王国の赤いバラと、五分の会談
この国の舞踏会は、他国とは一線を画している。端的に言えば、踊るのは「プロ」だ。構成、シンクロ率、配置、衣装デザインに至るまで、各国の首脳が嗜むレベルとは次元が違う。観客は二階席から、変形ドーム型劇場のステージを見下ろす。
中盤、オペラ界の一流歌手が登場し、ソロでストーリーを歌い上げる。その中心で舞うソロダンサーもまた、一流。興味深いことに、歌手とダンサーの双方が「ルビー」と呼ばれている。
ディーアナ・ドルドアが娘にその名をつけたのは、かつて自身がダンサーのルビーに憧れたからだ。対して娘のルビーは歌手のルビーに憧れ、こっそり弟子入りまでしていた。ディーアナもそれを知りつつ、娘の趣味として黙認していた――中身が「おじさん」に入れ替わる、その時までは。
現在の「ルビー・ドルドア」には、もう一つの名がある。舞踏会の数日前、不審死を遂げた外務大臣の後任として任命された際の名――ルビー・ムーン。それが本来の姓名だが、国民は親しみを込めて「ルビー・ドルドア」と呼ぶ。彼女は「王国の赤いバラ」と称されるほどの美人で、アイドル的な人気を誇っていた。
中身が現在「おじさん」であることは、国民にとっては最大の悲劇と言えるだろう。国民は彼女が政略結婚させられるのではと案じているが、心配は無用だ。本物のルビーは異世界に転生済みであり、中身のおじさんに他国の王族と結婚する気など毛頭ない。何より、この物語の結末は「破滅爆散」することに決まっているのだから。
舞踏会が終焉を迎え、個別会談が始まった。三十分間隔で各国の要人と対峙する。
ディーアナとルビーが控える部屋に、パントル国の外務大臣ロロア閣下が通された。
「ようこそ。舞踏会は堪能いただけましたか?」
「ええもちろんですとも。噂に違わぬ最高峰の芸術でした」
ロロア閣下が着席し、ルビーに視線を向ける。
「ルビー閣下、お会いできて光栄です。実にお美しい……まさに王国の赤いバラの名にふさわしい」
「あら。私も王国のチューリップくらいの花はありましてよ。先に私を褒めてほしかったですわ」
ディーアナが茶目っ気たっぷりに、しかし鋭く返した。
「ああ、もちろん国王陛下も、ともにお美しい……」
「冗談ですわ」
ロロアの言葉に被せるようにディーアナが笑う。おじさんはそのやり取りを見て確信した。この国の外交はストレートだ。ディーアナの物言いは「挨拶はいいから本題に入れ」という合図。
ロロアが持ち込む話のリサーチは、イツモアの情報網によって完了していた。
「……ところで、こちらが息子のララアでございます」
扉が開き、なかなかの男前が歩み寄ってきた。
「ルビー閣下、お隣に座ってもよろしいですか?」
甘いウインクを飛ばすララア。おじさんは心中で吐き捨てた。
(男にウインクされても気持ち悪いだけなんだよなぁ……)
「ええ、よろしくてよ。私も、今ちょうど席を立つところですから」
にこやかに、かつ冷徹に。
会談はわずか五分で終了した。




