メタゲームの攻略法と、マジカル殺傷光線
おじさんと妻が古いアパートで興じていた乙女ゲームは、およそ常識外れな代物だった。
作画こそ美麗だが、王道である「学園生活」が一切ない。ヒロインはメイドで、悪役令嬢にプロポーズしている。挙句の果てに、悪役令嬢の中身は日本の議員秘書で、本来の魂は別の異世界へ転生済みという、作り手の正気を疑う設定のオンパレードだった。だいたいゲームタイトルが書いていない。
「ねえあなた、このスパイコンビ、あっさり捕まるのに簡単に脱獄しちゃうのよ。それでプレイヤー側の諜報員が、なぜかボクシングのピーカブースタイルで壁にパンチして悔しがるの。面白いわね」
「俺はこの会談シーンが好きだな。攻略対象との恋愛モードじゃなく、賄賂を持ってきた悪徳政治家を次々と摘発していくんだ。斬新すぎるだろ」
「あ、ここでBボタンを押すと『脇道エピソード』に入るわ。子猫たちが魔法の鞄から出した道具で、閉鎖空間を作って遊び倒すの。その間、外の時間は止まっている設定なんですって」
二人はモニターを見つめ、「可愛い、可愛い」と連呼していた。
――今、その「脇道エピソード」が、ドルドア公爵邸の庭で現実となっていた。
双子の子猫と三人のメイドが、おままごとセットで遊んでいる。
「もう昼休みが終わっちゃう。また今度遊ぼうね」
ピンキーの友達であるメイドのルーが名残惜しそうに言うと、男の子の子猫が、肩にかけた女神様の鞄を叩いた。
「ルー、お姉ちゃんたち、まだ大丈夫だよ! 僕、いいもの持ってるんだから。ジャーン! 女神様の魔法道具!」
鞄を開けた瞬間、空気の流れが止まった。
「「へいさくうかーん!」」
双子の子猫が揃って叫ぶ。この空間では魔法が使い放題で、外の時間は一秒も進まない。
男の子の子猫は鞄から「魔法少女変身グッズ」を取り出すと、三人のメイドの中でも一番年長の、お姉さんというには少し年がいっているメイドに手渡した。子猫なりに気を遣って「お姉ちゃん」と呼んでいる相手だ。
「お姉ちゃん、マジカルるるるーるるるるる、って言って、くるっと回って『えいっ』てやるのよ!」
「ええ……恥ずかしいんですけど(と言いつつ嬉しそう)。……マジカルるるるーるるるるる、えいっ!」
ステッキから正面に向けて放たれたのは、冗談抜きの殺傷光線だった。
「「うわー! やめてくれー! 痛い痛い!!」」
虚空から、脱走中だったはずのグレートグレープのスパイ、タキオンとツキノワが黒焦げになって転がり出た。
「すごい威力! これ『共感性周知』っていうボーナスポイントがつくんだよ。普通はリスが固まる程度なんだよ、お姉ちゃん凄い!」
男の子の子猫がおだてると、メイドのルーが心配そうに聞いた。
「ピンキー、この人たち死んでない?」
すると、女の子の子猫のほうが小首を傾げて、こう言った。
「大丈夫よ。閉鎖空間で殺せるのは女神様だけって、女神様が言ってたから。大丈夫だと思うわ」
ピンキー(獣人のメイド)が足で突くと、二人はガバッと起き上がった。
「ひどいぞ君たち! 黒焦げじゃないか!」
「ごめんね、猫栗あげるから怒らないで」
女の子の子猫が、何かあると配るようにしている「猫の形をした栗」を差し出した。
「でもね、悪い子にしか光線は当たらないのよ。お兄さんたち、悪者なんでしょう?」
「そんなことないよ! ちょっと透明マントを盗っちゃっただけだよ!」
「……十分悪いわ」
ピンキーは冷たく言い放つと、ステッキを受け取り「マジカルるるるーるるるる」と再び呪文を唱えた。今度は勢いよく水が噴き出し、スパイ二人の汚れを綺麗さっぱり洗い流した。




