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第9話「初仕事は地味なやつ」

「初心者向けの依頼、どれがいいかな……」


ギルドの依頼掲示板の前で、梓は真剣に目を走らせていた。

悠斗はその隣にぴったりとついている。相変わらず、ギルド内の誰一人として彼の存在に気づいていない。


「これとか、どう?」

梓が指差したのは、《シュリ草の採集》という地味な依頼だった。

「戦闘もなさそうだし、最初にはちょうどよさそうじゃない?」


「……めっちゃ地味だな」

「でも報酬もそこそこあるし、地味でも安全な方がいいよ。ね?」


悠斗は肩をすくめてうなずいた。確かに、初めての依頼なら無理は禁物だ。


梓が受付に依頼書を持っていくと、カウンターの女性職員がにこやかに対応した。

「《シュリ草の採集》ですね。ちょうどいいタイミングですよ。最近、薬師からの需要が増えてまして」

「場所は、町の南の森で合ってますか?」

「はい。道なりに進んで、森の入口から右手の斜面あたりに群生しています。葉は薄い紫色、根元に小さな白い花がついてます。根ごと採ってきてくださいね」

「ありがとうございます!」


梓はしっかりメモを取りながらうなずいた。悠斗も、梓の肩越しに説明を聞きながら、少しずつ自分が“冒険者として何かをする”という実感が湧いてきた。


「よし、行こっか。午後になると葉っぱが閉じちゃうらしいから、早めに採った方がいいって」


ギルドを出て歩き出すふたり。その様子を、ギルドの外の石垣に座った黒猫――クロノが、変わらぬ静かな視線で見送っていた。



町の道を南へ抜ける途中、悠斗はふと梓の足取りがやけに軽いことに気づいた。


「なんか……妙に慣れてるな」

「え、そう見える? 初めてなんだけどね、依頼受けるの」

「マジで? そんな感じしなかった」

「うーん……たぶん、ラノベの影響かも。採取依頼の流れって、だいたいテンプレだからさ」


「ラノベ……ね」

「うん、前の世界じゃけっこう読んでたし、“こう動けばそれっぽい”って思うと、不思議と動けちゃうんだよね」

「それで堂々としてたのか」

「うん。でも、あくまで“知識だけ”だから、実際の動きは今日が初! 過度な期待はしないでください!」


悠斗は苦笑した。その自信と照れ隠しの混ざった態度が、梓らしくて面白かった。


森の入口にたどり着いたふたりは、柔らかな日差しの中、深呼吸をして一歩を踏み出す。


「じゃ、採取スタート!……って言っても、まずは場所探しからだけどね」

「右手の斜面、って言ってたな」

「そうそう、薄紫の葉っぱと白い花が目印」


ふたりは、足元の草をかき分けながら、慎重に森へ入っていく。

梓は時おり立ち止まり、しゃがみこんで葉を確認していた。


悠斗も見様見真似で探してみる。

すると、ふと視界の端に、それらしき植物が目に入った。


「……これ、じゃない?」

「おっ、ナイス! 初ゲットいけるかも!」


梓の声に少し高揚が混じる。

地味な依頼。だけど確かに、自分たちは今“冒険者”として動いている。

その事実が、悠斗の胸の奥に、静かな火をともしていた。

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