表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/15

第8話「まだ友達じゃないけど」


冒険者登録を終え、ようやく肩の力を抜いた悠斗は、ギルドホールの片隅にあるテーブル席に腰を下ろしていた。


目の前には、相変わらず明るく元気そうな梓。

けれど、ギルドの受付や鑑定で見せた立ち回りは、思っていた以上に要領がよくて、ただの陽キャとは少し違う印象を受けた。


「ふぅ〜、一仕事終えた感じあるね」

「……何もしてないけどな、俺」


「いやいや、登録だけでも立派な第一歩でしょ。

それにあのスキル、すごかったじゃん。《存在薄弱》だっけ?めっちゃレアって言われてたじゃん」


「ありがたくねえけどな……」


悠斗は苦笑した。

何せそのスキルのせいで、ギルドに入ってから何人に「誰?」と言われたかわからない。


「まあ、でもさ」


梓が椅子の背もたれに寄りかかり、視線を天井へ向ける。


「ひとまず、これでスタート地点には立てたって感じだよね」


「……スタートか」


この世界で、自分は何ができるのか。

そもそも、なんでここに飛ばされたのか。

そんな答えはまだ、どこにもない。


けれど、今なら少しだけ――

ここでの時間を、悪くないと思える気がした。



「ねえ、そういえばさ」


梓がテーブルに身を乗り出す。


「ちゃんと自己紹介してなかったよね、私たち」


「あー……確かに」


「私は天川梓あまかわ あずさ。気づいたらこっちの世界にいて、それからなんとなく冒険者やってる感じ」


「日本人、なんだな」


「うん。まあ、ここでの生活にも慣れてきたけど、最初は結構パニックだったよ」

「俺も似たようなもんだ。綾瀬悠斗あやせ ゆうと。17歳。……こっちに来る前、俺って存在してたのかなって思うくらい、影の薄い学生だった」


「へえ……でもさ、そのスキル。きっと“そういう生き方”してたからこそ手に入ったんじゃない?」


「……皮肉だけど、納得はできる」


ふたりの会話は、ふとした拍子に共鳴した。

沈黙は気まずくなく、むしろ心地よく流れていった。



「でさ、あのさ」


梓が、少しだけ視線を泳がせながら言う。


「……あの、まだ友達って感じじゃないかもだけどさ」


「うん?」


「一緒に……組まない? パーティー。いきなり一人で依頼とか不安でしょ」


悠斗は少し考えて、それから頷いた。


「……お前が一緒なら、少しは安心できるかもな」


「よっしゃ決まり!」


梓はガッツポーズをしてから、ギルドの端末に向かって走っていく。

その背中を、悠斗は少し笑いながら見送った。


(変なやつだけど、なんか……頼れる)


そう思えた自分にも、驚いていた。



パーティー申請はあっさりと完了した。

ギルド職員からは「へえ、珍しい組み合わせですね」と微笑まれる。


「珍しい、ってなんだよ」


「ま、いろいろあるってことでしょ」


カードには《パーティー名:未定》と表示されていた。


「名前、どうする?」


「……あとでいいんじゃね?」


「だね!」



ギルドを出た帰り道、夕暮れの陽が石畳をオレンジ色に染めていた。


「そういえばさ、悠斗ってなんでこの世界に来たの?」


「……わからない。気づいたら、ってやつ。でも、今は――」


言葉を選びながら、ふと隣を歩く梓を見た。


「今は……一人じゃないから、ちょっとマシかも」


「ふーん。それ、嬉しいこと言ってるんだよね?」


「たぶん」


梓はくすっと笑い、足元にじゃれてきた黒猫に一瞥をくれた。



悠斗はふと横を見る。梓と、その隣をぴょこぴょこと歩く黒猫の姿。

「……まあ、梓もいるし、クロノもいるし」

口に出してみると、思っていたよりずっと、気持ちは軽かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ