猫族の婚約の儀と、喋る宝箱の守護者
おじさんと女神様の目には、ピンキーの周りを小指ほどの小さな本物の妖精たちが舞っているのが見えていた。
男の子が三人、女の子が三人。羽を羽ばたかせ、元気に飛び回って遊んでいる。そのうちの一人が、ピンキーの耳元で何かをささやいているようだった。
不意に、ピンキーがおじさんへ問いかけた。
「ルビーお嬢様。……この子たち、見えますか?」
「ええ、見えますよ。あ、今ウインクしましたね」
その瞬間、妖精たちが狂喜乱舞し始めた。口々に「ピンキーおめでとう!」「おめでとう!」とはしゃぎ回る。
女神様は首を傾げた。
「何がめでたいのじゃ?」
「うん、私もそう思いますわ(お嬢様っぽく)。妖精さんは何がおめでたいのでしょう?」
すると、ピンキーが興奮を隠しきれない様子で身を乗り出した。
「今、猫族のしきたりに従い、婚約の儀が整いましてございます! お嬢様、私たち猫族には守護妖精がついております。これは女神様の加護の証であり、本来は私たち猫族にしか見えません。猫族以外で見えるのは、その者の『伴侶』となる人のみ……。私の『見えますか』という問いに対し、『ええ、見えますよ』と完璧なプロポーズOKのお返事をいただけるとは!」
(……えっ?)
固まるおじさんを置き去りにして、ピンキーは熱弁を振るう。
「女同士で子供ができないのが残念ですけど、まあ、姉に可愛い双子がおりますので、その子たちを我が子のように可愛がればいいかと!」
ピンキーは顔を洗う猫のような仕草で照れた後、おじさんの手をぎゅっと取って見つめてきた。
女神様は腕組みをして、
「うーむ、ちっちゃくなっている場合ではないな。サイズアーップ! ぴろりろりん。……効果音は口で言ってみましたよっと」
言うが早いか、女神様は光の粒となり、身長百八十センチほどの美女に変身してピンキーの横に立った。
「わっ、でかっ!」
おじさんとピンキーの声が重なる。
「『でかい』ではない! 『ビューティフル』とか言わぬか。女神の美しさを讃えよ」
女神様が少し膨れっ面で言うと、ピンキーがおじさんに微笑みかけた。
「お嬢様、私たち息ぴったりですね。……ね、ダーリン?」
ピンキーの周りで、妖精たちが「ビューティフル!」を呪文のように連呼していた。
女神様は真面目な顔で言った。
「ピンキー、心して聞け。お前がルビーお嬢様だと思っている人間の真実を知らせよう。そして、ルビーがこの世界で果たさねばならぬ『破滅と爆散』についてだ。……その後に、お前にとって何より辛い話をせねばならん」
女神様は深く息をついてから、静かに語り始めた。
おじさんはといえば、(まあ、初対面だが可愛い子だし、結婚してもいいかな……。いやいや、私には妻がいるではないか!)などと、頭の中で必死に理性を繋ぎ止めていた。
――猫族の村の中央広場。そのすぐ横には、一反ほどの広さの不思議な農園がある。
魔法がかけられたその土地は、作物を収穫した瞬間に次の実が成る。その豊かな農家の家は公園の近くにあり、そこにピンキーの姉夫婦が住んでいた。
夫婦は果樹の手入れをしながら、ふと遠くの空を仰ぎ見た。
「あなた、空の様子がおかしいわ。魔物が空いっぱいに……」
「俺は村のみんなに知らせてくる!」
この家の一族には、普通の人には見ることができない「災いの塊」を視る力が授けられている。ピンキーの姉は家へと走った。中には、双子の子供たちがいるのだ。
(安全なところに、あの子たちを逃がさないと!)
家に入るなり、積み木で遊んでいた子供たちを両脇に抱え、暖炉脇の宝箱へと駆け寄った。
「宝箱さん、開いて!」
「おう、どうした?」
宝箱がしゃべった。
「ごめんなさい、魔物が迫っているの。この子たちをお願い!」
母は宝箱に優しく双子を入れると、「大丈夫だからね。女神様のところに少しの間だけ行っていてね」と、小首をかしげる我が子たちにキスをして蓋を閉じた。
「おう、俺に任せておけ!」
直後、空が暗転した。
見えぬはずの村人たちの目にも、その禍々しくも悍ましい姿が映るほど、災いの塊は巨大化していた。魔物が咆哮を上げ、村の家々に火を放つ。
双子の父母は、即座に変身魔術を使い、巨大な虎となってその魔群へと立ち向かっていった。




