失せ、全員の声が鋭く揃った。

 公爵という地位は、同時にドルドア国の王でもある。この世界における舞踏会は外交の場であり、スパイ戦の最前線であり、政略結婚の条件提示の場でもあった。ルビーは外交官であり、同時にチェスの駒のような存在――それを疑問視する者は、この場には一人もいない。


この『パンゲア』と呼ばれる大陸は、連合国を形成し、平等な選挙で総理大臣を決める議会制民主主義を採用している。全人類、そして猫族を含めたすべての者がどこかの国の一員であり、有権者であった。

 ただし、投票権を得るには高い壁がある。政治、経済、歴史、倫理観の厳しいテストを受け、「偏った思想を持たないこと」を証明しなければならないのだ。

 一方、被選挙権を持つのは爵位を有する者に限られる。その試験は司法試験並みに難解で、思想の適性検査には誤魔化しの効かない専門の魔法道具が用いられる。理論上、誰でも爵位を勝ち取ることは可能だが、無能な者には決して手が届かぬ仕組みだった。


しかし、一度地位を得ればそれを手放したくないと思うのが人の性。我が子にも継がせたいという欲が、不正を生んだ。

 最近、明らかに無能な貴族の子息たちが、若くして試験に合格し始めていたのだ。その不正の手口と、裏で糸を引く黒幕を突き止めること――。それこそが、情報局局長イツモアの真の仕事であった。

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