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御伽噺  作者: tr
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語り手「ティア」 前編

 昔々、とは言えないがあるスラムに一人の少女がいた。そいつは貧しいながらも両親に愛され、幸せに暮らしていた。そんなある日のことだ、少女の家に一人の男がやってきた。そいつが言うには、鉱山で事故が起きたそうだ。その話を聞いた母親は泣き崩れた。それからは元より裕福ではない暮らし、それが更に厳しくなった…と言えば状況はわかるだろうな。まぁそこからは色々あって、母親も流行病でぽっくり逝っちまった。最期に生きてほしいと願って。少女はそんな母の願いを聞き入れながら、ただ泣き叫んだ。その日以降、少女は…。あー、何度も少女って言うとわかりにくいな、ここはアノーニモとしとくか。えーと…で、どこからだ?あぁそうだそうだ、ここからだったな…さて、と。アノーニモは物乞いを始めたがこのスラムには物乞いなんかいくらでもいる。そう簡単に路銀が集まるわけもない。たまにアノーニモを憐んだか、恵んでくれるものもいたが…勿論それで足りる訳がなく、盗みも働くようになった。結局弱肉強食のスラムで生き残るには強くなるか、奪い取るしかなかった。とは言えまだ年端も行かないガキだ、仮に無理に奪い取ろうとしても殺されるのが関の山だ。実際、盗みをしくじった時は何度も殺されかけたんだからな。勿論、盗みが悪いことだとは少女も理解していた。だが、母の最期の願いが少女を突き動かしていた。

 そんな生活をしていた水光指すある日のこと、いつものように物乞いをしながら盗みのターゲットを探していると、背後から男の声が聞こえた。花屋かと思いアノーニモが振り向くと、そこには随分身なりと恰幅の良い男がいた。そいつはある男の姿が映った写真を差し出すと、

「この男を知らないか?少しでも情報が欲しい」

写真の男の姿をよく見ると、かつて父の死を知らせてくれた男だった。母が死んで以降、時折私の様子を見に来て飯や路銀を恵んでくれていた。目の前にいる男はあの人の知り合いなのだろうか?そう思うと、少女自分の家の近くに住んでいると言うことを教えた。それを聞いた恰幅のいい男は

「感謝する、これは礼だ。取っておいてくれ。」

そう言って大金をアノーニモに手渡した。あまりの出来事にもらって良いのかと思わず聞いてしまうが、男は報酬は相応のものを出さねばならないと言って無理やりにアノーニモの体に大金を押し付けた。アノーニモは初めて手に入れた大金に困惑しながら、その日を終えた。翌日、昨日話しかけてきた人物は誰だったのか気になったアノーニモは、父の死を知らせてくれた男の家の戸を叩くが反応がない。不思議に思いもう一度叩くがやはり反応は返ってこない。普段この時間はいるはずなのだが、何かあったのだろうか?そう思ったアノーニモは思い切って戸を開ける。するとそこはもぬけの殻だった。まるで最初から存在していなかったかのように全て無くなっていた。その後、家の中を調べるが結局何も分からずじまいで、アノーニモは家を出た。ちなみに、それっきりその男は行方知らずらしい。

 そんな事も忘れて日々を生きていると、いつも騒がしいスラムが静かだった。不思議に思ったアノーニモは辺りを見回す。広場に集まっているようだ。珍しいこともあるものだと思い、アノーニモは遠巻きで様子を見る。よく見ると中央のお立ち台にはここに似つかわしくない、子綺麗な衣類に身を包んだ男がいた。男はざわめく群衆の中、咳払いをすると淡々と語り始めた。

「貴様らに告ぐ。女王の命により、兵士として従軍せよ。」

その言葉を聞いた群衆のざわめきが大きくなる。それを見てなお男は淡々と続ける。

「これは厳命である、従わぬ場合ここで死んでもらう。貴様らのゴミのような命を国のために使える機会だ、よく考えると良い。」

スラムの人間は良くも悪くも己の力だけで生きてきた人間だ。更に力で好きなように生きてきた奴らには、この演説を挑発と捉えたのだろう。群衆の1人が殴りかかろうと近づいたその瞬間、演説していた男の背後から現れた鎧の男が斬り殺した。一切の容赦のない斬撃。男の身体が二つに分かれ宙を舞う。しかし、その凄惨な光景を皮切りに、一部の人間もお立ち台の男と鎧の男に襲いかかるが、どこからともなく飛んできた矢で手や足を撃ち抜かれた。アノーニモは辺りを見渡すと、既に広場は鎧を身を包んだ集団に囲まれていたのだ。それでもなお、従軍するのは御免だと襲いかかり暴徒化するが、力の差は歴然。鎧の集団の注意は暴徒へと向いているが、鎧の集団の包囲は依然終わらない。アノーニモはこの隙になんとか逃げ出そうとするが、それに気づいた鎧の1人に捕まってしまう。アノーニモは抵抗するが、ただでさえ体躯が劣っているのと、身に纏った鎧がアノーニモの抵抗を通さない。鎧の1人は抵抗を意にも介さずアノーニモの後頭部を殴りつける。頭部に走る激痛の中、アノーニモの意識は闇に落ちそうになる。しかし母の願いを叶えると言う意思がアノーニモの意識を繋ぎ留める。鎧は少女がこの打撃で意識を刈り取れると思っていたのだろう。予想外の出来事に一瞬動きが遅れる。その隙を突きアノーニモは力を振り絞り鎧の1人から上手く距離を取る。そのまま逃げ出そうとするが、背後からの無慈悲な矢が片足を貫いた。重心を保てなくなり、勢いのまま身体は倒れる。するとボウガンを携えた先程の鎧が迫る。アノーニモは這ってでも逃げ出そうとする。しかし虚しくも鎧はアノーニモに追いつく、再び後頭部を殴りつける。その一撃は、アノーニモの意識を刈り取るには充分だった。意識が闇へ落ちる直前、アノーニモは母へ謝罪の念を述べていた。

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