一秒間のプロポーズと、猫族の底力
双子の女の子は唐草模様の風呂敷を背負っている。中にはお気に入りのおもちゃが入っていた。母親の手作りと思われる赤いスカートに、ベスト、猫マークのシャツ。一方の男の子はサファリ風の衣装を纏い、白いバッグを肩に斜めがけにしている。中には女神様から授かった魔法のグッズが詰め込まれていた。
二人が気がつくと、そこはルビーの屋敷の広大な庭だった。
「……お腹が空いたわ」
「うん、お腹空いたね」
猫耳をぴくぴくと動かし、鼻をひくつかせて獲物を探す。「あ、お兄ちゃんいた。あそこ!」。女の子が指差す先には、数匹のリスがいた。
「捕まえてくる」
「頑張って、お兄ちゃん!」
男の子は音もなく木に登った。にこりと笑ったかと思うと、一瞬のうちに五匹のリスを仕留めてみせる。そのまま頭を下にしてスルスルと降りてくると、平然と言った。
「もう締めてあるぞ」
可愛い盛りの子供にしては残酷、と思うなかれ。おやつを自力で捕るのは、猫族にとっては当たり前の日常なのだ。
二人は料理してくれる人を探そうと、窓の隙間から屋敷へと忍び込んだ。鼻を利かせながら、舞踏会場へと通じる広い廊下を駆ける。
「こっちだ。ピンキーの匂いがする!」
「ピンキー姉さんに焼きリスにしてもらおうよ、お兄ちゃん!」
ニャーニャーと愛らしい声を上げ、跳ねるように走る。「「夜の狩りは楽勝! らくしょー!」」。二人は歌いながら、ドリフトをきめるような勢いで舞踏会場へと滑り込んだ。
「ピンキー!」
「ピンキー姉さーん!」
二人が叫んだ瞬間、会場内にいた使用人たちの動きがピタリと止まった。次の瞬間、「可愛いーーーっ!」という絶叫に近い大合唱が巻き起こる。メイドたちが双子の周りに殺到した。抱っこするわ、「猫吸い」を始めるわの大騒ぎである。
「ごめんなさい! リス捕っちゃってごめんなさい!」
恐怖を感じた男の子は、反射的に謝った。とりあえず謝っておけば許してもらえると思ったのだ。
「食べちゃいたいくらい可愛いわ!」
身悶えするメイドに怯えた女の子は、ポケットから猫の形をした栗を差し出した。「たべないで……。猫栗あげるから……」。
「まあ! 猫族ったら、栗まで可愛いのね!」
見かねた中年の男性使用人が割って入った。「こら、子供が怯えているではないか。やめなさい。……大丈夫だよ、このおばさんたちは食べたりしないから。君たちがあまりに可愛いから、頭がおかしくなっただけなんだ」。
「誰がおばさんよ!」
メイドの一人が放ったボディブローが男性使用人の脇腹にめり込み、彼はその場に膝をついた。引きまくる双子。
「ああ、ごめんね。びっくりさせちゃったわね。ピンキーを探しているのよね? 彼女なら、ちょうど休憩に入っているみたいよ」
と、友人のルーが言った。
その頃、別室では――。
「……というわけで、ピンキーの村は全滅。お姉さん夫婦も、残念ながらね」
女神様が淡々と告げると、ピンキーは子供のようにギャン泣きし始めた。
「だから、この私の『女神オーラ』で理解したであろう? このルビー様は、体こそ本物だが中身はおじさんなのだと。そして、そのおじさんが星規模で『爆散』すれば、その余波で世界線が書き換わり、双子が父母と楽しく暮らせる未来へと変わるのじゃ。お前がやらねば、おじさんは爆散せぬのだぞ」
泣きじゃくるピンキーを前に、おじさんは複雑な心境だった。
「……そうだな。爆散した後なら、結婚してやってもいいぞ。一秒ぐらいならな」
その言葉を聞いた瞬間、ピンキーはピタリと泣き止んだ。
「……っ! 本当ですか!? うん、だったら私、頑張ります! 全部ハッピーにしてみせます!」
パッと花が咲いたような笑顔。ピンキーの見た目は、猫耳もない普通の女の子だ。だが、女神様の加護により「すべての人に無条件で好かれる」という恐ろしい特性を持っている。実のところ、おじさんも一目見た時から彼女のことが大好きだった。
「じゃあ、もう舞踏会場に帰ります! 三十分経っちゃいましたし!」
言うが早いか、ピンキーは来た時と同じ猛烈な勢いで、廊下へと駆け出していった。




