第9話「初仕事は地味なやつ」
「初心者向けの依頼、どれがいいかな……」
ギルドの依頼掲示板の前で、梓は真剣に目を走らせていた。
悠斗はその隣にぴったりとついている。相変わらず、ギルド内の誰一人として彼の存在に気づいていない。
「これとか、どう?」
梓が指差したのは、《シュリ草の採集》という地味な依頼だった。
「戦闘もなさそうだし、最初にはちょうどよさそうじゃない?」
「……めっちゃ地味だな」
「でも報酬もそこそこあるし、地味でも安全な方がいいよ。ね?」
悠斗は肩をすくめてうなずいた。確かに、初めての依頼なら無理は禁物だ。
梓が受付に依頼書を持っていくと、カウンターの女性職員がにこやかに対応した。
「《シュリ草の採集》ですね。ちょうどいいタイミングですよ。最近、薬師からの需要が増えてまして」
「場所は、町の南の森で合ってますか?」
「はい。道なりに進んで、森の入口から右手の斜面あたりに群生しています。葉は薄い紫色、根元に小さな白い花がついてます。根ごと採ってきてくださいね」
「ありがとうございます!」
梓はしっかりメモを取りながらうなずいた。悠斗も、梓の肩越しに説明を聞きながら、少しずつ自分が“冒険者として何かをする”という実感が湧いてきた。
「よし、行こっか。午後になると葉っぱが閉じちゃうらしいから、早めに採った方がいいって」
ギルドを出て歩き出すふたり。その様子を、ギルドの外の石垣に座った黒猫――クロノが、変わらぬ静かな視線で見送っていた。
*
町の道を南へ抜ける途中、悠斗はふと梓の足取りがやけに軽いことに気づいた。
「なんか……妙に慣れてるな」
「え、そう見える? 初めてなんだけどね、依頼受けるの」
「マジで? そんな感じしなかった」
「うーん……たぶん、ラノベの影響かも。採取依頼の流れって、だいたいテンプレだからさ」
「ラノベ……ね」
「うん、前の世界じゃけっこう読んでたし、“こう動けばそれっぽい”って思うと、不思議と動けちゃうんだよね」
「それで堂々としてたのか」
「うん。でも、あくまで“知識だけ”だから、実際の動きは今日が初! 過度な期待はしないでください!」
悠斗は苦笑した。その自信と照れ隠しの混ざった態度が、梓らしくて面白かった。
森の入口にたどり着いたふたりは、柔らかな日差しの中、深呼吸をして一歩を踏み出す。
「じゃ、採取スタート!……って言っても、まずは場所探しからだけどね」
「右手の斜面、って言ってたな」
「そうそう、薄紫の葉っぱと白い花が目印」
ふたりは、足元の草をかき分けながら、慎重に森へ入っていく。
梓は時おり立ち止まり、しゃがみこんで葉を確認していた。
悠斗も見様見真似で探してみる。
すると、ふと視界の端に、それらしき植物が目に入った。
「……これ、じゃない?」
「おっ、ナイス! 初ゲットいけるかも!」
梓の声に少し高揚が混じる。
地味な依頼。だけど確かに、自分たちは今“冒険者”として動いている。
その事実が、悠斗の胸の奥に、静かな火をともしていた。




