第7話「君に見えている世界」
「うわ、でか……」
街の門をくぐった先に広がっていたのは、見上げるほどの石造りの建物だった。
四角いプレートには大きく《冒険者ギルド・ルレト支部》の文字。
「ね、立派でしょ。ここのギルド、支部の中でも有名なんだって」
梓が自慢げに言うが、悠斗は答えられない。
頭の中を巡るのはただ一つ――
(……ほんとに、俺、登録できるのか?)
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ギルドの中は活気に満ちていた。
剣を背負った者、ローブの魔法使い、重装の戦士、肩に鳥を乗せた弓使い……
ゲームの中でしか見たことがなかったような光景が、現実のものとして広がっていた。
「うっわ、なんかテンション上がる……!」
梓は目を輝かせながらカウンターに向かう。
悠斗はその後ろを、静かに歩く。
誰にも気づかれないまま。
(……やっぱ俺、空気すぎる……)
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「すみませーん、二人分の登録お願いします!」
受付嬢は、柔らかな笑みを浮かべて対応する。
「はい、お二人の名前と、生年月日、スキルの有無をこちらに――」
そこまで言ったところで、ふと手を止めた。
悠斗の方を見て、首を傾げる。
「……あの、もう一人の方は……?」
「え?」
「こちら、お一人でいらっしゃいましたよね?」
「え? あ、いや、彼……」
梓が焦りながら指を差すと、受付嬢はその方向を凝視する。
「……え、うそ……いる? ほんとに?」
「やっぱり……見えないんだ」
悠斗がぼそっとつぶやく。
(やっぱダメか……。存在感なさすぎて、登録どころか認識もされないなんて……)
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「彼、ちょっと特殊な体質なんです」
梓が前に出て言う。
「もしかすると、認識系に作用するスキル……探知や感覚に引っかかりにくい系統の」
受付嬢が戸惑いながらも真剣に耳を傾ける。
「なるほど……そういうスキルがあるとは聞いたことがありますが……」
「私、少しだけそういうのに気づきやすい体質で……。スキルかどうか、まだ正式に鑑定してなくて」
「でしたら、念のためお二人ともスキル鑑定を受けていただけますか?」
「もちろん!」
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ギルド奥の鑑定室。
水晶玉のような球体が据えられた机の前に、まず悠斗が座る。
「手をかざしてください」
言われるままに手を出すと、球体が淡く輝き始めた。
「……っ!」
受付嬢の目が大きく見開かれる。
「スキル:《存在薄弱》……知覚難易度、S+ランク……!」
「そんなランクあるのかよ……」
「これ……視覚・聴覚・気配認識、全ての知覚判定をすり抜ける仕様です。通常の感覚系スキルでも検出が難しい……これは、非常に珍しいスキルですね」
「……なるほどな」
悠斗は苦笑しながら頷いた。
(つまり、気づかれないのは……仕様ってことか)
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「では次、あなたも鑑定を」
今度は梓が前に出る。
手をかざすと、水晶が淡く光を放った。
「ふむ……スキル名、《感覚拡張》」
受付嬢が読み上げる。
「対象分類:感覚系。
五感の感度を広範囲に拡張し、微弱な気配や空間の歪みに敏感に反応するタイプ。直感的探知能力も高く、潜伏や認識阻害への耐性あり――」
「……やっぱりスキルだったんだ」
梓がほっとしたように笑う。
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「なるほど、お二人ともかなり特殊なスキルをお持ちですね」
受付嬢が感心したように言う。
「確かに、このスキルなら《存在薄弱》にもある程度反応できるわけですね」
「うん。なんとなくだけど、悠斗くんのこと“空気みたいだな”って思ってた。
でも空気にも流れとか温度とかあるでしょ? そういう感覚で、“いる”のが分かったの」
悠斗は思わず吹き出す。
「空気って……おい」
「えへへ、でも助けたでしょ?」
「……まぁな」
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ギルドホールへ戻ると、悠斗もようやく《冒険者ナンバー》を手に入れた。
番号だけが刻まれた黒いカード。それが、この世界での初めての“証明”となる。
「これで、冒険者デビューだね!」
梓が言うと、悠斗はカードを見つめながら小さく呟いた。
「ありがとう、梓。……本当に、助かったよ」
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その足元で、クロノがいつの間にか丸くなって眠っている。
梓はその姿に、ふと眉を寄せた。
「……なんか変な感じ。見た目は普通の猫なんだけど、
私の感覚でも、ちょっとだけ……引っかかる気配がある」
「気のせいじゃね?」
「かもね。でも、あの子もたぶん――」
梓はそれ以上言わず、クロノをひと目見て、微笑んだ。




