女神の庭と、星を救うための約束
女神様の庭園は、常に春の陽気に包まれている。
そこは、すでに絶滅してしまった多種多様な生き物たちが、「可愛い」という基準だけで集められた楽園だ。普段なら至る所に愛らしい動物たちが溢れているのだが、今は数匹が邪魔にならぬ程度に遊んでいるだけだった。女神様が、猫族の可愛い双子がやってくるのを待っているからである。
不意に、庭の片隅で宝箱が声を上げた。
「到着だ! さあおチビちゃんたち、女神様のお庭に着いたぞ」
宝箱は、普段以上に弾んだ声を出していた。彼なりに、不安なはずの双子の子猫たちを元気づけようとしているのだ。意外といい奴である。
男の子と女の子の双子は、きょろきょろと辺りを見回してから、おずおずと宝箱の外へ這い出してきた。
「宝箱さん、ありがとう」
「おう! 女神様のお庭でいい子にしているんだぞ。ははは……(少し涙声)。ここではな、年はとらねえし、腹も減らねえ。おもちゃだって遊び放題だ! ……さて、俺様はそろそろ帰るぜ。それでは女神様、子猫ちゃんたち、またな」
「ばいばい、宝箱さん!」
二人の元気な声に見送られ、宝箱は沈黙した。「帰る」と言っても、村の家にある本体へと意識を戻すだけなのだ。その先にある光景を知っているのは、宝箱だけだった。
「ようこそ、女神の庭へ。可愛い子猫ちゃんたち」
女神様は二人を抱きしめ、頬をすりすりと寄せた。「可愛い……。いっそ女神様の子供にしちゃおうかな!」
親戚のお姉さんのようなノリで言う女神様に、双子は少し寂しげな表情を浮かべた。
「……僕、帰りたいな」
「私も、おうちに帰りたいわ」
女神様は心が読めるが、あえて今は読まなかった。子猫は、親の言葉を百パーセント信じる。『大丈夫だからね、しばらく女神様のところで――』。母親がそう言ったから、子猫たちは泣いたりもしないのだ。
普通の猫ならば離れるのを怖がって鳴くものだが、この双子の母は「しばらく女神様のところで」と言った。だから女神様に誘われれば、「うん、しばらく遊んであげるよ」と二人揃って答えるのだ。
それから数日。アメフトごっこ、魔法少女ごっこ、ビーチバレー。子猫たちは全力で楽しんだ。だが、ふとした瞬間に二人の目を見れば、そこには元いた世界への思いが溢れている。女神様は、ついに決断した。
「この子たちの世界線を、親や村人が何事もなかったかのように過ごせる世界線へと作り替える。……当初は、この国の災いの塊を爆散させるだけで良いかと思っていたが、方針変更じゃ。この星にある全ての災いを一箇所に固め、おじさんと共に一気に爆散させてくれようぞ」
女神様は双子に向き直って優しく告げた。
「さて、いっぱい遊んでくれたお礼に、二人を元の場所へ返してあげましょう。でも、よく聞いてね。お父さんやお母さんと再び楽しく過ごせるようになるには、この星のすべての『悪者』をどっかーん! しなきゃダメなの。そして、それができるのは……ピンキーと、ルビーちゃんの体に住んでいる『おじさん』だけなのよ」
子猫たちの頭には大量の「はてなマーク」が浮かんだが、女神が「理解し、納得させるオーラ」を放てば、あら不思議。子猫たちは全てを把握した。
女神様は子猫たちに作戦を授けると、いたずらっぽく微笑んだ。
「それじゃあ、ピンキーのところに送ってあげるね!」




